第3眼 勇者は召喚に応じて下さい! の1つ目
「私は勇者として召喚されたけど、じゃあここが神の間って事?」
「ですよー。…まあ、簡易版のシステムじゃなくて本物の私が居る、本物の神の間なわけですが。私はまさかまさか勇者召喚なんて人間がすると思っておらず、追加の候補を選んでなかったんですよー。なので、システムは『一番因果繋がりやすいのだーれだっ!』って連れて来ちゃったのが、愛さんでして。」
本物の神が居る、本物の神の間。わりとどうでも良いけど、なんだかとってもご利益はありそう。
それはそうと、睨みつけてからか、いつの間にかさん付けになってしまっている…?
まあ、呼び方なんてどっちでも良いや。
「はあ。」
「で、候補指定も何も無かったので…あのまま自然にまかせてたら、何の事情も知らず異能力もない愛さんが、勇者として召喚されてしまう所だったので、急遽ここに連れ込ませて貰ったわけです。」
「…え、っと?でもさっきって、召喚について自分が教えたって…。なら、そりゃするでしょ。召喚。」
「えと、そもそもですねー。もう魔物被害は粗方片付いたのです。魔族は根絶、魔物も壊滅!…とまではいかなくても、もう、人類絶滅とか、心配ないくらい。」
「…それ、勇者必要なくない?」
「ないのです!」
「…」
自動で選ばれてしまった。間違いみたいな物。本当のそれとは、違う。勇者は現在必要ない。
…悪い予感がする。
推理?これは推理なんて高等な物じゃない。
答えはもう出たような物、もはやそれは、ただの答え合わせ。
魔物も魔族も粗方居ない。魔物より脅威になる野生動物など居る訳もない。
剣と魔法のファンタジー、魔法寄り。魔法士であふれかえったとんでも異世界。
さあ、戦うべき敵ってなーんだ?
「じゃあ…私は、いったい、なんで召喚されたわけ?何と戦う為に、呼び出されてるわけ…?」
「国と国との陣取り合戦の最終兵器として。大量虐殺兵器として、だと思われるのです…」
眩暈がした。
「人間はそこまで愚か…だね。そう言えばそうだった気もするよ。」
「まあ、はい。…愛の世界でも、核持ち出して来るような輩もいますし、大差はないのです。」
お手軽簡単な核として、これから異世界に招待されるわけか。やるせない。
それも、私の楽しい日常と推理小説の犯人の名前を、無断無遠慮で奪った奴らに。ゆるせない。
「やっぱり私、帰れない?殺しといても構わないでしょ、そんな奴ら。」
「気持ちはわからなくないけど、その、できれば…無理やり儀式させられてる人や、近くに住んでる関係ない人やらが蒸発するのは、できれば避けたい所なのですよー…」
「蒸発…」
さっき魔法士が数千単位で…とか言ってたのは、また別の話だったか。
そういうのとは違う、儀式とか無関係の近隣住民が…
「…私が帰ると、大量の死者が出るって…」
「失敗の反動で、ボンっ。です。王都だけで済めば良いな。とは思うのですが。」
「王都が、ボンっ…」
王様、御妃、姫様、王子、貴族に平民。みんな、ボン。
「だからまあ、できれば、その…」
「…行くから、ちゃんと。」
安堵からか、顔の緊張が綻ぶ少女。
妹が居る。だからだろう。
私は年下の、少女に甘い。
多分もう二度と会えないだろうな。まあ、こうなる前からそもそも会える手段もなかったけどね。
ばいばい、カオリ。