蝉
朝、目が醒めると馨はまだベッドで寝ていた。
私は馨の服も一緒に洗おうと、洗濯機の前に立っていた。
馨の仕立ての良さそうな服は引っ掻き傷で空いた穴や猫の毛が付いていた。
その服には少量の血液も付着していた。
馨は暴力でも振るわれていたのだろうか。
私は血液を洗い落とし、洗濯機を回し朝食の準備をした。
朝食が出来上がる頃に馨は起きてきた。
「おはよう。」
眠そうな声で私に言う。
「おはよう、良く寝ていたわね。」
「うん、お姉さんの匂いが心地よかったよ。」
「そう。
朝食が出来ているから、食べなさい。」
今日は土曜日だ。
会社は休みのため、馨の為に時間を空けられる。
「ありがとう!
頂きます!」
そう言って、馨はお行儀良く食べ始めた。
「ねぇ、お姉さん。
昨日食べた炒飯のお肉ってなんの肉?」
「豚肉よ。
それがどうしたの?」
「そうなんだ。」
つまんないの。
ボソッと馨は呟く。
私はニュースを見ていた為その呟きには気づかない。
「昨日、貴女の服を洗っていたら血が付いていたのだけれど、もしかして暴力でも振るわれているの?」
ニュースを見ながら言う。
「うん。」
馨はか細い声で言う。
やはり、そうだったのか。
可哀想な馨。
「私に出来る事なら何でも言ってね。」
「ありがとう。」
馨はまた、泣きそうな顔になりながらそれを取り繕うように笑いかける。
「いいのよ。」
外では、蝉がミンミンと騒がしく鳴いている。
まだ夏真っ盛りだ。
「蝉の声うるさいね。」
「そうね。
テレビが聞こえにくいから少しは静かにして欲しいわね。」
私はニュースを見ながらそう答える。
「お姉さんは蝉が居なくなれば嬉しい?」
「うーん、まぁそうね。」
そう言ったものの蝉を消す事なんて出来ない。
夏の風物詩とも言えるし、本当にいなくなってほしいとは思わない。
「そっか!
じゃあ、僕出掛けてくる!」
「え、どこに行くの?」
「内緒!
お姉さんにはまだ秘密だけど、楽しみにしてて!
夕方には帰ってくるから!」
そう言って馨は出掛けて行った。
「馨?」
そう声を掛けた時には馨はもう既に家を出た後だった。
どこに行ったんだろう?
まぁ、帰ってくるみたいだしいっか。
私は、その日の内にやっておくべき仕事や家事などをして休日を過ごした。
夕飯をつくっていると、馨が帰ってきた。