幼馴染二人から告白され困惑するも勢いで3Pに持ちこもうとする女の子の話
細かいことは気にせずに読んでやってください。
「私は、実花のことが好きだっ!」
放課後、体育館裏に呼び出された私は、いきなり女の子から告白を受けた。
名前は陽真莉。
ショートヘアと適度に焼けた肌を見て分かる通り、アクティブな体育会系少女だ。
元陸上部、現帰宅部。
そして――私と小学校の頃から仲良しな、いわゆる親友ってやつだった。
好きか嫌いかで言われたら、もちろん好きだよ?
うん、それは間違いないんだけど、わざわざこんな場所に呼び出したってことは、あれだよね、これ。
あの、いわゆる、告に白って書いて告白ってやつ。
でも一応確認しとこう。
「それは、ラヴの方で?」
「激ラヴ」
激と来たかぁ~。
これはもう紛れもないラヴですな、うんうん。
……どうしよっか。
えぇ、いきなり親友に告白されるとか完全に予想外なんですけど。
だいたい私の名前は実花だし、つまり女だし。
「別に特別なことをしたいってわけじゃないんだ。今までどおりに一緒にいてくれればいい」
「それだけ?」
「できれば週末は二人きりでデートに行きたい」
「本当にそれだけ?」
「三回目のデートでキスがしたい」
「まだあるよね?」
「五回目のデートで学校から二駅離れた場所にあるラブホに連れ込みたい」
「プランが具体的すぎる!」
めっちゃやる気だよこの子! 性的に見ちゃってるよ私のこと!
ってことはあれだよね、今さら友達に戻ろうとか言っても無理なやつだよね。
お友達から始める……いやだめだ、すでに友達じゃん、つまり始まっちゃってる。
「とりあえず、保留でいい?」
「……それでも、いい。でも必ず答えて欲しいんだ」
「ぜ、善処します」
「それやらないやつ」
「一週間内には……」
「わかった、週明けまでな」
去っていく陽真莉。
取り残される私。
どーしよ。
マジでどーしよ!?
「いわゆる百合ってやつじゃん……リアル百合じゃぁんっ!」
叫ぶ私。
そこで降りてくる天啓。
神様マジゴッド! そうだよ、一人で悩む必要なんて無いよ!
相談したらいいんだ、もう一人の親友――小百合に!
◇◇◇
そんなこんなで翌日の放課後、私は小百合を人気のない教室に呼び出した。
「な……なにかな、実花ちゃん」
なぜかもぢもぢして頬を赤らめてるけど、この子はいっつもそうだ。
小百合は私の小学校からの友達で、今までずっと同じクラスだった。
中学二年になった今もそれは変わらなくて、たぶん死ぬまで一緒だねー、なんてふざけてよく話す。
そして小百合自身も、陽真莉と仲良くって……ってあれ、相談するのはいいけど、それ陽真莉のことを小百合に打ち明けるってことになるよね。
マズいんじゃない?
いくら口の堅さに定評のある小百合とはいえ、それを一方的に話しちゃうのは。
「うぅーん……」
ここに来て悩む私。
しかし、そうなると小百合にどう言い訳したものか。
「実花ちゃん?」
黒髪ロングがふわりと揺れて、お花みたいに甘い香りがする。
この子、相変わらず上品っていうか、よくこの見た目で野郎に引っかからないよね。
むしろ高嶺の花すぎて手を出せないとか? はたまた私らとべったりすぎて近づけないとか?
「小百合はさ」
「うん」
「かわいいよね」
ぼふんっ、と一気に赤くなる小百合。
激マブじゃーん!
ほんと可愛すぎる、うちで飼いたい。
よし、このまま小百合を褒め殺してこの場をごまかそう! これなら行ける!
「上品だし、いい匂いするし、同じ女からみても魅力的だなあって思うもん」
「そ、そんなことないよぉ……」
へっへっへ、嬢ちゃん、いい具合にてれてれしてやがるじゃねえか……。
こうなったらもっと照れさせてやるぜいぇーい!
「性格だっておとなしくておしとやかで、守ってあげたくなるっていうかさ。こんな女の子が親友で私は幸せ者だよね!」
「実花ちゃん……あの、わたしも」
「んー?」
「わたしも、実花ちゃんが親友で、幸せです」
なにこの子ー! いきなり敬語になっちゃったんですけどちょっとー!
