第16眼 約束は絶対に守って下さい! の2つ目
「っ…!!ヤタっ!!貴方もですか!」
先に座っていたハク…王妃にヤタと呼ばれた少女は、何が可笑しいのか、声を殺して楽しそうに笑うだけだ。
「このっ…馬鹿にして!もう良い!レン、貴方に全権を与えます!早くなんとかしなさい!」
「は、はあっ!」
「待ちたまえレン侯爵。恐れながら王妃様。私に、勇者と言葉を交わす時間をお与え下さいませ。」
割り込んで来たのは、珠玉の間に入ってから一度も口を開いていなかった人物。ミドリーのヒゲ長おじさん、ニーロだった。
ミドリーは口を出さないものの、探るような表情で彼を見上げている。
その視線に、問題ないとばかりに一つ頷いて、数歩前に出る。
あのー、と言うか私を無視して進めないで欲しいんだけど……?
「た、例えニール様でも、それは承服できかねますな!私は国王陛下の代理者であるキーン様から直々に命を受けたのです!」
……ニールだったか、名前。興味がない人の名前なかなかどうして覚えられない。美少女の名前は直ぐに記憶に残るんだけどね?不思議だね?
どうでも良いが大臣の畏まった態度を見るに、ヒゲニールの方が立場は上らしい。
「本当に殺してしまえばどれだけの損害になるかわかっているかね?此度の召喚にどれ程の投資が行われたかは把握しているだろう?」
「い、いや、だがそ…そそれは……」
「武力が必要となれば当然君に指揮を返そう、レン侯爵。手柄を奪いたいのではないのだ。この国に必要なのは勇者の力、だから召喚が為されたのだよ。当然味方にできるのならばそれが一番国の利益となる。違うかね?」
「う、うぅ…」
「おい。私抜きで勝手に決めてんじゃないってーの。」
このままじゃ、私がヒゲ長おじさんに説得されるタイムが始まるじゃないか。
いい加減勝手ばかり言われても困る。
時間の無駄だし。
「私にもやらなきゃならん事があるんでいつまでも付き合ってらんないわけなのよ。もうお話タイムは終わってるの、ここからは拳でお話タイムなの。わかる?わかったら、死にたい奴からかかって来いよー。」
負ける気がしない!見せてやんよ!私の秘められた実力を!!
フンガフンガー!ガオー!フンスフンス!
オラオラ、どっからでもこいやー!
と言うのは冗談半分。
殴って来る奴は三倍にして返してあげる派なんだけど、どうにも平和主義っぽい顔で話しかけてこようとする相手に対して先制攻撃する度胸がまだないと言うのが本音だ。
我ながら甘いと言うか小心者と言うか。
まあ命短し恋せよ乙女と聞くし、私がか弱い乙女のままなら多分、己の身可愛さになりふり構わず殺戮の限りを尽くしている場面だろう。これだけ余裕があるのは、やっぱり命の危険を感じない事が大きいだろうね。
この考え方は危ないとわかってるんだけどね。簡単には捨てられそうにない。
「まあ落ち着きたまえ。確かに先程は不快な思いをさせる所もあったかもしれない。その点は、国を代表して謝罪しよう。申し訳ない。だが、私がしたいのはお互いに損のない話だ。君の為にもなるはずだが、どうか聞いて貰えないだろうか。」
意外だったが、ニール……ニール?だかニーロ?だか言うヒゲの人は…ああもう、忘れた…。もう良いや、ヒゲで良い。
意外な事にヒゲは本当に頭を下げて謝罪をしてきた。
丁寧な態度から透けて見える依然見下すような表情は気になるが、顔で誤解される人間の苦しみは痛い程理解できるつもりだ。
話くらい聞いてあげても良い様な気がしてくる。
……本当に私に得な話の可能性も捨てきれないしね?
「うーん……まあ、じゃあ一応聞こうか。」
「感謝する。所で勇者、君は覚えているだろうか。先程我が姫と交わされた約束を。」
「あ!」
すっかり忘れてた。
『私がミドリーちゃんとの約束で珠玉の間に来ました』って言わなきゃお金が貰えないと言う話でした。危なかったね。確かにヒゲの話を聞いてよかった。とっとと済ませなきゃ。
とりあえずアイテムボックス発動。
ミドリーの足元に扉を作って、ミドリー入れる。完了。
次に私の真横に出口作成、ミドリー出す。完了。
するとあら不思議!
あっちにいたミドリーちゃんが一瞬で私の近くに現れたではありませんか!
アイテムボックス応用編、テレポートの術!
因みに生身の人間をアイテムボックスに通して問題ないかの実験でもあったわけだけど、問題なさそうで何よりだ。どうでも良い人間を使って実験しておきたかったんだけど、手間が省けたよ。
良かったねミドリーちゃん、スパゲッティ化とかはしてないみたいで。
「忘れてたよ、ごめんねミドリーちゃん!」
「!?」
突如私の真横に出現したミドリー。
少しバランスを崩したが、転ぶ事もなく無事に立っていた。
だが、自分が立っている位置が変化したと言う事実を瞬時には認識できていないのだろう。私の顔や周りの人間や自分の足元と、困惑と驚愕の表情でとにかく目線を動かしてばかりだ。
先ほど既にアイテムボックスを使ったのだが、まだどのような能力なのか全体像が把握できていないらしい。
周りで見ていた誰もが目を白黒させながら、私とミドリー、そして先程までミドリーが居た場所を見て絶句していた。
私は未だに混乱している彼女の肩に手を当てて、仲良しアピールをしながら周りに宣言する。
「私勇者アイは、ここに居るミドリーちゃんに言われて珠玉の間に来ましたー!私とミドリーちゃんは仲良しだよー!」
残念ながらこの国とは敵対する事になったので、会議の後に予定されていたキーロちゃんとのお茶会も参加できない可能性が非常に高い。残念なのはもちろん敵対した事ではなく、お茶会に出席できない事だ。
場合によっては話し合いの途中で、無理矢理抜け出す可能性も出てきたと私は思っている。流石に知識も物も何も持たない今の私が素寒貧のまま生きて行くのは難しい。いや、生きてはいけるだろうが野宿とか絶対嫌だし。ね?ミドリーちゃん。
「はい、約束どおり!これで良いよね?お金頂戴!」
「はあ!?出すわけないじゃない!」
……ん?