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異世愛者  作者: 猫護
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終幕は夜明けとともに

 少し前


(まだか! まだなのか!?)


 光に包まれながら銀鋭甲の攻撃をいなしていくザイウスだが、それが精一杯でもあった。


 なにせたった一人でこの巨体を相手にしているのだ、過度な魔力の放出にそう長い間体が耐えられるはずはなく、活動の限界はすぐそこまで迫っていた。


 それでもエルシアの準備が整うまでは死ぬことも逃げることも許されない。散っていった仲間への思いだけが彼の支えであった。


 しかし、その思いとは裏腹に、次第に光は弱まり終わりが近いことを示していた。


 一瞬の隙、消えゆく魔力に体が追いつけなくなったその瞬間、銀鋭甲の強烈な一撃を受け地面に叩きつけられる。


 底をつきかけていた魔力ではどうしようもなく、衝撃は鎧を貫き肺から空気が漏れ、まともに悲鳴を上げることすらできない。


「溜まった!」


 衝撃に揺れる頭の中でその言葉がともに駆け巡った。


「我が魔力をもって大地を揺らそう。我が魔力をもって砦を築こう。もう好きにはさせないわ! 奮起岩塞双法!」


 あたり一面を強烈な風が駆け抜けていき、まるで最初からそこにあったかのように巨大な崖がそびえたった。その崖は銀鋭甲の身体を双方から挟むように出現し一切の自由を奪った


 そして次の瞬間には崩れ去っていた


 銀鋭甲が破壊したのではない。エルシア自身である。


 動きを止めるとともに、強大な魔力の塊を打ち出し崖ごと銀鋭甲にぶつけたのである。


 魔力は光となり辺りを照らし、空に光の斜塔が建ったような光景を作り出した。やがて光は細い線となり徐々に消えていった。


「どうだ! まいったか!」


 まだ土煙で何も見えないうちに勝利を確信するように叫ぶ。そこへタイスが駆けつけてきた。


「どうやら間に合ったようね。大丈夫立てそう?」


「もー無理へとへと。三日は魔術使えないねうん」


「思ったより元気そうね。さ、奴の後始末に行くわよ」


 そう言って視線を銀鋭甲に向けるが、四つの足でしっかりと地についている姿がそこにあった。


「嘘、でしょ」


 先程の攻撃で鎧のような鱗にいくつか歪は与えられたようだがそれだけであり、ろくな魔力も残っていない状況でもうなすすべはなかった。だが、銀鋭甲の顔は遠く彼方を見据え、町のある方に向いていた。


 そのまま足元の瓦礫を押しのけると町に向かって歩き始めた。


「どうやら、万策尽きた様子だな」


 剣で杖をつくように歩きながらザイウスが近づいてくる。


「いや、まだだ。せめてこの状況を町まで伝えることができれば」


「被害を抑えられるかもしれない、けど私たちの足じゃ到底追いつけないよ」


「それなら、後方に移動させていたラジャがまだ使えるかもしれない。生憎こんなありさまなものでね、探すなら勝手にやってくれ」


「恩に着るザイウス殿。それと、彼女のことも頼む」


 ザイウスは早く行けと言わんばかりに力なく片手を振った。


                   *


 ほんの一瞬だけ体が軽くなり、そう感じた時には全身が痛みでしびれたようになり動かなくなっていた。


 何が起こったのかわからないが揺れる視界で必死に状況を飲み込み、自分が地面に伏していること、何かに吹き飛ばされたこと、そして今背中に彼女はいないことをようやく理解する。


 まるでコーヒーカップの遊具でめいっぱい回転した直後のように、ふらふらになりながらも彼女の姿を探す。その時、硬いものが当たって足を取られてしまい再度地面に伏してしまう。


 それは鉄パイプのような、光沢している棒状のものであった。それを支えにもう一度立ち上がろうとした時、奴の存在に気が付いた。


 まじかで見るそいつは視界に収まりきらず、昇り始めた日の光に照らされた鱗の一枚一枚の輝きが見て取れるほどである。


 ぐっと息を殺し、出来るだけ体を地面に押し付ける。存在に気づかれたとも思ったが、そうであれば今頃奴の胃の中であるはず。幸いにも奴は他のものに夢中らしく何かを吟味するように地面に視線を向けていた。


