第20眼 銀幕の此岸で見詰て下さい。 の3つ目
長い時間だった。
どれだけ長いかなんて覚えてない。
本当に長かったのかもわからない。
ただ私にとっては、とても長い時間だった。
気付けば一番近くにあった奇妙な石像まで足を進め、力を込めて雑に殴り壊していた。破片が人に当たらなそうな方向へ殴っただけ、まだ理性が働いたようだが。
その音で、広場に居た全員が私に向き直り、その内2割3割が怯えるように誰かの背に隠れた。
ミドリーも、キーロの背に。
「そろそろ良いかい。……ミドリーちゃんの無事も確認できたろう?」
なんとなく、自分が今したのは八つ当たりなんだろうなとはわかっていた。
だが、私を放っておいていつまでもこんな光景見せられても困るって言うのも本音の一部ではある。
石像の破片が壁に幾つか刺さっているのは、我ながらちょっと力を入れすぎたとも思う。まあ、召喚から先ちょっと鬱憤が溜まってたし仕方ない仕方ない。
アイテムボックス ×2
特定人物とその装着物で指定。
対象はミドリー。
そしてもう一つの扉は、別の人物に…
まずは上からかぶせる様にミドリーを収納。
突然空中に広がる波紋は、隣に居るキーロの全身も包む範囲まで残っているが、その場から消えたのはキーロの服をつかんでいたミドリーだけ。
「え、ミドリー!?アイ様!!」
「勇者!貴様!」
「命は助けてあげた。けど、人質としては継続中。ごめんね?でももう、無事なのは確認したでしょ?それと、もう一人新たに追加する。ヒゲ、いやニール。テメーだ。」
「は!?何を」
それまでずっと呆けていたヒゲ男が、突然警戒し始める。
面倒なので、もう話を聞くつもりもない。
「人を脅してさあ!」
「 」
「……無事で済むと思うなって、言っただろ?」
彼は何か言おうとしたが、それが声になる前に異次元に消えた。
ミドリーとヒゲ。どちらも密集した人ごみの中にいたが、その二人だけが宣言通り的確に消えていった。
「大体さ。この国の人間はみんな名前の響きが似ててややこしいんだよね。キーロちゃん、ムースまではおぼえられるけど…キーン・ギーンに、ミドリーちゃんはフーカだっけ?で、ニール?なんでみんな二文字の間に|ー〈のばしぼう〉いれるの?響きが似すぎて二人くらいまでしか覚えらんないよ!私の頭はもうキーロちゃんとムースでいっぱいいっぱいなの。だから少しくらい減らしても良いでしょ?これでわかりやすくなったね、うん!………あっと、話の途中だったね。で、他に異論反論はあるかい?」
人垣の中に居ようが関係ない。離れていようが意味はない。狙った獲物は逃さない。
それを見ていた者達に問いかけたが、もうそれ以上何かを言って来る人物は居なかった。
「うん、ないみたいね。ねえ王様。」
「アイ様!お願いが、お願いがございます!」
トゲトゲしい私の心に潤いを与えてくれる清涼剤のような存在キーロちゃん。
「なーに?」
「私も、…『アイテムボックス』の中に入れて下さい。」
……………!?…?……?………!?
「ん!?」
何突然、どう言う事!?
そう言えばさっき、「私をあげる!」みたいな事言われてた気がするけど、別にキーロちゃんは人質とか捕虜とかそんな事するつもりはないよ!?
それともただ入りたいの?興味出ちゃったの?何もないだだっぴろい空間のはずだよ?面白い物なんでひとつも無いよ?
「ミドリーと、もう少しだけ話をさせて頂けませんでしょうか?まだ、あの子、震えていて……少しだけで良いんです。」
「ああ…」
成る程。
目的を聞かなきゃ、ミドリーとは別の空間に入れてただろう。まあでもキーロは幾つもの空間に別れている事を知らないんだから、きっとそれぞれの人物がそれぞれ別の空間に隔離されているとは思いもよらないんだろう。
「うーん……短い時間だけだよ?」
「ありがとうございます!」
実は、まだアイテムボックスも検証しきれていない部分がある。
中に人間……もっと言うと、生物を入れた時の安否だ。
神の間に居たのは神様と自分だけ。自分が実験で入るのは流石に怖かった。
何より、アイテムボックスは私が見ている場所に私が発生させている。
その私が中に入ったら、発動中のアイテムボックスはどうなるんだろう?
強制的に終了になったら?再発動は中からできる?アイテムボックスの中から操作ができなかったら?一生出られないなんて可能性はある?
そんな心配ばかりがあって、手を入れる事まではできても、自分の頭を扉の中に入れる事はできなかった。
なので、どうでも良い人間をちょくちょく中に入れて人体実験に使わせて貰っている。
既に入口から出口へ通過しての擬似テレポートが生き物にも使える事は、ミドリーで実験済み。中に入った人間が生きている事は、一度入れたレンを出した際に確認している。
ただし、長時間入って無事である保証はまだできない。一番長い時間入れているのは金銀さんだが、今出して無事を確かめようにも騒がしくなる事は確実なのでちょっとやめておきたい。
大丈夫だとは思うんだよ?まず間違いなく大丈夫なはず。でも、自分が不安でできない事を人にやらせるのって抵抗あるからね。
少しだけキーロを入れる事に躊躇いはあったが、短い時間なら問題ないだろうと了承して、ミドリーが要る空間の入り口をキーロの目の前に出す。
「私が後で手を入れるから、その時は直ぐに出て来るんだよ?一応、中に小さな穴作っておくから、何かあったらそこに声かけてね。さあどうぞ。ゆっくり前に進んでごらん。」
キーロは躊躇なく二歩程進んだが、三歩目として踏み出した右足は地面につく事無くその場から姿を消した。
私はアイテムボックスの設定を少し弄りながら、出口を小さくして自分の耳元に配置しておく。こうすれば多分、キーロが此方に呼びかければ聞こえるだろうと思う。初の試みだし、確証はないけれど。
ついでに時間は、問題無さそうな範囲でサービスしておこう。
本日のミリアン一言劇場
「あ、あれだけやって、まだ他に試したい事が残っていたのですか…!?」