第21眼 一先ず落着く時間を下さい! の1つ目
「さて、王様。」
「…なんだ。」
「ちょっとそろそろね、私お腹がすいたよ。」
「…は?」
「何か、直ぐに出せる美味しい食事を用意して頂戴な。あ!もし難しいんなら、お茶とそれに合うお菓子でも良いよ!」
「な、何を……」
「いやさー、実はそろそろ遅めのお昼ごはん食べたいなーって思ってたところに突然召喚されたせいで食べそびれちゃっててねー。今まだこっちは昼みたいだけど、私の居た場所の時間だともう夜ご飯位の時間でさ?お腹減ってきたの。勝手に召喚するわ、こっちの都合も聞かないで話し合いのスケジュール作ってるわ、このままじゃ私いつまでお腹減らしてろってーのって感じじゃない?それにもう、ちょっと話し合いって空気じゃないし。仕切りなおしと言うか、私も一息つきたいし?ね?キーロちゃんが出てきたら一回お開きにして休憩しない?…ダメ?」
「………」
正直今ちょっと話し合いとかする気になれないっていうだけなんだけどね。完全に私都合。
でもお腹減ってるのは事実だし。理屈は通ってるはず。
なのに………よくわからない顔をされた。
なんで伝わらないんだろう?変な事言ってないよね?
「あー、じゃあさ。先に言っておくと私さ、この国とかこの世界にある人質の…いや、捕虜か。捕虜に関する法律とか知らないからさあ、今私が持ってる捕虜は全部で4人なわけだけど、それについて私から提案があるんだよね。実はちょうど何人か、人体実験できるサンプルが欲しかった所な」
「ふ、ふざけるな!」
確かに、これまた意地の悪い言い方だったとは自分でも思う。もしかしたらまだイライラが残っている分の八つ当たりかもしれない。
ただし半分は本音。承諾されるとは思ってないけど、サンプルにできる人間も貰えるなら欲しい。
でもさ。そういう、内容がどうのとは、この際関係ない。純粋に、まだ私はむしゃくしゃしてた。
「……………ねえ、王様よう?まずさ、内容どうこうの前にさ。話最後まで聞けよ。なあ?ふざけるなって叫びたかったのは、最初からずっとこっちなんだよ。わかんないかなあ?この場に居る全員、私のアイテムボックスに入れても良いんだよ私は。人質がどうのとか言い始めたら、全員人質みたいなもんなんだわ。わからない?なんでこんな回りくどい事してるのかわかんないかな!?」
王に向かって自然と足が動いていた。
途中止めてくる衛兵から、武器だけアイテムボックスで奪って押しのけながら進む。
「こっちはね、この場の全員拷問でもして全財産搾り出してそれを路銀にして旅に出た上実験動物にしても良いんだよ!そっちのが得だし楽なんだよ!!あんた等が私にした事で私がどんだけ腹立ってるかまだ理解してないの!?できるししたいけどそうしないのは、私が我慢してるからってわかんない?ねぇ、あんた等より私のがちゃんと、人人らしく扱ってんだろ!!違うか!?なあ!」
タタタっと軽く素早い足音が、後ろから私を追い越した。
私が怒りのあまり捲くし立てて話していた為、ギリギリまでその音に気がつかなかった。
それが国王クロウのもとまで辿り着くと、棒で顎を突き、足元にしゃがみ込むのとあわせて膝を裏側から蹴り払い、倒れた王の首元を踏みつけた上で、さらにその棒を顔面につきつけていた。一瞬の制圧。
その流麗で軽やかな体捌きに必死についていこうとした彼女の長い橙の髪は、体よりも一回り大きくふわりと舞っていた。
ハクだ。
倒れた拍子にくぐもった声をあげる王。
その光景を見て驚くが、王を助けるわけでもなく困惑しながら見守る衛兵達。そんな中ただ一人、銀髪長身の女性ウルカスは、直ぐ傍に居た衛兵の一人から武器を奪いハクへ向ける。
「おやめ下さいハク様。流石にそれ以上は、見過ごせません。」
「…」
だがピリピリした空気を作っていた銀髪美女とは対照的に、橙美少女は王から足をどけないままおどけたような微笑を浮かべて肩を竦める。
「……やはり、不便ですね。」
「あのー、無視しないで欲しいんだけど……」
二人のやりとりは意味不明だし。もともと話してた私と王様そっちのけだし。王様の胸倉掴んでやろうかと思ってたのに、ハクに割り込まれたせいで怒りがどっかに飛んでっちゃったよ。
もやもやした気分だけが残る。
だが私の声を聞いた二人は武器をその場に放り出し、それこそ王にかしずくように身を屈めた恭しい礼を私にしてきた。
「……ん?」
「どうか怒りをお沈め下さいませ、勇者様。」
「…状況がさっぱりよめない。お腹すいた。もうめんどくさい。もうほんとやだ。次に話の腰折られたら、ここ更地にして出てくからな。」
私と王の二人を止めたのがハク、そのハクを止めたのがウルカス。しかしウルカスも私を止める。なんなんだ。この二人の行動原理がさっぱりわからない。
考えるのが面倒になって来たので思っていた事をそのまま垂れ流してみたが、わかってくれたようで誰も何も言わなかった。
いや、返事はして欲しいんだけどね…?
ハクが王の上から移動した為、王は咳き込みながら起き上がろうとしていた。
でももうコイツと話をする気もない。
「もう王様は良いや。」
アイテムボックスの中に手を突っ込んで、中で手を掴まれるのを待つ。
感触を確かめてからゆっくり引き抜いた。
「キーロちゃん、どう?」
「はい、ありがとうございます。少し落ち着きました。」
「そ。」
「落ち着いた」と言うのはミドリーの話だろうが、キーロちゃんも落ち着いた様子なのが何よりだと思う。珠玉の間に入ってから少しばかり心配になる焦り具合だったしね。