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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
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! 1章EX 欠落姉弟の離別日和(バイバイデイ) 2


「こんのドアホゥがぁあ!」



 死書の間。

 私、クロウ、アッカー、キーロ、そしてムラクモのウルカスの計5人。必要な者が全て中に入り扉が閉まると同時に、クロウへ叱責の声を上げる。



「クロ坊!お前がどれだけの事をしたか理解できるまで、まずそこに座って黙って聞いとれ!」



 そう声を荒げながらも、扱いが雑にならないようにそっと紙束を持ち上げた。本ですらない、貴重な紙をメモ書きのように使った紙。宝物のように大切に置かれた、大量の粗末な紙の束を持って、クロウの前に置く。



「まず、冗談でもなんでもない。お勉強の時間だぞ、クロ坊。ワシら王族の名は神語に因んでつけとる。そこはわかっとったはずだのお?」

「今更、そんな事言われるガッ」



 杖で胸元へ思いきり突く。

 突然の衝撃と痛みに咳込んでいるが無視した。

 ウルカスも先ほどとは違い、人前でなければこの程度気に留めないのは常からだ。

 


「口答えせず、黙って、聞いとれ。…なあ、わかっとったろう?クロ坊。なあキーロや…あの方のお名前は?」

「はい。ご自身でも仰っておられましたが、あの方は私に『アイ』と名乗って下さいました。」

「……?」



 どうやら、クロウはまだ気が付いていないようだ。



「色だ、色。ほれ、何度も見た紙だろうが。頭空っぽにしてもう一度見てみぃ。」



 不満気な表情を作りながらも、黙って紙束を捲るクロウ。

 彼が今見ているのは、神語を書き溜められた紙の束。

 かつての勇者が残した遺物でもある。



「…お前さんの黒色もまあそうだが…代々継いで来たそれらと。ああ特に、そら、ソコだ。子らにつけた赤、黄、緑。名付けの時あれだけしておいて、まさか気づいとらんとは恐れ入るわい…。何故『藍の神』を忘れとるのだ。」

「っ!?…あっ!?」

「あの方は最初から、ミリアンガー様の代理を名乗っとったわけだのぉ。違うかやキーロ。」

「あ、いえ、それが実は、お姉様だとの事で。」

「……」



 ……………?

 …………………?

 …………は?

 ……姉?



「っ……」

「は?」

「…は?」

「……は?」

「えと、その…藍の神、ミリアンガー様の、お姉様だそうです。」



 驚きが、言葉にならない感情が声に出たのはいつ以来だろうか。

 ウルカス以外の全員が、間抜けな声を上げた。


 なんと言った?

 姉?姉!?姉だと!?



「い、いや!!!待て、待て!キーロ、お前さん、何?姉?姉とはつまり、なんだ、姉?それは?姉だ、姉妹だと!?そう言ったのか?」

「え、ええ。その、そうお聞きしました。」

「………」



 なんだ、それは。

 代理なんて安っぽい代物じゃない。

 神の姉だと?

 そんなの、それはつまり…

 神、そのものじゃないか。



「…のおキーロや。それは、間違いないのか?」

「え、その…証拠等を見せられたと言うわけではないので、断言まではできないのですが…」

「それは、そうだろうのぉ…」

「ただ、ミリアンガー様の名前は誰も口にして居なかったはずなのですが、その御名を呼ばれておりました。それも、第三の名も含めて…」

「な…」

「その、恥ずかしながら気が動転していたのと、初めて聞いたという事もあり、しっかりと覚えているわけではないのです…ただ、『皆に妹の名を覚えて欲しい』、と。そう仰られておりました。」