はあぁ……癒やされるわぁ、このままお持ち帰りしたいわぁ……。
元々は、小学校のときにいじめられてた小百合を助けたのが仲良くなった発端なんだけど、それにしたって私にはもったいないぐらい出来た親友だ。
成績はトップ、料理は上手だし、運動はちょっとあれだけどそれもチャームポイントって感じで。
よく私にもお菓子を作ってきてくれて、休日はわざわざ家まで届けてくれたりしてね。
一度はそれを伝えておきたかったし、今日はいい機会だったと思おうじゃないか! 陽真莉のことは解決してないけども!
「今日は、それを伝えたかったの。わざわざ呼び出しちゃってごめんね? じゃあ帰ろっか」
私は強引に誤魔化し、話の流れを変え、颯爽と部屋から出ていく。
よっしゃ完璧、これでごまかせた!
……と、思ったんだけど。
「実花ちゃんっ!」
いつもよりハイトーンでボリューム大きめな声が、私を呼び止める。
どうしたの、そんな素敵な声を出して。
歌姫でも目指す?
なんてアホなこと考えながらスマイルで振り向いた私は、いつも以上に顔を真っ赤に俯く小百合の姿を見た。
しかもスカートを両手でぎゅっと握っちゃったりして、なんかまるで好きな男の子にでも告白するみたいじゃない?
「わ、わたしね……実花ちゃんと親友で幸せだと思ってる」
「私もだよ?」
「でも……っ、それだけじゃ、足りないの……」
「なるほど、じゃあ今日から超親友にグレードアップだね!」
「友達じゃ……なくて」
んん?
あれ、この流れは……まさか。
「恋人が、いいっ」
ズキュゥーンと撃ち抜かれる私の心臓。
マジか、小百合もそうだったのか。
なに、私ハーレム系女子だったの? しかも相手は女の子ばっかり? 聞いてないよマイゴッド!
てか、本当に、え、本当に言ってるの?
「それって、ライクじゃなくてラヴ?」
小百合は頷く。
いや、恋人つってんだからそれしかないでしょ私よ。
「どこまで行きたいラヴ?」
語尾みたいになってんぞ私よ。
「最後まで行きたいラヴ」
小百合にも移ってしまったぞ私よ。
「最後っていうのは、キス……の先ラヴ?」
「うん、先ラヴ」
先ラヴかぁー!
つまりあれね、小百合の潤んだ瞳は、私を性的に見てたわけね。
椅子に座ってスカートを太ももの下に入れるモーションとか、陽真莉と二人でジロジロっとジロっちゃってたわけね。
胸元をパタパタなんかさせたらもう、顔を真っ赤に……って心当たりあるなぁ、確かにそんなリアクションだったわぁ。
というか、思い出せば思い出すほど、『なんで今まで気づかなかったのミー!?』ってな感じで証拠が出てくるわ出てくるわ。
裁判で言うところの冒頭陳述で裁判長が有罪を言い渡しちゃうぐらい証拠が揃ってる。
諦めなくてもここで試合終了です……!
でも告白を受けるのはこれで二度目、いわば私は告白を受けるプロ!
ここで変に動揺してどもったりはしない、落ち着いて保留すると伝えなきゃ。
「あ、あの、あのね、わ、わわ、私は……その、えっと」
めっちゃ動揺してますやん!
「落ち着いて実花ちゃん」
そうだよ落ち着けよ私!
一旦深呼吸、すなわちディープブレス。
あとこういう時は素数を数えるといいって聞いたことがある、数えてみよう。
一! 十! 百! 千! 万! 億! よし落ち着いた!
「返事は保留でいいでしょうかっ!」
勢いで言い切る私。
「わかった、待ってるね」
承諾してくれる小百合、さすが優しい。さすさゆ。
「でも、ちゃんと返事はしてね」
「善処します」
「それ返事しないやつだよね……」
「一週間内には」
きちんと期限を明言することで、相手の信用を得るのである。
ちなみに一週間という数字に根拠は無い。
◇◇◇
そんなこんなで告白から六日が経過しました。
時の流れが早すぎる。
なんか青いロボットとか机の引き出しから出てきて助けてくれませんかー! と思って開いてみるけど、出てきたのは陽真莉や小百合との思い出の品の数々。
さらに追い詰められてるぞ私!
