第21眼 一先ず落着く時間を下さい! の2つ目
「それで、先刻から随分と……えっと、皆様ずっとこのままなので…?…これは一体、どういった状況なのでしょう?」
私に頭を下げるハクとウルカス。首から胸にかけてが汚れ、治療士に支えられるように起き上がった王。
「私もよくわかんなくてさあ……。とりあえず王様とまともに話できなかったし時間もちょうど良いかと思ってキーロちゃんに出てきて貰ったわけなのよ。そこで相談なんだけどさ、キーロちゃん。」
「…?えっと、私がお話相手で宜しいのでしょうか?」
誰も肯定も否定もしなかった。
余計な事を言わないように、無駄な怒りを買わないように、と声を潜めているようだ。
周りの反応を一通り見渡した後、問題はないのだろうと判断したらしいキーロは、もう一度私を見た。
「はい。ではアイ様、その相談とは?」
「うん。私さ、今捕虜にしてる人が4人居るよね?。」
「…はい、そうですね。4人です。」
「捕虜とかどうして良いかわかんなくてさ。この世界とかこの国の法律とか知らないし。今の所このまま持ってても、私のスキルの実験体になって貰うくらいしか思いつかないのよ。」
「じ、実験、ですか?」
「うん。ナイスなタイミングで、人間を使って試したい事があるにはあるんだけどさあ。でもそれって、ぶっちゃけ生きてる人間なら誰でも良いわけなのね。でもこの国からすれば、捕虜の中にはどうしても返して欲しい人とか、居るでしょ?」
「…はい。」
「だよね。このままだとお互い損なの。だから私は考えました。今回限りのわかりやすい単純な、捕虜救済ルールを作ります!このルール、と言うか私の決めた条件をクリアする毎に捕虜を一人交換できます。私が人体実験に使っても良さそうな、居なくなってもこの国の懐が痛まない…死刑囚とかって居る?とにかくそういうのと交換する。私は要求が叶うし実験体も手に入る、そっちは勇者と仲直りできるし捕虜も返って来る。良いと思わない?」
「条件付きの交換、ですね…ではその条件、詳しくお伺いしても?」
「勿論!あ、でもその前にもう一つお願いがあってね。」
「はい。」
「お腹減ったの。ちょっと休憩しよ。」
これまでのやり取りで既に心が擦り切れる寸前だった。
なので、どさくさに紛れてキーロちゃんに抱きつく。
別にさっきミドリーがキーロちゃんの胸に飛び込んでいったのが、羨ましかったからとはではない。
かんけいないけどほんとうにやわらかいですねむくなってきました。
このまま時間を止めたい。
ああ!何故!私は!時を止めるスキルを持ってこなかったのかっ…!!
「え、と、…あ、アイ様?」
「召喚が原因で一食抜いておられるそうです。食事か、お茶をご希望との事でした。」
「お茶ならそれに合うお菓子も是非!」
久々に口を開いたムースの短くまとめられた説明が大変素晴らしい。
でも残念、お茶だけじゃなくてお菓子も必要なのですよー!
…よー?
……あれ、そういえば神様ってご飯食べる?食べないよね?でも仙人だって霞を食べてるとか言う話も聞くし。なら神様も何かしら食べてるかも?
私ももし神様体験するとなると、同じ物食べるようになる?もしくは何も食べなくなるのかな?
っていうか、待て待て待て!その前に魔族になった私は何を食べるんだ!?
人間が主食だったりしないよね?
急に怖くなって来た。
「あらあら、そうでしたか……食事だと、普段は決まった時間に出せるよう調理されるので今からだと時間がかかってしまうかと。すぐ出せる物だと簡素になってしまいますでしょうし、やはり少しでも早くと言う事であればお茶とお菓子の方が良いかと思います。宜しいでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ。」
「お望みの物をご用意できず申し訳ございません。」
「仕方ない仕方ない、そんなの気にしないでよ!突然お願いしてるのは私なんだし。何かつまめるだけでもありがたいよ。」
何故か私が返事をする度に、さっきまでと違う意味で観衆から呆れたような動揺が見える。
何にそんなに驚いているのか私には全くわからない。
「それでは念の為、食事の用意もさせましょうか?お茶で足りないようであればその時お申し付け下されば、一から作り始めるよりは手早くお出しできると思いますので。お食事の方は下準備だけ、先に始めさておきますね。」
「おお、至れり尽くせりだね!じゃあお言葉に甘えて、それでお願いしちゃおうかな。」
「わかりました。ムース。イロハに厨房まで走るよう言付けしてきて貰える?…あまり良くない事とはわかってますけど、他の方だと、その、伝達に間違いがあるかもしれないから……できればムースに頼みたいの。」
「……かしこまりました。」
少し躊躇いながらも肯定したムースは、入って来た扉へ振り返って駆け出す。