第3眼 勇者は召喚に応じて下さい! の2つ目
「あ、それで。用事が終わったら帰れるの?」
「ちょっとよくわからないのですよ。」
「…おい。」
「ひぃっ!?いや、アースの方に送り返す手段は私にはないのですよ!それはアースの管轄なのですし!」
アース、地球。極東の島国、日本。
セステレスの神の名前が、セステレス。
地球の神の名前は…
いや、いやいや。私は何も聞かなかった。聞かなかったはずだ。
無宗教、もしくはなんちゃって仏教徒。
神の真実とやらは私ではなく、もっと望んでいる人へお願いします。
私は知らん。
「はぁ…。それ、よくわからないって言うか、帰れないって言わない?」
「いや、それについては、何かしらしてくれるとは思うのですよー。アースの人達って、かなり別の世界から見て優良物件なのです。でもアースの方も、ガードは緩いと言うか、寧ろ積極的に送り出すスタイルで。だから最近、愛の世界に異世界の情報小出しにされてるって聞いてるのです。事前講習みたいに。」
「で、講習で下準備ができた勇者候補がどんどんアブダクションされていくわけね。…ただ、それが私が帰る話と関係してるなら…アースからは、輸出ばかりしてるわけじゃない、ってとこ?」
「そうなのですよー。いつの間にか、何らかの方法で、異世界で逞しくなったチート勇者が、静かに着々と帰っていく…なんだか、凄く負けている気がします。と言うか、実際もの凄く負けているのです。忌々しい。」
よくわからない、世界同士の競争がある模様。
これについても、踏み込む必要はないだろう。
私が確認しなきゃいけないのは一つだけだ。
「つまり、帰れる可能性はあっても、詳しくわからなくてなんとも言えない、と。成る程、成る程。」
「理解して貰えて助かるのです。」
まあ、確認した所で、別にどうと言う事はない。
異世界に行きたくなかったのは、別に、元の生活にそこまで執着があったわけではない。
犯人の名前は、そろそろ諦めがついた。…いや、まだ少しだけ未練はあるけれど。
妹にはもう一度位会いたかったけど、戻ったら会えるかと言われればそうでもない。
「ま、そう簡単に割り切れるわけじゃないけど。いざとなったら、そっちの墓に入ってやるわ。」
神妙な顔つき、少しだけ思案顔の女神様。
私の言葉に何を思ったのかはわからない。
それからしばらく、私が他愛もない事で声をかけるまで、彼女は静かだった。
「あー、そう言えば、私が居なくなった後の日本の時間とかってどうなってんの?」
「…?時間、ですか…?」
「そう。時間。どうなってんの?」
「…?時間がどうなってる、と聞かれても…。時間は進む物なのですよ?」
知ってますよね?と重ねて問う
知っとるわ。
「だから…あー。地球の、日本に居た私ってどうなったわけ?忽然と消えた事になるの?」
「え?ぷふっ…そりゃそーですよ?今は、ここに居るんですから。愛さん、一人しか居ないのに…ウププ、ぷっふー」
何をおかしな事を。と重ねて笑う。
うるさいわ。
「…ま、じゃあこのまま一生行方不明ってわけか、私。」
都内OL、自宅から忽然と姿を消す。
新聞の見出しに…載らないだろうな。
実は結構行方不明者って多い。
私は、ちょっと不可解なだけの、そのうちの一人になるだけだ。
異変に気づくとしたら最初に勤務先か、唯一の友人っぽい相手、通称キン。そしてしばらくしてから母、となるだろうか。
「え、なんですかそれ、怖い。ならないのですよ?アースに戻れば、良いじゃないですか。」
なお、戻る方法をこの女神様は知らない。「アースの事はアースがなんとかするのですよー。」だ。
ふざけんな!ハンハン!
…私が女神様の真似をしても全く可愛く無さそうだ。やめておこう。
「まあ、確かに戻れればそうだけど。そもそもその、戻れるかどうかって言う以前に、これから数ヶ月とか数年単位で行方不明になるわけだよね、私。」
「だから、戻れば良いじゃないですかー。戻れば万事解決ですよー?」
「忽然と消えた人が数年経って戻って来ても、どこに居たのか何してたのかって話になるの。人間はね。何にも解決してないんだって。」
なんだかとってもうらめしぃ太郎になってしまう気がする。
…伊達に天界は見てねぇぜ!
死んでないけどな。