少年
カチッ
私は煙草に火を付ける。
ベランダで夏の夜空をみながら煙草を吸う瞬間が至福の時間だ。
夏の昼間は暑いし蝉がミンミンと五月蝿い。
しかし、夜は蝉も寝ているようで静かだ。
夏の夜空を見上げながら煙を吐く。
彼氏は煙草なんて止めたら?なんて言うけど、それは無理な話だ。
この瞬間の為に生きているようなものなのに。
夜の中で私が闇と一体化して、誰でも無いような気分になれる。
唯一の煙草が私の存在感を示す。
こんな快感を知らないなんて、彼は可哀想だ。
ふと、下から視線を感じた。
誰かが私を見ている気がした。
見下ろすと少年がポツンと立っている。
何をしているわけでも無い。
ただ、そこにいるだけ。
気にはなったが、仕事が残っていたので部屋に戻った。
深夜1時、そろそろ寝ようと思い電気を消そうとした。
しかし、先程の少年が気になってきた。
まだ居るのだろうか?
私はベランダに出て下を見下ろした。
まだ居た。
私は好奇心に負け、外へと出た。
「そこで何してるの?」
少年に声をかけた。
少年は少し驚いたようだった。
「何もしてないよ。」
「じゃあ何故ここにいるの?」
「帰る場所が無くて彷徨ってたらここに居た。」
暗くて、顔ははっきり見えないが体格からするに中学生くらいだろう。
「どうして帰る場所が無いの?」
「パパとママに要らないって言われたから。」
少年は目を伏せて呟いた。
胸が痛くなった。
中学生はまだまだ子供だ。
酷い事を言う親も居るもんだと思った。
そう考えていたら思わず言ってしまった。
「私の家にこない?」
「いいの?
本当に?」
声のトーンが少しだけ明るくなった。
知らない少年を家にあげるのは抵抗はあったが、それよりも可哀想に思えてきた。
私も家庭の事情が良くなかったため、気持ちが痛い程分かる。
「ええ。こっちよ。」
少年を私の家にあげた。
「ありがとう。
お邪魔します。」
「ゆっくりしていってね。」
私は少年に微笑みかける。
暗闇の中では顔がよく見えなかったが、整った顔立ちをしている。
体格は色白で、私よりも身長は低いし細い。
身体も傷だらけのようだった。
「うん。」
「君、名前は?」
「青山 馨。」
「カオル君ね。
歳はいくつ?」
「13歳。」
やはり、中学生だった。
まだ、声変わりもしていないようで、高くか細い声で答える。
「私は、高橋 夏樹。
よろしくね。」
「よろしく。」
私が手を出すと、少年ビクビクしたように手を差し出す。
握手した手が震えているのが分かる。
この子はどれ程大人に酷い目にあってきたのだろう。
この小さな身体でどれほどの辛い現実と闘っていたのだろう。
そう考えると、私は泣きたくなってきた。
後になって思う。
これは大きな間違いだったのだ、と。