第18眼 選択の結果をご理解下さい。 の3つ目
「さて……他に居る?今すぐかかってくる人。居ないね?はーーーー!!随分回り道をしたね。じゃあヒゲ君そろそろ話を再開しようじゃないか。」
「……嘘だ。」
「あん?」
ヒゲもミドリーと同じような事を言う。主従だから頭の中も似ているんだろうか。
「嘘だ、そうだ、ハッタリだろう勇者!どんな手品をつかった!?お見通しだぞ!」
いや、手品の種明かしを求めておいてどこがどうお見通しなんだよ。全然見通せてないからそれ。って言うか手品とか、何の話だ?
………わかんないから、その勘違いに話を合わせておこう。
「ほう……?だとしても、敵に手の内を教えるわけないでしょ。」
「ハっ!やはりそうか!聞け勇者よ!貴様は、絶対に勝てない!その貴様のスキルについては既に見抜いているぞ!!そのスキルには弱点がある、この場を切り抜ける事はできん!!よしんばそれが叶ったとて、自分の弱みを握られながら逃げ続ける生活を送る事になるぞ!貴様もこの大勢の前で、弱点を曝されたくはなかろう!交換条件だ!すぐに姫様を返せ!」
「へえ、弱点?」
………あそう?君もそう来る?か弱い女の子を脅すわけ?ふーん……
アイテムボックスは使わない。
身体能力だけで、ヒゲの前まで一瞬で移動。
人間の目には見えただろうか?
目に見えていなければ多分、ミドリーをアイテムボックスで移動させたそれと違いは殆どわからなかっただろう。ただちょっと、屋内に風が吹いた位で。
一瞬で君の命を奪えるんだよ?と言う警告のつもりだ。
手の届く距離にある顎鬚を一本抜く………つもりで三本抜けた。…痛そうだ、すまん。
だが、謝罪は態度には出さない。
「いッ!?」
「良いよー、言ってみなよ。ただし、今のその発言の意味は、ちゃんとわかってて言ったんだよねえ?脅しだよね。私を、脅してるんだ。その先を言ったら最後。脅しが成功しても失敗しても…無事で済むとは思わない方が良い。」
「強がりおって!ならばお望み通りにしてやろう!」
そう宣言したヒゲは体に似つかわしい細めの声を精一杯大きく、私だけでなく聴衆にもハッキリと聞こえるように言った。
「勇者!貴様のスキルの本質は理解した!衛兵の槍を阻んで見せ、物理か防御に特化した力だと勘違いさせたかったのだろう!私も最初は防御の力と思ったが、ボロが出ていたぞ、失敗だったな!!貴様のスキル、それは転移の力!物体を別の場所へ移動する力だ!!つまり、貴様には攻撃手段がない、貴様のスキルでは人を傷つけられない!そう自分で証明したような物だ!現に貴様は、決定的な攻撃を何一つできていないではないか!レンは己の力で傷つけていたし、姫様の手はまだ動くと言う、ならば何処か痛みを与えるのに適した場所に姫様の手だけを転移させた!そう言う事だろう!?いくら凄んだ所で手遅れだ!攻撃手段の無い貴様は、絶対に勝てん!」
「はあ。」
ズビシィ!っと指を刺してくるその姿は、まるで犯人を追い詰める探偵のようだ。
ああ、しかし。
惜しい。割と惜しい。
私が先生なら80点はあげたい所だ。
だがなかなかどうして、この20点が大きい。
合格をあげられない。
それ程致命的な間違いがあるのに、ヒゲは自信満々。
そのせいで彼の発した間違いを正さなければ、ヒゲの理論を覆さなければ恐れていた事態が起こる。勝てると勘違いしたブラザーズとの大乱闘が本当に現実の物となってしまう。
手元に、目の前にある素材はミドリー・レン・おばさんの三つだけ。
材料が少ない時は有り物でなんとかするしかない。
一番ちょうどいい材料はどーれだっ。
至急ヒゲの目の前からミドリーの前にUターン。
ミドリーの口を隠していたアイテムボックスを外し、アイテムボックス内の設定も元に戻す。口を隠す前の『学芸会でやらされている木の役』状態に逆戻りだ。まだ両肩から先は見えない。
痛みが無くなったのも口が開放されたのも、突然の事で動揺するばかりのミドリー。
「ヒゲのせいで、私は攻撃手段があると証明しなきゃいけなくなった。部下の失敗は、上司の責任だよね?…ミ、ド、リ、イ、ちゃん♪」
「え?何」
私はスキルを解除した。
広間に展開していた空中に浮く異空間への扉が全て消える。
だが、スキルを解除しても中に入った物は当然そのままだ。
槍の穂先。
ギーン。
レン。
ただ、全身が入っていたわけではないミドリーはそのままその場に立っていた。
中の物は中のまま。
外の物は外のまま。
そのルールは忠実過ぎるほどに守られている。
つまり、だから。
ミドリーの両肩から先もまた、消えたままだ。
本日のミリアン一言劇場
「………あれ?え……アイ、さん?……アイテムボックスですよ、ね?……安全装置は……?え、何!?何をどうしたんですかそれ!?」