 その視線の先をそっと体の隙間から追い、思わず叫びそうになる口を必死に押さえつけた。


 彼女であった。


 まだ息があるのか微かに体が上下するのが見えるが、意識はなく奴の存在にも気が付いていない様子である。


 どうする、助けに行くか、どうやって?無理に決まってる。ここで駆け付けたところで二人仲良く殺されてしまうのが関の山である。


 俺はもう十分にやったさ、だからここでこんな結果になってしまっても悔いはないし、納得だっていく。だから、だから、ここで立ち上がる必要なんてない。


 そう自分に言い聞かせているはずなのに、棒を握る手の力が、立ち上がる足の力が抜けようとしない。


 バカ言うんじゃねえよ。良いわけあるか、ここまで勇気出してやってきたって言うのに結末がこんなんじゃあんまりだ。


 どうせ彼女がやられたら次は俺ってだけの話だ。ちょっと順番が狂うだけのこと。それだったらせめて奴に一矢報いてからでも遅くないはずだ。


 勝算なんてわからない、ただ足に魔力を流しただけであんなに効果があったのだから、ようはそれを全身にやってやればいいだけ、やらないよりましだ。なに、難しいことはない簡単だ。


 震える体とは対照的に面白いように魔力が巡っていき、すぐさまあの黒煙がにじみ出てくる。


 チャンスは一回。頭を垂れて狙いやすくなったところめがけてこの棒を突き刺す。ただそれだけ。


 一気に加速をつけて顔に向かっていく。今まで武器を持って敵に突っ込んでいったことなぞ一度もないので、テレビでみた槍投げを見よう見まねで再現してみる。


 流石に足音に気が付いたのか奴が顔をこちらに向けようとするが、ここまでくれば気づかれようが関係ない。


「一足遅かったな大馬鹿野郎!」


 自然と罵倒が口をついて出る。そしてそのまま体の加速と共に棒を精一杯の力を込めて投げつける。棒は自分で投げたとは思えないほど勢いよく飛んでいくが、狙いを大きく逸れて胸のあたりに突き当たると、大きな音を立てながら爆発した。


 その爆炎の中から何かが落下したのが見え、そのまま地面に突き刺さった。奴の胸のあたりを確認すると一部肌が露出しており、鱗が落ちてきたのだと分かった。


 奴はそんなこと気にもしないという様子で、雄叫びが鼓膜を突き刺し、まるで勝利を確信しているようである。


「たったの鱗一枚か」


 分かりきっていた勝負とは言え、いざ現実のものとなると己の無力を突きつけられているようで情けなくなる。


 結局自分がここに呼ばれた理由も、何も分からなかった。最早あがく気力もなく、ただじっと奴が迫ってくるのを眺めている。


 急に奴の光沢が強くなると、頭上が明るくなる。


「よくやった!」


 背後から女性の声が聞こえ、咄嗟に振り向くと馬にまたがった誰かが向かってきている。


「すべてを貫け! 孤光!」


 馬上がカッと光ると次の瞬間には光の線が頭上を通り、奴の身体に突き刺さり、それまで進めていた歩みを止めて見せた。


 そして、その線が消えると、静かに膝をつきそのまま体を横たえ、大きな鼻息をたてそれ以上動かなくなった。


「けがはありませんか?」


 馬上から降りてきたのはタイスさんであった。見知った姿に会った途端途足の力が抜けその場に倒れてしまう。


「大丈夫ですか?」


「へ、平気です。そうだ、俺より彼女が!」


 ふらつく足に喝を入れ無理矢理に立ち上がると、頼りない足取りで彼女のところに向かおうとする。それを見かねてか咄嗟にタイスさんが肩を貸してくれた。


 彼女のそばまで行き、しゃがみこんで体に手をかけようとして肩に激痛が走った。


「ぃったあい!」


「どうしました」


「み、右肩が急に痛んで。さっきまで平気だったのに」


 話している間にもジンジンとした痛みがだんだんと熱を帯びて強くなっていく。もう一度肩に力を入れてみるも、肩から先はピクリとも動こうとしない。


「私のことはいいので彼女を頼みます」


 強がってみたものの、痛みが全身に広がりつつあり、異常をきたしているのは明白である。


 タイスさんは彼女の息を確認すると胸に耳を当てて心音を確かめ始める。


「とりあえず意識を失っている以外は異常はなさそうです。無事な天幕まで運ぶのであなたもそこで手当てを」


 そう言って彼女を抱きかかえた。

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