「うーん……うーん……」
机に突っ伏し、漫画に出てくる悪夢にうなされる人みたいにうなる。
いろいろとおふざけてみたけども、これ割と深刻な問題よね私。
ここ何日か、告白された後だってのに、陽真莉と小百合はすっごくナチュラルに私と接してきた。
スマホで近所に出来たお菓子の店の話をしてみれば、いつもみたいに顔をくっつけて、
『ここ、今度の放課後に行かないか?』
『うんうん、わたしも二人と一緒にいきたい』
『食べたいものが多すぎるんだよなぁ』
『じゃあちょっとずつ食べさせあいっ子しようよ』
『いいなそれ!』
とかいつもと変わらない会話をしてくるし。
しかしよくよく考えてみると、私たちの距離ってこんなに近かったんだね。
毎週のようにお泊りしてたし、お風呂とかナチュラルに一緒に入るし、泊まったときも同衾だし、むしろ離れてる時間の方が少ないぐらいで……以前からめっちゃ仲良かったのかもしれない。
そりゃ他の知り合いに茶化されるわけだ。
でも……そんな幸せな日々が、終わりを迎えようとしている。
どちらかを選べば、どちらかを捨てなければならない。
そんなの耐えられるはずがない。
いや、ひょっとすると陽真莉や小百合とのラブラブチュッチュハッピーデイズに脳を溶かされて『みかしあわせなのー、あたまぱっぱらぱーだからほかはわかんないのー』みたいに幼児退行して幸せになっちゃう可能性はあるけど、それはそれで嫌だ!
私は私というアイデンティティティティーを捨てたくない!
それに、何より……告白を断るとか、そんなシリアス時空に投げ込まれるのは……無理……!
「悩んでいるようですね、実花」
悩む私の耳に、どこからともなく、声が聞こえてきた。
「わたくしは百合神……少女たちの尊いいちゃいちゃを見守りたいもの……でもたまにはこじれて欲しい」
つまり神を名乗る変態だ……!
「あなたは誰も傷つけたくないのですね。気持ちはよくわかります、わたくしも負けヒロインが確定した幼馴染をよく二次創作同人で幸せにしてあげていますから……」
それとこれとは話が別だと思う。
「ですが負けヒロインばかりを優遇していると、こんな声が届くのです。『逆に勝ちヒロインがかわいそう』……知ったことかよ! わしゃあこのカップリングが好きなんじゃい! だいたい勝ちヒロインは本編でクソほどいちゃついとるやろうがい! やおい棒突っ込むぞこんちくしょうめ!」
百合神様やべーやつだこれ。
「そのあとはもう戦争でした。リプ欄でお互いに罵り合い、戦争はダイレクトメッセージにまで及び、そして……互いにアカウントが凍結され、無事に戦争は終結したのです」
それは無事だったの? 負った傷がお互いに深すぎない?
「ちなみにわたくしはサブアカウントを使っていたので、まんまと相手だけを潰すことに成功したのです。相手も同じジャンルで活躍している絵師だったため、ライバルが消えてわたくしは清々していました」
クズすぎるだろこの神!
っていうかうちの姉!
