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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
84/162

第20眼 銀幕の此岸で見詰て下さい。 の2つ目



 発動!


 はい終わり!


 瞬き一つで終了だ。



「はい。おはようの時間だよ、ミドリーちゃん。」



 ミドリーは声をあげなかった所を見ると、痛いかもしれないなんてのはやはり私の杞憂だったらしい。

 声をかけられ、唐突に目を見開くミドリー。だが、何も喋らない。



「…」

「は?」

「え?」


 

 見ていた観客達から声が漏れるが、やっぱり無視。

 自分の左手を見るミドリー。

 そこに手がある事が不思議なのか、瞬きを繰り返す。

 次に持ち上げる。握ったり、手のひらを返したり。

 どうやら問題なく動くようだ。

 上半身だけ起き上がる。

 そこに、ずっと横で見ていたキーロが抱きついた。



「痛みは残ってない?変な所ある?あ、喉もちゃんと元通りになってるよね?」

「あ?」



 驚きなのか確認なのかわからないが、治って最初のセリフが一文字ってどう言う事だい。

 自分の喉に手を当てて、痛みが無い事を改めて感じているのだろうか?

 いくら待っても返事が帰ってくる様子はないね。まあ声は出たし問題ないだろう。



「ダイジョブって事で良さそうね。」



 再び声をかけた私を見上げ目を剥き、突如キーロの腕を跳ね除けて入り口の扉に向かって駆け出す。

 しかし、足がもつれたのか盛大に転んだ。



「あれ?」



 やっぱりまだどこかおかしいんだろうか?


 そう思って、ミドリーを通り越して彼女の目の前まで移動する。

  


「足、ちゃんと動く?」

「ヒィ!?」



 悲鳴のような短い声を上げ、踵を返すように広間の中へと戻っていく。

 ただし上手く立ち上がれず、腰が抜けたように這い戻ろうとしている。

 ……アレ?立ってないから、キビスヲカエスとは言わないのかしら?


 だが、数歩分四つん這いのまま進み、私に振り返った後にもう一度、今度はちゃんと立ち上がって走り始めた。

 直ぐ先にはキーロが居て、ミドリーはそこに飛び込んだような形になった。


 あれだけ元気なら大丈夫だな。



「…ミドリー!ミドリー!!………良かった!」

「あ、あ、」

「ミドリー!本当に無事なのか?手はちゃんと動くんだな!?痛みは?良かった!」

「ミドリー…」

「姫様…?」



 私とミドリー以外の全員が短い驚きの声しか口にしていなかったが、キーロの言葉を皮切りに、喜び、呼びかけ、確認と、色々な声が怒涛のように飛び交い始めた。


 ミドリーは未だまともに喋っていないが、声に違和感も感じない。

 キーロは当然ながら、近くに居たアッカーも同じように彼女の無事に歓喜し、異常がないか確認し、また喜んで二人を包むように抱きついた。

 王様の命令で入って来た医者は念のためミドリーの容態に問題がないか、外見と問診で確認している。

 父親である国王クロウもようやく衛兵に止められずに、ミドリーに近づいて声をかけていた。

 ミドリーとキーロが大声で泣きながら喜び、アッカーとクロウは声を殺して泣いていた。周りで様子を見ていた人たちも、その場で声をかけたり、国王と同じように、触れる程ではないが近づいて様子を確認したり。

 賑やかに、本当に沢山の声に包まれていた。


 私は落ち着く場所を求めて、玉座の前にある階段状になっている場所まで一歩で移動して、そっと腰を下ろす。そう、落ち着く場所を求めた。なんだか心が落ち着かないのだ。

 すると音を立てず知らぬ間に近づいてきていたハクが、頭を深く下げてから隣に座った。


 隣に座っても良い?って聞かれてたのかもしれないけど、私が返事をする前に座ってしまった。

 相変わらず、この少女は何も口にしない。もしかしたら喋れないのだろうか?

 まあ、どうでも良いけど。


 家族の無事を喜ぶ光景。

 幸せそうな人々。

 キーロの笑顔。

 私の見たかった筈のもの。

 それなのに私は、なんだかもやもやしている。

 いや、もやもやなんて軽い物じゃない。イライラしてる。なぜだ?

 ミドリーが助かったから?そんな事は別にどうでも良い。

 キーロが私よりもミドリーに抱きついているから?違う。別に良いじゃないか、妹なんだ。


 理由が見つからないやるせない思いだけがあり、それが更にイライラさせた。

 ついさっきまで自分は当事者だった。今は輪の外。

 有名なだけの美術品か、ホームドラマでも眺めているかのように他人事。

 安い映画の大団円に、最早飽き飽きしはじめているのに、なかなかエンディングが流れてくれない時の気持ち。事件解決後の無駄に長いエピローグページにうんざりするあの感覚。

 早く終われ早く終われ、私に、コレを、見せるな。


 膝に頬杖をついたまま、私はどこか遠くの出来事にようにながめていた。



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