第15眼 奇跡を信じて祈って下さい! Side A 2
「まったく。痛い目にあいたくないなら、はじめから素直に言う事を聞けば良いものを。今更、命乞いですか?『勇ましい者』の所業ではありませんね。見苦しい。」
……ああ、馬鹿がまた、耳障りに吠えてる。
人の言葉を聞かない馬鹿。
人を人とも思わぬ馬鹿。
馬鹿ばっか。
「言葉通り…単なる最後通告なんだがね……大体勇者なんて、なりたくてなったわけじゃねぇってーの。まあ、もうどうでもいいか。どうやらあんたにゃ、皮肉以外素直に伝わらないらしい。猿相手には、躾の前に正しい言葉を教えてやらなきゃならんみたいだ。」
誰かさんが言うには、私が躾のなってない猿らしい。お猿さん同士仲良くやろうや。
いや、無理だな。目の前のこいつより、猿に芸を覚えさせる方が楽に思えてくるくらいだ。
こいつを猿と呼ぶのは、猿にと言うかもう霊長類全体に失礼な気がする。
「…見苦しい。レン。抵抗する場合は仕方ありませんが、可能なら生け捕りになさい。腐っても女の勇者。例え戦では役立たずでも、子供を産める部分が無事に残ったなら、それはそれで使えます。」
ほう。最終的には子供を産む肉扱いですか。
自分だって三人の子供が居る母親だろうに。
国とかそう言うんじゃない。
なんだか無性に腹が立ってきたよこのおばさん。
こいつはダメだ。
生かしておいてちゃ、害になる。
「心得てございます!では、指揮下に入った全衛兵!共に勇者を囲め!」
「おい、レン。」
多分、コイツもダメ。
まあ、でも、話を聞かないで切り捨てるのは良くないよね。
せめて弁明があるなら聞いてあげなきゃ。
「アンタは、何も疑問に思わないんだ?」
私と王様や御妃様が話をしてるのを聞いて、何も疑問に思わなかったのかい?
「私が、この国に協力しないのは、なぜ?」
それをお前は、ちゃんと自分の頭で考えたか?
話し合いによる和解は、本当にできなかった?
私は無駄だと思いつつ最後まで平和的に解決しようとしていたんだが。
和解を試みないのは正しい事?
後から考えても遅い事だろうに、今それを考えなくてどうするのか。
そもそも勇者相手のやりとりに間違いはなかった?
きっと無理やりつれてきたなんて実感微塵もないんだろうね。
勇者と敵対してメリットはある?
馬鹿じゃなきゃあ、デメリットしかないとわかるだろう?
この場に居る兵士にすら勝てないくらい勇者が弱いなら、そもそも君らの国は召喚なんてわざわざする必要ある?
ないよね。むしろ勝てると思ってるなら、なんで召喚なんてしたのって話だろ?
ほら、自分達じゃ勝てない相手にぶつけようとしたのが勇者って言う馬鹿みたいに強い存在なんだろ?なのに君は、そんな私に、…本当に私に勝てると思ってる?
勝てば勇者は思い通りの手駒、じゃあ負けたらどうなる?
これだけの事をして負けた後の事なんて考えてない?それは私がこの世界の人間じゃないから?現実感がない?
この場には王族とやらが集まってるんだから、戦いが始まって自分が負けたら王族の命も狙われるかもとか考えなかった?
手を出して、君が負けたら、それで終わり。そんな事も、気づかなかった?
力もわからない勇者相手にトップバッターとか、どう考えても貧乏くじだと思うんだけど。GOサインって事は、つまり捨て駒にされてるって事じゃないの?意気揚々と出てきてるけど勝算あるの?ないよね?何も考えてないんじゃない?大丈夫?
全然、何もかも、大丈夫そうに見えないんだけど。
「…ちゃんと、考えてる?」
「ハ!貴様が従いさえすれば、全て問題ないものを!減らず口ばかりだが、私にはまるで…今戦えば負けるから、怖いと言っているようにしか聞こえんな!なんなら今からでも遅くはない。非礼を詫びて素直に従え!」
つまり、「黙ってしたがっておれば良かった物を」と言う、テンプレオブテンプレなお返事なわけですね。
「…わかっちゃいたけど、馬鹿しかいねぇのか。この国は。」
気を使ってやるだけ無駄だったらしい。
ミリアンに会って。キーロに会って、油断してた。期待してた?