 第三の名。

 セステレスの主神にして因果を司る「藍の神」、セステレス・ミリアンガー。

 彼の神の名には、魔に削がれて正しく継がれる事の無かった第三の名があると言うのは有名な聖書に纏わる逸話だ。

 真実は誰も知らないが「第三の名」について話し始めれば忽ち諍いが起こり、いずれ戦争になるとすら言われている。



「そんな、馬鹿な…」



 ようやく事の重大さを理解したらしいクロウが呟く。


 ……いや、本当の意味で理解は出来ていなかった自分も、何か言える立場ではないのだが…。



「そうか、いや、成程のぉ…ならば納得がいく、か。あの方、アイ様は神眼使いだろう?」

「やはり、そうでしたか。」



 真っ先に反応したのは、これまで一言も発していなかったウルカスだ。

 だが、他は誰も得心が行ったという反応を示さない。

 キーロがウルカスに、不思議そうに聞き返した。



「シンガン、とは?」

「…相談役から聞いとらんのか。」

「あの子にも困ったものです。」



 ウルカスが呆れたようにつぶやく。

 自分と身内には特に厳しい態度を見せる彼女にすれば、ムースへの言葉としてはこれでも大分優しい方だろう。

 目の前にムースが居ない事も理由の一つだろうが。



「キーロや。あの方が使えるスキルは、一つではないだろう。」

「やはりそうなのですか!?」



 「やはり」、と来たか。

 どうやら何か心当たりがあるらしい。



「おどけて見せておったが、スキルを使う前後で何度も片目を隠されとった。ほぼ間違いなく神眼使いだろうとは思っとったよ。そしてあの異様なスキル……なんと言ったか。」

「アイテムボックス、ですね。」

「ああ、そうそう。アイテムボックス。あれとミドリーを治した力はおそらく別の物だろうて。治癒が無ければあの状態の肩に、腕が戻るわけもなし…。」

「それはわかるのですが、そうなのでしょうか…」

「なんだ?他に気になる事でも?」

「その、気のせいかもしれないのですが…」

「アイ様と一番話したのは間違いなくキーロだろうて。むしろ、お前さんの意見を聞かずに結論を出すべきではない。小さな事でも良い、言いんさい。」

「はい。その、それが…私、アイ様にあのスキルを先に見せて頂いたんです。その際にお話をしたのですが……アイテムボックスのスキルを見せただけでは、争いが起こるかもしれないとムースが言いまして。アイ様の身が危ないのではとお話をした所、『別の手段がある』とだけ仰られました。ですので、てっきり戦いに関わる別の力をお持ちなのだとばかり思っておりまして…」

「………それが、事実ならば…アイテムボックスと、治癒。まだその他に、戦うための力もお持ちかもしれん、と。そう言いたいのかや?」

「…私の勘違い、かもしれませんが…」

「…」

「「あり得ない…」」



 沈黙していた中、アッカーとクロウが揃って声をあげる。


 伝説として語り継がれる最強の勇者。

 神の目を持つ少年。

 勇者がその身に宿す神のスキル、それが一つではないと…勇者の圧倒的な強さを証明し、この世界を魔物の脅威から救った英雄。

 だが、それでも。

 いままで誰もが知っているのは「二つ」だ。それが、人の身に宿せる最大数、だと信じられてきた。



「ま、そうだのぉ。…人間の常識で言えば、だがの。」

「信じると言うのか、そんな……神だなどと、バカげた話…」



 胡乱げな表情をするクロウ。その反応がわからないわけではない。自称「現人神」だなんて………手放しに鵜呑みにするのは狂人変人位か。

 逆に言えば、この反応こそが当たり前だ。だからこそ、キーロは安易に口に出来なかったのだろう。

 神を名乗る勇者、真偽は定かでは無い。だとしても…



「信じるか信じないかではない。もう、()()()()()()()()()のだよ。」



 もしもこれ以上扱いを間違えてみろ。

 今度こそこの国は終わりだ。恐らく、問答無用で。


 例えば、本当に神だったとすれば、もはや考える余地はない。今直ぐにでも全てを差し出さねば、なんならこの命すらも差し出すべきだろう。

 それだけの事をした。


 そしてもしも、神を自称する狂人だったとして、だ。

 さて、先のそれと何が変わろう?

 伝説の英雄すらしのぐかもしれない化け物じみた存在。それは人から見れば、神と何が違うのか。化け物と神にどれだけの違いがあろうか。

 ない。

 相手がどちらだろうが、その力を振るわれれば終わり。この国さえ吹いて飛ぶ程度の存在だ。

 神も化け物も、人の願いを聞き届ける事はない。

 神も化け物も、人を思いやる事はない。

 神も化け物も、人がどうにかできるようなものではない



「ワシらの常識で測れん相手だと言う事だけはとっくにわかっとろうが。のう、ムラクモの。」

「……我が王。言わせていただけるならば…あれを未だ、人だと、常識の範疇にある存在だと考えているならば、甘過ぎます。間違いなく、人の身で辿り着けぬ境地に居ます。あの方がスキルを使わず、私が全力を出したとしても、間違いなく私が死にます。間違いなくです。あの方は、そういう次元の存在です。」

「……という事だ。」

「…」



 元より相手は勇者、神の力を貸し与えられこの地に顕現する存在。幾ら資料が残っていようとその実物を知る者もそう多くないし、知られている事が全てなわけでもない。

 「勇者」と言う存在。

 「勇者召喚」と言う魔法。

 それらが既に未知であり、常識の及ばないモノだ。


 どれ程粗雑に扱うべきではないと言った事か…いや、自分のそんな言葉が、クロウに届いていないとはわかっていた。伝えるのを諦めて居たのは、自分ではないか……?

 忠告を聞かず、痛い目を見れば良いとどこかで思っては居なかったか?

 ……何を思っても、今では後の祭りだが。




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