「姉さん、神を名乗るには心中が醜悪すぎるよ」
椅子に据わったままぐるんと回った私は、どてらを纏い、度の高い眼鏡を無駄にくいっくいっと持ち上げる姉の方を見た。
ドアフレームに体を預けてドヤ顔を披露する姿は、なんかやたらムカつく。
「神だからこそ醜悪なのよ、ゼウスとか一体何人孕ませてんのよ」
「いや知らないけど」
ちなみにうちの姉、百合同人業界じゃそれなりに有名な漫画家らしい。
繊細でリアルな心の機微を描くことに関しては右に出るものは――って言ってて胡散臭いけど、そんな漫画を書いてるんだとか。
恋人の一人も連れてきたことないくせに繊細でリアルな心の機微ってなんなんだ。
っていうかリアルとは一体。
ちなみに年齢は22歳、ニートです。
料理は下手、生活能力も皆無、漫画以外で唯一いいところと言えば胸がでかいことぐらい。
それも猫背にどてらで台無しだけども。
「隣の部屋から壁に集音器を当てて話は聞かせてもらったわ」
「盗聴だよそれ」
「陽真莉ちゃんと小百合ちゃんの二人に同時に告白されたみたいね」
私の話を聞く気はゼロである。
「悩む気持ちはよくわかるわ。実花にとって二人は、小学校からフラグを立ててきた大事な友人ですものね」
「フラグは立ててないから!」
「天然ジゴロのあなたにはわからないでしょうけど、私の百合脳はいずれこうなることを読んでいたわ」
「いや、天然ジゴロってそんなわけ……」
「あるわよ」
マジトーンで断言される。
百合脳怖い。
でもまあ、そうだよね、じゃなきゃ二人同時に告白されるなんてことありえないはずだし。
つまり私が無意識のうちにやらかしちゃってたってことで。
「そんなあなたに天の助け、これから先に役立つバイブ……もといバイブルを与えましょう」
そう言って、姉さんは私の机の上に一冊の本を置いた。
するとおもむろにその本の上に手を置き、小刻みに振動させる。
「ヴィィィィィィィン!」
「わざわざ手と口でバイブ感を演出しなくていいから!」
叫びつつ、本のタイトルに目を通した。
『月刊百合えっち 3P特集号!』
こんなこったろうと思ったよ!
「ファッーク!」
私は姉さんを罵倒しながら本を突き返した。
「そうよ、二人とファックしなさい!」
しかし効果は無かった。
さらにめっちゃ下品である。
「リアル百合3Pができるチャンスなんて滅多に無いわ、これを逃してどうするのよ実花!」
「どうもしないよ! 普通に友達として付き合ってくよ!」
「それが出来ないから困っているのではないの? だったらもうできることなんて一つしかないわ! いざゆかん、百合狭間!」
どこだそれは。
「そんな簡単に行くわけがないじゃん」
「神同人絵師が言うのよ? 間違いないわ」
「神を自称しないでって。というかまだ同人でしょ? プロじゃないんでしょ?」
私がそう言うと、姉さんは明らかに調子に乗って「ふっふっふ」と笑い始めた。
あ、これ絡んだらめんどくさいやつだ。
でもここは私の部屋だ、他の逃げ場などどこにもない。
「まだ実花には言ってなかったわね。私、商業デビュー決まったの!」
「えっ、すごい、おめでとう!」
「えへへ……ありがとー」
普通に褒めてしまった。
そして普通に照れさせてしまった。
いやだって素でびっくりしたし。
「雑誌?」
「うん、百合王妃って雑誌なんだけどね」
「何そのハーレクインの百合版みたいな雑誌名!?」
「新創刊だから知らなくても仕方ないわね。ちなみに出版社はニ迅社」
「全体的に二番煎じ感がすごい!」
「でもこれで私もプロ作家、つまり言葉の説得力も増すって寸法よ!」
ぐぬぬ……そう言われると認めざるをえない。
3Pするしかないの?
いや、でも三人で一緒に過ごすには、両者の告白を受け入れるしかない。
それか、どちらも断るか――ううん、そんなことできるわけないじゃん。
だったら、最初から答えは決まってたんだ。
「わかった……姉さん、ありがとね。私決めた、二人どっちとも付き合う!」
「えっ」
「3Pも頑張る! この本ありがとう、勉強させてもらうから!」
「えっ、いや、え、ちょっ、本気のパターン? いや待って、冷静になって、普通に考えてそんな無理だし私もジョークのつもりで……」
「絶対にやってみせるからね!」
姉さんの手を掴んで、ぶんぶんと振り回す。
なぜか姉さんは戸惑ってたけど、たぶん気のせいだよね!
よーし、待ってろよう、陽真莉、小百合! 二人まとめて、絶対に幸せにしてやるんだから!
