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異世愛者  作者: 猫護
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ナンセンス

「魔力の質ですか?」


「そ、何から教えるにせよ君が持つ力を把握しないとやりようがないからね。上がってもらったところだけど、危ないから外に出ようか」


 てっきり座学でも始まるのかと構えていたので、実践的なことから始めてくれるのはありがたい。なんせどこの世界に行っても勉強というものは好きになれないからだ。


 一階に行くといやに早く降りてきたものだと彼女が寄ってきたので、これから外に出て魔力を確かめるのだと伝えると、暇潰しに付いていくと言う。


 外に出ると、家から少しはなれた見通しの良い場所まで行き遠くに箱を用意すると、その上に置かれた黄色い果物を今いる位置から破壊してみろと要求してきた。


「ここからって、投げる物もなければ手も届かない。一体どうしろって言うんです」


「簡単さ、君の持つ魔力を形にしてぶつける。質をはかるならこの方法が一番わかりやすいからね」


「でも、まだその形にする方法を教えて貰ってませんよ」


「大丈夫、体の中の力を打ち出すのを想像すればいい。そういった想像力も大事な魔力の質の一つなんだ。さ、頑張って」


 頑張ってと言われても、魔力をどう想像して捉えれば良いのか。以前体に力を込めたらなんとなしに魔力が出現したので、再現してみようと右腕の筋肉を力ませる。


 それから少しの間右手を地面と平行に伸ばし、丁度箱に指の先が向くように調節した。が、魔力の感覚どころか例の煙すら現れず、いまかいまかと期待の視線に満ちていた二人も、次第に急かしたててくるようになった。


「おら、ボーッとしてないでさっさと打ち出せよ!」


「う、うるさいな今やってるだろ」


「そんなんじゃ実戦になったとき真っ先に殺されちゃうぞ~」


「身体強化の方法教えてやっただろ。あれとおんなじようなもんなんだから別に難しくもないだろ!」


「ほらほら早くしないと日が暮れちゃうよ」


 くそ好き放題言いやがって、まだ昼にもなってないんだからそんなに早く日が暮れるわけでもないだろ。急かされるとその分だけ集中力が欠けていくし、どうやら教えを仰ぐ師を間違えたらしい。


 こういう練習の場合まずお手本を見せるとか、呪文の読み方を教えるのが定石だろ。


「今全く関係ないこと考えてるでしょ。邪念が有る限りいつまでたっても魔術の習得なんか出来ないよ」


「なら少し黙ってて貰えませんかね。そんなに囃し立てられたら出るもんも出ませんよ!」


「わかったわかった。黙ってみてるから集中して」


 よし、思い出せあのときのことを。ぐっと力を込めて血液の流れを感じるように、全身の血を一点に集めるように、そうしていると次第に右腕が熱を帯びてくる。


 もう少しだ、そのままそのまま。すると、じわりじわりとあの煙が姿を現し始める。多分魔力は溜まった、後は打ち出すだけ。合っているかわからないが一度手を強く握りしめる。拳の僅かな隙間がカッと熱くなる。


 今だ!


 その瞬間拳を開放すると、目の前の景色が強く湾曲し小さな太陽の様なものが現れた。で、これをどうすれば? そう考えたとき左半身に衝撃が走り、俺がいた場所にマルカさんが立っていた。


「伏せろ!!」


 その言葉に条件反射的に従うと、背中に強い痛みと、耳鳴りを伴う頭痛が襲った。何が起こったのかわからなかった。ただ顔を上げて確認する勇気はなく、どのくらいかわからないがとても長い間そうしていた気がする。


「もう、大丈夫だよ」


 そう言われて恐る恐る立ち上がろうとするも、頭痛が酷くふらついてしまう。それでも何とかマルカさんを確認すると、少し困った様な顔をしてそれでも笑顔を向けているので取り敢えずは大丈夫なのだろうと思った。


「全くやってくれたね。この外套気に入ってたのに」


 見るとさっきまで着ていたマントがない。それに、地面に無かったはずの大きなクレーターが出現している。


「こんな大げさに魔力使った割に、目的は未達成かよ」


 彼女が箱から転げ落ちた果物を拾い上げながらそう言った。これを俺がやったのか? 信じられない、だってこれじゃまるで爆弾でも落ちてきたみたいな有り様じゃないか。


「ま、怪我がなくて何よりだ。君の質もある程度測れたからね、良しとしようじゃないか」


「待ってください! 僕には何が何だか」


「ちゃーんと説明してあげるから、とりあえず中に入ろ」


 家に戻ると来たときと同じように席に座らせれる。困惑する俺をよそに、二人はよくある話だと言わんばかりに平気な顔をしてお茶を啜っている。


「で、早速君の総評だけど」


「は、はい」


「はっきり言って驚いたよ。今まで色んな人に会ってきたけど君みたいな魔力は初めて見た」


「そんなに?! それじゃあもしかして」


「うん、絶望的な魔力の感性だね!!」


「えぇ?!」


 すると、さっきまで澄ました顔をしていた彼女が、我慢の限界と言わんばかりにゲタゲタ声を上げて笑い始める。


「まあまあそんなに笑ってやるなよ」


「まっってくださいよ! あの穴って僕が作ったんですよね? なら相当な力が」


「いやーあれは無いね。魔力を出現させるまでの時間もかかりすぎてるし、何より自分で解放した力の操作も出来ず、挙げ句の果てに暴発。いくら威力が高くてもあれじゃ使い物にならないね。第一あんなに小さな果物一つ攻撃するのにあそこまで力む必要はない!」


「おまえ、あのまま突っ立ってたらそのまま死んでたかもな~。ありゃ盛大な自殺だぜ」


「そ、そんな」


 何だか納得いかないが、マルカさんが言っていることは全て的を射ている。


「ま、安心しな。これからみっちり鍛えて使い物になるようにしてあげるから」


「じゃあ次は何を?」


「そう早まるなって、多分もーちょっとしたらそんなこと言っていられなくなるから。ほらもうでてきた」


 マルカさんが俺の腕を見るので、つられて見てみると痙攣でも起こしたかのように右腕にが大きく震えている。それから急に体から力が抜けると座っていられなくなり椅子から転げ落ちてしまった。


「こ、これって」


「あんだけ一気に魔力解放したからね、それだけ体に負担がくる。ほらあなた足持って、ミスイ君を寝床まで運ぶよ~」


 そのまま二階まで運ばれるとベッドに放り投げられその場でバウンドする。


「多分今日はもう動けないからひとまずこれでおしまいね。ほんとは何か投薬してあげてもいいんだけど、まあ何事も経験だから今回はそれに耐えてね!」


 そんな非道なことがあるかと言ってやりたかったが、既に口も利けないほどに疲弊が回りきってしまっている。


「心配すんな、この前みたいにまた私が看病してやるからな」


 そう言って彼女はまた笑うとそのまま二人して部屋を出ていってしまった。


 ああ、そうか。この前のあの症状も魔力の使いすぎで起こってしまったのだと合点がいったが、今頃気づいたところで時既に遅し。結局そのあと何度か彼女が様子を見に部屋に入ってきたが、俺の姿を見るたびに笑うばかりで、看病と言うより暇潰しのようだった。


 このままだと、魔術の習得の前に死んでしまいかねない。

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