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異世愛者  作者: 猫護
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DAY1-2

「えー! 文字読めないの?」


マルカさんが家全体に届く落胆の悲鳴をあげる。


「はい全く」


このやり取りも久しいもので、教わっていないのだから無理はないと、あえて開き直って淡々と返事をする。マルカさんは頭を抱えると、体の向き180°回転させ床の埃が巻き上がりそうなほど大きな溜め息をした。


「詰んだ。これじゃ計画が台無しだ!」


「考えていた計画を頓挫させてしまったのは申し訳なく思いますけど、必ず習得してみせるので任せてください!」


「そう言う問題じゃない!」


落ち込んだ気持ちを発奮させようと、明るく振る舞ってみたのだが余計な憤りを与えてしまった。


「じゃあ先にこいつに実践的なことをやらせて、えーと彼女には基礎的な概念からやるか? んーー! めんどくさい!」


随分大きな独り言を発しながら頭のなかを再度整理しているようだ。実演のときの余裕はどこへやらまるで別人の様な慌てようは、見ていてだいぶ申し訳なくなる。


「よ、よし。とりあえず本を使って教えるのはやめます。で、君は魔力を使うことに体が全然慣れてないからそこから改善していきましょう。いいね」


「はい。で何を教えてくれるんですか?」


「教える? ふふふ」


何やら含みを持たせた笑い声を漏らしながら、テーブルに用意した教本と思われるものを抱えて二階に上がってしまった。文字が読めないと言う事実がかなり堪えたのかもしれない。


しばらくして二階から降りてくると、入って来るなよ、と一言告げて奥の部屋に入ると、手袋とマントを一着手にもって出てきた。


「あの、それは?」


「ふふふ、すぐに分かるさ。外に出るよ」


そう言って家を出ると、丘をどんどん下っていきカラススの町まで連れてこられた。


「買い物ですか?」


「違うよ目的地はもっと先」


カラススを横断し、そこから更に草原を進むと、小さな林に突き当たりそこで装備一式を渡された。


「冬でもないのに手袋ですか」


「そ、とりあえずそれ全部着けて。外套もしっかりね」


マントなんて一生縁のないものだと思っていたがまさかこんなところで羽織ることにはなるとは。手袋をはめようとすると指先に堅い何かが引っ掛かった。よく見ると手の真ん中辺りに小石が付けられている。


「マルカさんこれは?」


「ああ、術法鉱をすこしいじったものだよ気にしないで」


「はぁ」


あまり答えになっていないが、納得したふりをして両手に手袋をはめた。


「全部着けましたよ」


「よろしい。じゃ最後にこれを飲んで」


出し抜けに何かを投げられ、寸でのところでキャッチする。これは小瓶か。


「中身は何ですか」


「体にいいものだよ。さ、グッといっちゃって」


得たいの知れない液体を飲む趣味はないが、少なくとも毒ではなさそうなので、コルクをネジって一気に中身を飲み干す。


味はお世辞にも旨いとは言えそうにないが、飲んだそのときから体が熱を帯始めたのが分かった。


「準備が整ったところで今からこの木を倒してもらいます」


マルカさんの横にある人の腰ほどある太さの木を叩きながら言う。


「無理ですよ! ノコギリもなにもないのにどうやって」


「人の話は最後まで聞く。大丈夫、今着せたその装備にあらかじめ術が掛かってるから、あとは昨日みたいに木に向けて魔力を放つだけ。簡単でしょ?」


「でも、もしまた暴発したら?」


「その点も心配ご無用。外套がちゃーんと君の身代わりになるようにしてあるからね。それに加えてわたしもここで見てるし、安全面はバッチリよ。分かったら倒した倒した」


「分かりましたけど」


マルカさんのことを信用しない訳ではないが、やはり不安は拭いきれない。それに昨日のようにまた時間が掛かってしまうのは明白だ。それでも魔術の習得のために手のひらを木に向ける。


グッと腕に力を入れ、集中するように自分に言い聞かせようとする。が、驚いたことに力を込めた時点で腕からあの煙が姿を現したのだ。そして、昨日のあの瞬間を反復するように思い出すと、軽い音を立てて光の玉が一直線に飛んでいき、一瞬の内に木を抉っていた。


「こ、これって」


「ほら大丈夫でしょ」


そう、大丈夫である。だが、放たれた光は昨日のそれとは比べ物にならないほどお粗末なもので、抉れた部分もほんのわずかである。一体これはどういうことか。


「やっぱり気になるよね~、まあ簡単に種明かしをすると、さっき飲んだモノの作用で一時的に魔力の感度が上がってるのと、そしてもう一つはその手に付いてる石。それが魔力を放出するときにその一部を吸収してるってわけ。これなら上手く扱えない君でも安全に魔力を扱えるようになる。さ、どんどん撃たないといつまでたっても倒れないぞ~」


そうと分かれば話は早い。ようはたくさん撃ち込めばいいだけのことだ。撃つ度に視界が悪くなるのが厄介ではあるが、なるべく同じところに当たるように魔力を放っていく。


数十発を放ったところでやっと木が傾き、ミシミシと音を立てて倒れた。


「はいお疲れ~。じゃ次はこっちね」


「まだやるんですか?」


「当たり前よ。目的はあくまで魔力に慣れること、こんな短時間じゃなんの意味もないわよ」


それもそうだなと、次の目標にも撃ち始めるが、すぐに違和感を覚える。一発一発放つ毎に明らかに光の大きさが小さくなり、腕を上げているのも辛くなってくる。


「ほらほらどうした、まだ二本目だぞ」


「いや、なんか体が」


「弱音吐かない。魔力出しきるまでやってもらうからね」


「そ、そんなぁ」


文句を言っても帰してもらえそうにないので、渋々作業を続けるも、どんどん威力が落ちていき、しまいには抉ることさえ出来なくなってしまった。


「すいません、も、もう無理かもしれません」


「んー、一本と半分か。まあ初日にしては出来た方かな」


自分の耳を疑った。


「初日!? 今初日て言いました?」


「うん」


「てことは」


「そりゃ効果が現れるまで毎日やるからね。これが一番手っ取り早いし」


「で、でも今日はとりあえず終わりですよね」


「うんこれはね。さ、装備返して」


手袋を取ってマントを外して返すと、手袋に付けている石を外して木漏れ日に照らして中を覗くように見始める。


「うん上出来上出来。さぁ帰るよ!」


満足した様子で石をしまうと、足早に林を抜けて行ってしまう。そのあとをふらふらになりながらついていく。


「ちょっと待ってくださいよぉ」


それから何とか家につくとすぐに仕事を割り振られた。


「はいこれ」


「何ですかこのバケツは」


「何って、朝水汲んでないから町の井戸で汲んできて」


「ええ? 僕の状態わかってます?」


「分かってるわよ。ただの魔力切れでしょ、なんてことないから行っといでほらはやく!」


投げ出されるように家を追い出されると中で鍵を閉める音が聞こえた。


「汲んで来るまで開けないからねー」


「そんなぁ!」

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