◇◇◇
そんなことで翌日の放課後、私は二人を誰もいない教室に呼び出した。
陽真莉と小百合は、なぜか二人きりではなく、三人でいることに戸惑っている様子。
「なあ実花、この前の返事を聞かせてくれるんじゃないのか?」
「えっ、陽真莉ちゃんもなにかの返事なの? わたしもだよ」
「まさか……小百合も、実花に……」
「陽真莉ちゃん、も?」
ここでお互いに衝撃の事実を知ってしまう。
互いに示し合わせてタイミングを合わせたわけではなかったんだね。
「二人にほぼ同時に告白されたから、一緒に返事をしようと思って」
二人の喉がごくりと動く。
「つまり、どっちかを断って……」
「どちらかを、恋人にするってこと?」
不安げな表情。
こんな顔、私の前じゃ見せたことなかったのに、まったく恋ってのはほんとに厄介なもんだよ。
「私、この一週間ずっと考えてた」
半分ぐらいは目を背けてたけど。
「そして、一つの結論にたどり着いたの」
姉さんのアドバイスまんまだけど。
「実花、それは……」
「どんな結論、なの?」
私は目を閉じて、大きく息を吐き、いつになくシリアスな表情を作る。
慣れない顔つきに表情筋が引きつって辛いけど、これも雰囲気作りのため。
そして口を開き、私は二人に告げた。
「三人で、お付き合いしませんか!」
高らかに教室中に響いた私の声。
「……」
陽真莉はぽかーんと固まり、
「……?」
小百合はこてん、と首を傾ける。
よし作戦どおり。
こっから、二人の頭が混乱してる間に畳み掛ける!
「私ね、すっごく考えたの、どうやったら二人を困らせない方法があるだろう、って。でもね、どっちかを選ぶってことは、どっちかを傷つけるってこと。かといって両方を断れば全員が傷つかないって、そうはならないじゃない?」
その場合、たぶん全員が傷ついて終わる。
そんで関係がぎくしゃくしちゃったりするんだ。
んあー! 絶対にそんなの耐えきれない!
「っていうか冷静に考えたらね、なんで一方的に告白された私がこんなに悩まなくちゃならないの? って思ったの。だって私としては三人わいわいやって一生仲良くできてればよかったわけだし、恋愛関係とか考えたこともなかったからさ。だから、うん、私も三人でお付き合いがかなり無理があるってことはわかってる。でも二人にも、私に譲歩する部分が必要だと思ったの。だっていきなり告白してくるんだもん! つまり私の要求を飲むことでイーブン、関係は対等。そうは思わない?」
私は陽真莉に問いかける。
しかしトーゼン、簡単には納得してくれない。
「いや、それはおかし――」
「陽真莉もそう思うよね!?」
「え、だって三人って、普通は恋人って二人で……」
「陽真莉は、私と付き合いたくないの?」
「付き合いたいよ、好きだもん」
だもんだって。
あのボーイッシュで全国的に有名な陽真莉がだもん、だって!
きゃわいー! おつきあいしたーい!
「小百合を傷つけたい?」
「傷つけたくない」
「だったら三人で付き合うしかないよね?」
「えっと……そう、なの……か?」
「そうだよ! 絶対そうだよ! それ以外にありえないよ! これが最高の選択だから!」
「……そう、なのかもしれない」
よっしゃ落ちた!
なんか洗脳みたいだけど、納得させりゃあこっちのもんよ!
次は小百合。
こっちはちょっと落ち着いてるから手強いぞ。
「小百合もそう思うよね?」
無言で首を横に振る。
私は彼女の肩を掴み、顔を近づけ、再び問いかけた。
「そう、思うよね!?」
「ち、違うよ……恋人は、二人でなるものだもん……」
「なんで?」
「へ?」
「なんで恋人が二人だって決まってるの?」
「それは……その、二人じゃないと……できないことが、たくさんあるから」
「そんなもの、無いから!」
断言する。
もちろん根拠は無い。
「あるよ、その……キス、とか」
「交代しながらやればいい」
「じゃあ……え、えっち、とか……」
うっひょー! 小百合の口からえっちとか、もう犯罪じゃんそれ!
百合警察に逮捕されて百合裁判所で百合尋問されるやつじゃんこれ!
「これは二人じゃないとできないよね?」
首をこてんとする仕草とかもう犯罪的に可愛いよ。
これはもう、陽真莉と一緒にまとめて面倒を見るしかない!
「三人でもできるよ」
「できないよぉ!」
「できるんだよ……三人でくんずほぐれつ、それが3P」
「さん、ぴー……」
放心状態でオウム返しする小百合。
なんだか、無垢な少女にいけないことを教え込んでるみたいでゾクゾクしてきた。
いや、“みたいで”っていうかそのものじゃない? そのものだよね?
……うん、今は深く考えないようにしよう!
