第15眼 奇跡を信じて祈って下さい! Side A 1
静寂。
沈黙。
誰も何も言わない。
うん、おかしいなぁ。
誰か返事をしておくれよ。
「あしからず。」
「………今、なんと言いました?」
あれ、聞こえなかった?
それとも、理解できなかった?
うーん……もう一度同じ事を言うのもなんだか悪い気がする。
「伝わらなかったかな?んー…じゃあね。」
一度咳払いをして、頭を冷静に。さっきのが短過ぎたみたいだから、もう少し噛み砕いて言うのが良いだろうか。
『私は、この国に住む人間や、領土等に一切の好意的な興味がありません。寧ろ私にとって害悪であるとすら感じています。敵か味方かに二極化する事にはあまり賛成できませんが、もしもどちらかと聞かれたならば、敵です。私が貴方がたにとっての敵である、と言うよりも、貴方がたが私にとって敵である、と言った方がより正確でしょう。貴方がたの自覚が有る無しに関わらず、私はもの凄ーく不利益を被りました。故に、どちらかと言えば敵であり、無条件で許す事などできるはずもありません。ただ、もしもそれ相応の理由があって、それについて謝罪があった上で、平身低頭の姿勢で協力依頼をされる場合がもしかしたら、もしかしたらあるかもしれない、そんな事になったら少しは心が動いたかもしれないと思って話は聞いていましたが。しかし、残念ながらそういった事はありませんでした。ええ、本当に残念です。ですので、現状は、協力だの交渉だのと言う以前の問題です。』
…我ながら長い!
これじゃ、人と話し慣れてないのがまるわかりだよ!うひゃー、恥ずかしいね!
おばかなミドリーちゃんも居る事だし、改めて端的にまとめると……
「端的に言えば…てめぇらの命なんざ、私が知るか、勝手にのたれ死ね。と、言う事です。…伝わった?」
よし!そう、私はこれが言いたかった!
だってー、拉致しといて偉そうなんだもーん。
というか、勇者召喚された人達が召喚した人の為に力を使おうって言うのは、どういう理屈から生まれる感情なんだろう。
私個人の意見で言えば、「ふざけんな」の一言で終わりなんだけど。
「何を差し出せ、と?」
「……うん?」
え?
えっと…?
なんだ、このおばさん。
私の言った事聞いてたか?
なんでここまで言葉にしたのに私がごねて強請ってるみたいな反応になるの!?
「…話が進まねぇ…。誰か助けて…」
嘆いた所で誰も助けてくれない。
うぅ………
キーロちゃんの言うとおり逃げてた方が良かっただろうか。
ああ、めんどくさくなってきたあ。
王妃様、とか言ってたけどもう様とかいらない。
ぎーんおばさんで良いや。それか「一人金さん銀さん」で。
いや待て、それはむしろ長くて呼びにくい。
「もはや我慢ならん!」
いよいよ話が進まず、せめて別の誰かに代表を代わって欲しいなと思っていた所に、再度怒り心頭と言わんばかりの顔でしゃしゃり出てきた大臣。
確かに誰かに代わってと思ってたけど、よりにもよって最悪の代理だよ………
はぁ、もうほんと勘弁してください。もう話終わらせたい。やめてよ大臣。
大臣?……………………何大臣?……あれ、彼の名前はなんだっけ。
…………うん。覚える必要もないか。
「姫様だけに飽き足らず王妃様へのその態度、挙句王命を拒むだと!?万死に値するぞ、勇者!」
……せっかく力をあてにして呼んだ勇者を、殺してどうする。
馬鹿なの?ねぇ馬鹿なの?
「11、12、逆賊を捕らえよ!」
「っ…!やめろ、レン侯爵!」
大臣に指示され動き始めて11と12と言う男女。男性はハゲの高身長マッチョ。刃物がついていない槍…ゴッツイ如意棒みたいな物を持っている。女性は私と同じ位の背格好だがちょっとだけ筋肉がついた手足をしている。彼女は腰から剣を引き抜いた。
で、どっちが11でどっちが12?
わからん。
声を上げて止めたのは第一王子アッカー。
先程のキーロ説得の際にもいち早く理解をしめしていたのが、アッカー王子だった。
まだ少ししかわからないけど、彼の性格はどうだろう。少なくともミドリーちゃんに比べればマシなように見える。シスコン疑惑により、私の中で良い人補正がかかっている可能性も否めない。
そんな彼アッカーは、自分の護衛バーンナム・ヤック・ニック・オド・アスノート(彼のステータス画面より引用)と言う人物に止められた様子。
他に誰も大臣を止める者はいない。
もうここに至っては収まりがつかないだろうとは思う。
そのまま戦闘が始まるかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
一人金さん銀さんから声がかかった。
「よろしい。レン。この場はお前に任せます。側近近衛を除く全城兵を一時的に預けます。ムラクモ直下の副官として動き、この目障りな者を私の視界から消して下さい。」
ただし、まさかのGOサインだ。
勇者と戦えって?
ちょっ、待てよ!
負ける気はさらさらないが…冗談じゃなくこれで開戦!?
もう少し、物とか金で釣ろうとか、何が何でも勇者を味方につけようとか考えないわけ!?
ここまで来て王様もだんまりだしさ!おかしくない!?
「おい!あんた、良いのか?答えはコレで間違いないかよ、王様!」
だが、王は微動だにしない。応える事などないと言わんばかりに。
「確かに『どちらかと言えば敵だ』と言ったのは私さ。でもまだ私らは、切った張ったするような仲じゃないだろう?協力するかは別だとしても、ちゃんとこっちの話も聞いてさ。相応しい礼を尽くすなら…手助けするかは別として、仲良く手くらい繋げたかもしれない!だから今こうやって、言葉を交わしてたんだろ!?」
今ならまだ、王様に戦う気が無いと宣言すれば引けるぞ!
さあ、どうだ!勇者と戦いたくはなかろうよ!
考え無しに手を出してくる馬鹿には、容赦なんかしない。
そう。私には、目的がある。
だからこれ以上は引けない。これが最後通告だ。
「まだ武器は、抜いただけだ。今すぐ仕舞わせれば、私は見ないふりもできる。でも向けられれば、振られれば、もう戻れないぞ。」
ああ……
ここまで言っても動かないのは、答えを返す気がないのはつまり、このままで問題ないって事だよね。
答えを聞かなくても、答えがわかってしまう。
「そうなりゃ私達は、敵だ。この国全部が、勇者の敵になる。途中で手を止めて貰えるなんてまさか思ってないよな?」
戸惑いもせず、答えようともせず、ただ静かに座っている。
私がこの問いかけを終えても、返事は帰ってこない。とわかる。
「…なあ、それでも、答えは変わらないのか?…ああ、変わらないんだな。」
私は、この国に必要ないって事かい?
おかしいよ。おかしいよね?おかしいよなあ?
なんで、必要ないなら、呼んだんだよ。
何の為に召喚なんかしたんだよ。
人の人生ぶち壊してくれちゃってさ。
おかしいだろ。
…なあ?おい。