やっぱりダメだ。わかってたんだ。
この世界も、地球と同じだ。
人間なんて殆どがクズ。
でも、地球の時とは違う。
私は、理不尽を、黙って見過ごす必要はもうない。
「メンドクセ」
好きにすればいい。
私も好きにするからさ。
「あ?」
「間抜けに何喋っても時間の無駄だ。ほら…やれるもんなら、やってみな。」
ただし私は。
やられた分は、気が済むまで、やり返す。
ただそれだけだから。
「どこまでも馬鹿にしおってぇ…!!もう良い!まずは四肢を潰せ!素直になるまで痛い目を見せてやる!やれ!」
7人で、四方を囲まれていた。
武器が、刃物が飛んでくる。
だが、何も問題はない。
既に、私の周りは全面、異次元空間への4つの扉が繋いだ。
積量有限の七道具箱
まあ、別にアイテムボックスがなくても間違いなく私は無傷でおわるんだけどね。
万が一、服が破れたりしたら嫌だし。
勘が良い女性剣士は、他の槍やら如意棒モドキよりも自らの獲物が短かった事もあり、異変を察知して攻撃を止めていた。
だが、残りの6人の武器は先端がアイテムボックスの異次元扉に吸い込まれた。
アイテムボックスは人間と衣服以外が入る状態に設定。武器の出し入れについても自由で設定しているが、投入された武器は可能な限り解体して部品毎に管理するモードにした。
如意棒モドキはパーツにわかれていない為無事だが、つっこんだ5本の槍の先は全て回収された。
急いで槍を引いたが、あら不思議!
槍は、ただの棒にはや代わり。
これでも手加減したのに、笑える程の間抜け面を曝してくれる一同。
「な、な、な!?」
「…キヒ。」
手を出した。
手を出したね。
ああ、良かった。
もう我慢しなくて良い。
「キヒヒ、ヒヒ、ヒーヒヒッ!!」
そのビックリした顔も、笑えるね。
「ヒッ、ヒィィィィィイイイアハハハハハハハ!!!アーーーーハッハッハッハッハッハッハ!!!!ハァァァハハハハハハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!!ハァ、ハァ、ハーッハ!!!ハハハハハ!!!!!ハヒィ、ヒィ、ヒィ、ヒィー、ヒィー、フゥーーー…フフ。フハハハ。」
ごめんね、キーロちゃん。
平和的な解決は、無理だ。
予想通り過ぎて、笑えるよ。涙が出てくるほど笑えるよ。
「もういいや。良い人タイムしゅーりょーーー。」
そう、最初から決めていたじゃないか。
私はミリアンから、無意味な大量殺戮以外、概ね何をしても良いと言われている。
私の平穏を壊したのは、この国の、この世界の人間だ。
私は決めていた。
勇者召喚を正しく使えない国は、そのままにしておけない。
つまり、そういう事よね?
「さあ!長い人生、みんな今日までご苦労様。ところで諸君。主への祈りは済んでるかい?神の御名は、一字一句、違える事なく唱えたろうね?ヒハハハッ!結構、結構!さあ、さあさあさあ!それでは皆様お待ちかね!」
ちょうど良い。
恨みもある。
理由もある。
そうだ。今この瞬間から、この国は、私の獲物に決定だ。
遠慮も、出し惜しみも、無しだ。
さあ!
全力で、争いのない、平和な世界にしなくっちゃ!
神様の代わりに、このセステレスを生き易い理想の世界に、私が変えてあげなくちゃ!
だからまず、目につくゴミの掃除からだ!
「神罰代行の時間と行こうじゃないか…!」
本日のミリアン一言劇場
「……その通りです。愛おねえちゃんに武器を向ける輩は、肉体も、魂も、存在ごと消してしまうのが正義と言うものなのです。」