「小百合は、陽真莉のことは好きじゃないの?」
「陽真莉ちゃんのことは、好きだよ」
「陽真莉も、小百合のこと好きだよね」
「そりゃまあ、好きだけど……実花に向ける気持ちとは違うってい」
「ほら、好きなら三人で一緒にいるのが一番いいんだよ!」
「いや、だから小百合に向けるのとはちが……」
「一緒にいるのが、一番いいの!」
見事なゴリ押しである。
でも、そうじゃなきゃ、絶対にお付き合いなんてしないから。
それが私にとっての大前提。
三人で一緒にいられるんなら、それが友達だろうと恋人だろうとどうでもいい。
なんだって、きっと楽しいに決まってるし。
「というわけで、今日から恋人としてよろしくね」
二人は釈然としない表情をしているけれど――
「……うん、よろしく」
「よろしくね、実花ちゃん」
どうにか、納得してくれたみたい。
こうして付き合うことになった私たち。
でもその生活ぶりは大して変わらなくて、変化と言えば、以前よりもべたべたすることが多くなったぐらいかな。
心配してた3Pの機会なんて全然こなくて、それどころかキスもまだで――
「なあ実花」
「ねえ、実花ちゃん」
なーんて、あっさり終わるはずもなく。
「恋人同士になったんだから、まずはそれっぽいことしないか?」
「このままだと、友達の延長線上みたいな関係になりそうだもんね」
二人は、私ににじりよってきた。
後ずさるも、ガタンと机にあたり、逃げ場を失う。
「ま、待ってよ二人とも、階段は一段ずつ上るものだよ?」
「あたしは三段ぐらい一気に上る」
ちくしょうボーイッシュ!
「でも、まだ、手もつないでないし……」
「普段からつないでるよ」
シット! そうだった!
「友達としては、もう行くところまで行ってるんだよ」
「だったら、恋人になってやることなんて一つしかないよな」
二人の手が私の体を這い回る。
くすぐったい。
体が熱い。
あぁ、でもなんか、恋人になったと思うと、二人の顔も以前とは違う意味で可愛いと言うか、色っぽく見えてきて……うあ、顔が近い。
これは、もう、逆らえないやつだ。
目を閉じて身を預けると、最初に小百合の唇が、そして次に陽真莉の唇が、私に重ねられる。
潤む瞳に、バクバク高鳴る心臓。
これで終わり……と思ったら、小百合の手がブレザーのボタンに伸びてて、陽真莉はスカートを脱がせようとしてて。
いや、それはさすがに、三段っていうか五段ぐらい一気に上ってるし、それだともはや階段っていよりは跳び箱みたいな――
「にゃあぁぁぁぁぁぁああんっ!」
その日、誰もいないはずの教室に、私のネコみたいな声が響き渡った。
というか私がネコだった。
にゃんにゃん。
◇◇◇
それから恋人になった私たちの関係は、劇的に変化した。
スキンシップは激しくなり、休み時間ごとにトイレに連れ込まれるし、昼休みなんて屋上でもういろいろされてご飯を食べる時間すらなかったりして。
放課後は必ず誰かの家におじゃまして、三人でいちゃこらする。
そのまま泊まることもしばしばあって、元から仲がよかったもんだから、親たちはそれを誰も咎めない。
エスカレートしていく関係。
しまいにゃあ、小百合の財力を利用して教会を貸し切り、ウェディングドレスで挙式をあげてみたり。
「ど、どうだ。こういうのあんまり似合わないよな?」
「私も……あんまり自信ないかも、実花ちゃんがかわいすぎるから」
何言ってんだよふたりとも世界一可愛いに決まってんじゃんかよう!
さらに夏休みには、海岸沿いの別荘で三人ただれた生活を送ってみたり。
「今日は外に出たくないな」
「それ昨日もだったよ、陽真莉ちゃん。でも私も賛成だな、実花ちゃんはどうする?」
そんなセクシーな格好で迫られて断れるわけがないじゃんかよー!
あと、高校も一緒だったから、これを境に三人で暮らし始めたりして。
もうこうなると抑えがきかなくて、もう学業がメインなんだかにゃんにゃんがメインなんだかわからなくなってきた。
でも、まあ……なんだかんだで幸せだから、これでいいのかな。
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