! 1章EX 欠落姉弟の離別日和(バイバイデイ) 1
「良い返事を期待してるよ。」
「ま、待て!!待てえ!!」
「もう休憩タイムです。待ちません。」
「お、おお王を変えろだと!?今日!?無理だとわかってて!!」
「…別に無理じゃないでしょ。」
振り向いた少女は、さも退屈そうに溜息をして言った。
「じゃあ今日お前が死んだらこの国は亡びるのかって話。どう?違うでしょ?別の人を王様にして、なんとかかんとかやっていくでしょ。普通の交代と違うから大変にはなるだろうけど、不可能なわけじゃあない。不可能じゃないなら、あとはやるかやらないかだよ。さ、これ以上何か言うならお話の余地はないと判断するけど?」
「ふざけっ」
直ぐに立ち上がりクロウに一撃。
なんとか言葉を出すギリギリの所で止める事ができた。
お前が悪いのだ。睨まれようと知った事か。
「簡単に呑めないって事は理解してるよ。だからたっぷり相談して検討して来てね。」
「……。」
「…僭越ながら、発言させていただきたい。」
横合いから声を上げたのは第一王子、アッカーだ。
「なに?」
「確かに勇者様の言う通り、不可能ではない、でしょう。ですが、今この国が急場で王を変えるには、いささか時期が悪すぎるのです。今のこの国を支えられる、王を担える人物など、この国には父しかいないのです。王が変わると言うだけで大事。その上、不出来な王が就き稚拙な治世を強いてしまえば、もはやこの国はもちません。」
「なら手伝わせれば良いじゃん。」
「は?」
「え?」
手伝わせる?
誰に、何を?
「…私何か変な事言った?」
「……手伝う、ですか?」
「うん。君はあれでしょ?そこの王が、一番王様としての知識があるから、今はまだ外せないって言ってるんでしょ?」
「え、ええ、そうです、ね。そうなります。」
「だから別の誰かを新しい王様にして、そこの王には新王のお仕事を手伝って貰えば良いじゃないの。相談役って言うんだっけ?ミドリーちゃんにとってのヒゲみたいなもんだよ。ほら解決。もう行って良い?」
「良いのですか!?」
「何が?」
「現王や王妃に政治をさせてはならないと、そういう意味の条件では…」
「私は、王様が変わって、二人が決定権さえなくなりゃ、後は君らの国で二人をどう扱おうがどうでもいいのよ。…つーかさ。私がこの国の王様変わってなんか得するの?って言ったら、別にしないんだよ。」
「え、…あ、れ?…では、何故!?」
「うぇ?えーっと、まあなんでかって言われれば、本当に、シンプルに、言葉通りの意味で。そいつらがトップの国とは仲良くなれないと思ったから、かな?私と仲良くしたいならトップを変えろって言ってみた。うん。」
「……」
「まあ、ここで結局、王の言いなりになって同じ過ちを繰り返すような人物が新王になったなら、私は今度こそこの国を徹底的につぶす事になるだろうとは思ってるけどさ。ま、変えるかどうかも含めて、慎重に選んでネ。」
後はそっちの好きにやってくれ。と、付け加えて、ヒラリとマントを翻し、興味がないとでも言いたげな表情で出て行った。
人の出入りは激しいが、入って何をするでもなく直ぐに出ていく者も多い。
「お父様。お話したい事がございます。」
「キーロ……」
そう。キーロの話はすぐにでも聞かなければならないと思っていた。
もはや手遅れにも思える現状だが、まだ相手が話を聞いてくれると言うなら一筋の光がある。崖の淵に指がかかって居るなら、その指を犠牲にしようとも、今が唯一の力の見せ所だろう。
未だ呆けているクロウにも、この危機的状況を理解させなければならない。
幸い、ここにもう部外者は居ないのだ。
私は咳ばらいをしてから、久々に声をあげる。
「…さて我が王よ。ワシ等もちぃとばかり話さんといかんのお?応えるか否かはもとより、どちらにせよこの国が背負う物は今や想像をとうに超えただろうて。決める事も多い、時間はそれ程残っとらんぞ。」
「あ、あんな馬鹿げた要求を、真面目に検討しろと言うのか!?」
「……はぁ……」
まだそんな事を言っているのか…
杖に乗せた手に思わず体重が乗る。
呆れて直ぐには言葉が続かなかった、代わりに盛大な溜息を漏れる。
「…まさか、ここまで勘が鈍っとるとは思いもせんかった…ああ、時に我が王よ。目を通すように言っておいたはずだが、勇者様を迎えるにあたり神語の復習はしておったかのぉ?」
「は?何を突然…今は、そんな事より話すべき事があるだろう!」
「カハハ!そうかそうか……ならば、補習が必要だのぉ?…うむ、王子や、蛹を開けさせなさい。」
「…え?あ、はい!ニック、手配を頼む。」
「はっ。ヤタ様、地図以外に必要な物はございますか?」
「地図などいらん。……いや、一応頼もうかの。それと、蛹でのうて、…死書の間の方が良かろう。」
「し、死書ですか!?」
ニックが声を乱す。理由はわかるから、特に咎める事はない。
ただ、クロウも同様に声を上げる。
「こんな時に、本気か!?」
わかっていないのだから仕方がないが、こいつにはもう少し冷静さが必要だと改めて実感する。
「今必要だから言っとるのだ。早うせい。」
「…はっ。」
「勿論キーロも来てくれるかや?アイ様について、聞きたい事は山のようにあるでのぉ。」
「はい。」
「行くぞ。」