第16眼 約束は絶対に守って下さい! の1つ目
「じゃあまずは…」
王様と王妃様には退場していただこうか?
うーん。でもなあ。
この二人の人間性に関してはまだ考察の余地があるかもしれないが、この場で見る限りは問題なく指揮系統のトップとして動いている。
あ、いや、勿論人間性の考察をするほどのこの二人に興味が湧かないから、きっと未来永劫しないだろうけどね?
そういう事ではなく、個人がどうとかではなく、才能の有無に関係なく、ちゃんとこの国のブレインとして認識されているのがわかるって所が重要なんだ。こんな状態で突然国の長が居なくなったらどうなるだろう?想像もつかない。間違いなく大混乱には陥るだろう。それだけならまだ良いが、目の前にその仇である私がのうのうとしていれば?必ず狙われるよね。乱闘必死だ。大混乱しながら私をスマッシュしにくるブラザー達に取り囲まれるのは正直勘弁願いたい。結果王様と王妃には手を出せない?
うわあ…居ても居なくても問題になる人間とは厄介極まりないね!
ああ、もう!どうすればいいんだ!
「い、言いたい事はそれで全部か!」
私以外に誰も声をあげない。
私も次の言葉に悩む。
そんな空間で真っ先に声を上げたのは、大臣。
ほう。
情けない程に声は震えているが、威勢は良い。
先ほどの王族に対する無礼を見かねて真っ先に声を上げた心意気は本物らしい。どうやらただの馬鹿と言うわけでもないらしい。
…まあ?忠誠心があっても頭を正しく使えない猪突猛進な馬鹿なら、ただの馬鹿よりなお性質が悪いんだけどね?
キーロに咎められた時には最後には口をつぐんだ事を考えれば、王妃の容認が追い討ちをかけたと言う可能性もある。私に知りようはないが、もしくは普段の彼ならもう少し手のつけようがあったのかもしれない。
だが私にとっては、ここが一番であり唯一の大事な場面だ。馬鹿に感けている暇はない。
「どうでも良いから、さっさと続きをどうぞ。早く済ませてよ。」
「もう、我慢ならん!ならばお望み通り殺してくれるわ!」
「あ、ちょっとタンマ。」
「は!?な、何を今更!」
「はいはいちょっと黙っててね。えー、兵隊さん?護衛って言えば良いのかな。この場に居合わせ、王族やそこの大臣君に使われている哀れな諸君。先に一つだけアドバイスをしてあげよう。」
レンは明らかに苛立っているが、私がすかさず話し始めると割り込まずに黙って睨み続けてきた。別に怖くもないけどね。
「死にたくないヒト戦いたくないヒトは武器を地面に降ろして、できれば隅の壁際あたりまで離れて。座っててくれると尚嬉しいね。」
「はい!」
「…」
勢い良く返事を返してきたのはキーロ。そしてそれに続き無言で武器をその場に降ろしたムースが、キーロと共に部屋の隅まで移動して本当にその場に座ってしまった。
その行動を見て目に見える範囲に居た全員が唖然としており、王妃に至っては上品さも忘れて口をぽっかりと開けていた。
彼女の動向を確認してから補足説明をする。
「戦意がない人は可能な限り殺したくないけど、殺し合いが始まってから言われても多分手遅れになるって思わない?降参だって言われても、近くに居たら何されるかわからなくてやっぱり怖いし、武器持ってたら油断できないしね?だから、絶対に死にたくない人は今が最後のチャンス!さあ、君達どうする?」
武器を持っていた兵士達が一斉に躊躇いを見せる中、次に武器を下ろしたのは壇上に居る王様王妃様の横に立っていた二人の人物だった。
一人は件の、朝焼け髪の少女。危険人物指定していたので、突然バトルにならないのはわりかし嬉しい。
杖か錫杖と呼べばよいのか、小柄な彼女の顎程の長さを持つ細い棒状の物体を床に置く。…それは武器なのか?
もう一人は、数本の剣で武装する長身長髪の銀髪美女だ。彼女の持つ剣は一種類ではなく、一番大きい物は背に負っている大剣。長身である彼女の背丈と同じ程ある大きな物で、とても細身の女性が振るえる代物には見えない。だが、体から外しながらそれらを軽々と持って床に丁寧に置いてくのだから、恐らく問題なく扱えるのだろう。見た目と違ってかなりの戦闘民族のようだ。
「う、ウルカス!?貴方、ムラクモが王の許しもなく勝手に剣を置くなど!」
ウルカスと呼ばれた白銀髪の女性。
ステータスで見える彼女のフルネームは、ソーク・ウルカス・マイ・ガレオン・アスノート。
因みに私には遠く及ばないが、この広間で唯一常人離れしたステータスの持ち主が彼女だ。
ステータスは項目毎のランクがHから始まりG、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSと上って行く。が、この場で見れば皆ドングリの背比べ状態。他の護衛達ですらGやFがたまにあるだけで、全員がほぼH。もちろんほんの数人優れた能力を持つ者は居るが、それらも比べ物にならない。
一人だけAやBがある、と言うか一部を除いてほぼBが並んでいると言えば、凄さが伝わるだろうか。
一人だけ明らかに、強さの次元が違った。
そんな彼女が武器を置く様子を見ていた金銀さんはヒステリックに声を荒げる。
もう一人の少女は王妃とウルカスのやりとりを横目に見ながら、面白い見世物を見物するような薄ら笑いを浮かべながらその場で雑に座ってしまった。
ウルカスと呼ばれた女性が剣を置いただけで、その場の全員に、特に武器を持っていた人間が強い動揺を見せた。だが続く彼女の言葉を聞いて大きな驚きを見せたのは、今度は王や兵士に守られている貴族たちの方だった。
「いえ、キーン様。王の命に従いました。」
「何を世迷言を!いつ王がそんな命を下しましたか!」
「ご存知でしょう?無闇に死ぬなと、そう仰せつかっております。」
「戦う前から、ムラクモである貴方が負ける事を考えているのですか!?恥を知りなさい!!」
「わからんのですか。……ああ、わからんのでしょうな。ならば私から言う事は何もありません。」
「この、ムラクモの分際で……!良いから剣を取りなさい!!あの痴れ者打つのです!」
「はぁ……どうしてもと言うならば、どうぞ陛下にお強請りでもしてけしかけて下さいませ。私を失っても良いのであれば、の話ですが。」
「な、なっ…!?」
「まあこれ以上は、王からの命令がなければ動けませんな。貴方如きに、……『王妃の分際』である貴方如きに命令されましても、ね。」
そう言い放って、ウルカスもその場に腰を下ろした。
恐らくこの場の誰もが、ウルカスをそれ程の強者と認識しているのだろう。
彼女の態度を見て一層ざわつき始める。己の武器を見つめる者、周りの様子を伺う者、王妃なのかウルカスなのかわからないが壇上から目を離さない者と様々だ。