第15眼 奇跡を信じて祈って下さい! の3つ目
「キヒヒ、ヒヒ!ヒーヒヒッ!!」
何がそこまで可笑しいのか、少女は壊れたように笑い続けた。
「ヒッ、ヒィィィィィイイイアハハハハハハハ!!!アーーーーハッハッハッハッハッハッハ!!!!ハァァァハハハハハハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!!ハァ、ハァ、ハーッハ!!!ハハハハハ!!!!!ハヒィ、ヒィ、ヒィ、ヒィー、ヒィー、フゥーーー…フフ。フハハハ。」
勇者は笑う。天井を仰ぎ、とにかく盛大に。笑いすぎて目が潤む程。潤む目を隠すように手を添えぬぐい、それと合わせて落ち着いてきた笑い声が途切れた。
異様、奇怪、不気味。そう形容するしかない高笑いが終わり、誰もが金縛りから解かれた後のような開放を感じていた、
しかし、安堵も疑問も何もかも、口に出せる者はいない。
彼女の様子に、彼女の発した空気に誰もが呑まれていた。
静寂が続く。
「はぁ………もういいや。良い人タイムしゅーりょーーー。イライラする事この上ないけど、わかりやすいのは私好みだわ。そういう意味じゃ、この結果も悪くない。」
そんな中で再び話し始めたその少女は、まるで最初に出会った時と変わらないような軽い笑みを浮かべていた。
「さて……改めましてこんば、ん?…昼?…改めましてこんにちは、勇者の敵となった可哀相なナンダカノートの諸君。私は勇者、名前はアイ。今から君らと殺し合いをする者だ。いや、嘘はいけないな。今から君らを、一方的に蹂躙する者だ。ああ、だけど私の事は決して怨まないで欲しい!先に私から自由と権利を奪ったのは君らの国だ!そして、話し合いを望む私の敵になると決めたのは、君らのトップだ。そして私は、今!そんな敵の只中で、僅かに残っている物すら全て奪われようとしている!だから、私は命を守る為に君らに何をしても!奪おうとした君らから仕返しに何を奪っても!きっと全てが赦される!!神は私を咎めない!!そう、これは正当防衛って奴だ。わかる?正当防衛。…まあ、この世界の法律なんてどうでも良いか。」
まるで大道芸人。まさに道化師。
不必要に大きな身振り手振りを加えながら、その場に居る全員に話しかける。だが、誰も何も返せない。彼女が何が言いたいのかわからないというのもあるが、それは間違いなく威圧に似た何かだった。笑いながら、獲物を品定めするようなその少女に、大の大人たちは揃って言葉も出せなかった。
何故気がつかなかったのか。
最早手遅れだが、既にその情報は齎されていたはずだった。
何故今更気づいてしまったのだろうか。
それは聞き逃してはいけないはずなのに。
「さあ!長い人生、みんな今日までご苦労様。ところで諸君。主への祈りは済んでるかい?神の御名は、一字一句、違える事なく唱えたろうね?ヒハハハッ!結構、結構!さあ、さあさあさあ!それでは皆様お待ちかね!」
違う。
アレは、想像していた物とは違う。
ただの勇者では、ない。この相手を、侮っていいはずがない。
「パーティータイムと行こうじゃないか…!」
ああ、もしも。
この忌々しい呪いさえなければ。
だが全ては後の祭りだ。
きっともう、この国に未来はない。
ああ、もしも。
先にアイと名乗ったあの少女と話せたならば。
だができる事は既にない。
あとはもう、奇跡を願って祈るしか。