第13眼 召喚の理由を聞かせて下さい! Side A 2
そんな今の話題と関係ない事を考えていたら、この国の現状説明が王妃様から始まっていた。
だが、途中まで話していた王妃様が言葉を止める位に大きな声を上げてキーロが珠玉の間へと入ってきた。
「アイ様!」
勿論、キーロちゃんのステータスにも当然のようにスキルがあるわけだ。
なんだか「勇者はスキル持ってて凄い存在です」的な事をキーロちゃんも言ってた気がするんだけど、あれー?君も持ってるジャン?これはもしや、盛大な異世界ドッキリなのだろうか。玉座の後ろとかに「ドッキリ大成功!」のフリップがあったり?
だがキーロの様子は、疑いようもなく真剣だった。
「アイ様、お願いいたします!どうか私めに、家族だけで話をする時間を、何卒…!」
「キーロ、ちゃん?」
家族と話をさせて欲しい、という強い懇願。
ミドリーちゃんをはじめとした王族の私への態度の悪さときたら、もう信じられないと言う他ない。それらを止めたいと思う気持ちはわからないでもないけど……いったい、私が珠玉の間に入ってから今までの時間で、どんな心境の変化があってこんなに焦っているんだろうか?これなら私より一足先に入って相談しておいた方が良かっただろうに。
私が入った後、何やら珠玉の間へ入る扉を守っていた番兵達と話していた様子だったので、何かしらの問題があったのかもしれない。だが、その内容を今細かく話すような場でもないだろう。
そうこうしている内に、キーロを退場させるなんて話まで出始める始末。
え、だってこれって結構大事な話し合いだからこんなに人集まってるんだよね?王様候補が退場させられるって、結構マイナスな気がするんだけど。
キーロちゃんの不利益になる事はいやだなぁ。
「キーロちゃん…ちょっと落ち着いてよ。ね?」
「ですが…」
「キーロちゃんが追い出されちゃったら、私寂しいし。私も確認したい事とか、状況でまだわからない所とかも多くてさ。だからとりあえず、もうちょっと話聞かせてくれない?」
「アイ様…!」
「約束通り、後で話は聞くから。ね?」
珠玉の間に入る前に、お茶の約束をしているのを私は忘れてはいない。
勿論、話し合いの結果如何によっては、実現できない可能性もあるにはあるが……話し合いで終わらない場合も十分にあるとは思っている。が、今はそれを考えても仕方がないだろう。余程の事がない限りは、約束は守りたい。
「姫様、失礼いたします。」
「あ」
明らかに残念そうな顔をしたキーロを振りほどけない私。すると更に後ろから来たムースが現状を見兼ねて連れて行ってくれた。ナイスムース!
そして王妃様は大して悪びれてもいない様子の軽い謝罪をした後、話を再開する。
キーン・ギーンとか言うおばさんの話は凄く長い。長くて回りくどい。
私には似たような名前のキンと言う知人が居たが、とても会話が楽な相手だったよ。
それに比べてこの人は本当に面倒だ。
ごってごてな装飾過多の説明を短くまとめるとこうなる。
いま敵の国と戦争しててー。
で、もう一国参戦するって言うのよ。
更にもう一国が攻めて来そうなわけ。
ヤバい。もう超ヤバ。
うちらもう今戦争してっし、マジ疲れきってるのわかるしょ?
だから勇者ヨロシクー。
っていうかうちらの為に働くのが当たり前だし。
われながらわかりやすくまとめられたとおもいます。
「…いや、現状については理解できた。うん…理解はできたんだ、ただ、質問と言うか確認と言うか、あーー…。」
予想通りだが、お願いとかじゃない。ほぼ命令に近い。
こういう理由で来て貰いました、はい説明終わり!じゃあ具体的にどうするかを決めましょう!…ってさ。こっちの意思を確認する肯定が完全に抜け落ちてるんだよね。
それを当然のように見守る観衆。キーロちゃんとムースに関しては事前に話し合った事もあって、私の境遇に理解を示してくれているとわかるけど…他は誰も何も言わない。王様には逆らえないって事なのか。それとも、これが当たり前だと思われてるのか。
私は、この国の所有物だと認識されてるのかしら?
あ、そ。
わかっちゃいたけど、気に食わないね。
「先に、ハッキリさせておきたいんだ。私の立場って奴をさ。」
「…立場、ですか?」
「そう、立場。つまり、私が貴方達に、この国に、どう扱われるかと言う話!今行われているのが、懇願なのか、交渉なのか、命令なのか。勇者とは救いの慈悲をこの国に与えてくれるかもしれない雲の上の人物なのか、戦力として傭兵として力を貸してほしい対等な交渉相手なのか、この国の為に命も力も差し出すのが当然の奴隷と大差ない」
「滅相もございません!奴隷など!」
「キーロ…!次に邪魔をしたなら、本当に追い出しますよ。」
「…」
「何度も失礼。どうぞ。」
「ああ、えっとね。じゃあ、例えば例えばの話ですが、全部事が終わった後に私は国を救った英雄として感謝されるのか、お前の仕事は終わったなさあ帰れ…ってなるのか。そういうのって、事にあたる前に決めておかないと、もめる原因になると思わない?」
「…つまり貴女が言いたいのは、報酬が出るのか、と言う話でしょうか?」
「ああ、勿論お金は大事だ!そこの所もキッチリしておくべきだけど、コレはお金だけの話じゃ終わらない。言葉通り、私の立場についてさ。そちらからすれば、今の時点で『ああ神様、勇者様!自らの力ではもうどうにもできない非力な私達に、その力をお恵み下さい。』なのか、『その力をこの国の為に使ってくれるなら相応の報酬を出そう』なのか、『国王が命令してるんだから、あんたは黙って四の五の言わずに馬車馬みたいに働きなさいよね!』なのか。…ここの所を先に、明確に言葉にして欲しいわけですよ。」
「…そういう事ですか。」
王様と御妃様は二人、アイコンタクトで通じ合ったらしい。
さて、運命の返答は?
王妃は、わざとらしい程に、鼻を鳴らして笑いながら言った。
それが全てを表していた。
金は出す。
戦う為に必要な物も、最初は出してやる。
だが、お前の働き次第だって事を肝に銘じなさい。
との事。
ああ、そう。
「ああ、ああ。成る程そういう………奴隷以上、対等以下って事ね。了解了解。」
王様も、それで間違いないと。
そうですか。
おk、把握。
なら
お前らは敵だな
私の敵だ
「…OK。」
「立場が理解できたのなら、まずは言葉遣いから改める事をお勧めしますよ。」
「いいや、その必要はない。それ以前の問題だし。」
「それ以前?」
「そう。あんたらは、交渉するに値しない、救うに値しない。交渉するとかしないとか、それ以前の問題だ。今、そう判断を下した。」
「…それはどういう」
「アイ様!」
どうやら、私の態度で気がついたらしいキーロちゃんは、もう一度食い下がる。
そこへ横槍を入れて来たのは、貴族風の痩せたお坊ちゃん。
高そうな服、靴。偉そうな態度。人を見下した表情。これでぽっちゃりなら、いかにも頭の悪い貴族デスーって見た目なんだけどね。
本日のミリアン一言劇場
「え!?スキル、こんな、沢山……………………あ、あれれー?おかしいのですよー?」