第13眼 召喚の理由を聞かせて下さい! Side A 1
「良くぞ参った、遠い異世界の民、勇者よ。」
ああ、遠い異世界からはるばる来たのは、お前らがした拉致まがいの召喚が原因だがな?どうやらそれは理解していないご様子。ああ、ああそうかい。わかってたさ。
頭が痛い思いだよ。
こんな考えなしの馬鹿共に私の平穏が壊されたのだと思うと無性に腹がたってくるね。でも短気は損気。ちょっと冷静に分析していこう。
まさか、ステータスを弄って魔族最強になった私に敵う人間なぞ存在するはずはないとは思うのだが。………だって、明らかに人間じゃないのも、この広間には混ざってるしね。用心に越した事はない。
と言う事で。
単目直視の覚醒邪眼 の2つ目
『絶対鑑定の遠望透過』
説明しよう!
これは『TPS(第三者視点のシューティングゲーム)みたいに自分を俯瞰できる視点操作+透視&ステータス閲覧の上位版』と言う、詰め込み過ぎたチートスキル。
何故こんな事が可能だったか?
そもそも勇者は、相手のステータスを見る事が元々できる。と言うよりもミリアン曰く、ステータス魔法自体が勇者の為に導入された物だ。一応現地民にも確認方法はあるらしいが、基本的には勇者が魔物・魔族討伐の際に無理をしないようにステータスと言う強さの指標をざっくりと可視化した事が始まりらしい。
つまり、スキルなんぞなくても相手のステータス見放題。それが勇者。
じゃあ何故「絶対鑑定」なんて言う仰々しい名前のスキルを持っているかと言われれば、それは相手の隠蔽ステータス…主に、スキルを見る為だ。
生き物としては最強な私なんだから、危険があるとすればそれはきっと未知のスキルだろう。じゃあ相手のスキルが見れれば凄い安全だよね!と言う事でこんな事になっている。
元々勇者に備わっている能力をちょっとアペンドするだけだから非常に容量が少ない。これで一枠使うの勿体無い、と思って同じく視線に関するスキルである千里眼的な能力を物凄く効果を薄めて一緒に詰め込んでみた。何せ二つのスキルを一つにまとめたのだ、凡そ千里眼とはかけらも呼べない程度の範囲だが、範囲内であれば障害物を透視できるため壁越しにでも相手を見る事ができる。
ただTPSみたいな、と言ったが実際には語弊がある。範囲内であれば自分の意思で自由に移動できる。必ずしも後ろや前から、自分を見下ろす必要はない。
この俯瞰と透視のおかげで死角は無いと言っても過言ではない。
見た物に効果を表す『覚醒邪眼』に、物理的な死角を可能な限り減らす『望遠透過』。そこに加えて、視力が人間の時と比べて遥かに強化された、魔族の体。全ての歯車がピッタリと噛み合っていると言えよう。
とは言った物の、まあスキルなんてセステレスの世界で生きていてそうそう手に入る物ではないと言う事もミリアンから聞いていたので安心していたのだが。
「ハハッ…」
予想できない展開に、声が漏れた。
壇上から見下ろす王。
まさかまさか、彼、スキルを持っていた。
スキル名:統治者の威厳
属性:呪縛契約、攻撃無効、遺伝(高)
効果:
1、契約を交わした相手に三つの制約を課す事ができる。
制約は課された本人の意思で破る事はできない。
契約中は契約と制約に関わらないスキル・魔法での攻撃を消滅させる。
契約上限は10人。(開放:8人、契約中:5人)
2、スキル属性が高確率で遺伝する。
「統治者」ときましたか。
正に、王者に相応しいと思わしきスキル名だね。
しかも呪縛って。王様が人を呪うとか。洒落にならない。
はじめて見たセステレスのスキルだけど、なんだか文字数が私のと比べると少ないのはなんでだろう。当然だがフリカナも無いよ。うん。私のあれはなんだったんだろうね。
しかし、王様のこのスキル…つまりこれはこういう事だよね?『契約した相手には三つまで何でも言う事きかせられるんだぞ!』って事だよね?
制約に同意するのが契約なのか、内容はなんでも良いから契約すれば制約は後付けできるのか。後者なら相当厄介だ。
もし仮に「王命に逆らうな」「王を害するな」「王の利益を害するな」とか言われたら、もう完全にこの国の奴隷になるよねこれ。
どちらにせよ、知らずにほいほい安請け合いしたらどうなった事だろう。まさかの初日詰みもありえたかもしれない。異世界まじ怖い!
だが、本当に恐怖を感じたのはそんな事じゃない。
ぐるりと見渡せば、王族は当然その他の身分高い系な人々にとどまらず、まさかの付き人にいたるまで。守備部隊と思われる兵士の中には持たない者も居るけれど、それも少数派だ。
この場のほぼ全員が、スキルを持っている。
ついでだが、ミドリーちゃんのスキルは『統治者の威光』。
王様の『統治者の威厳』とかなり似通った名前と効果をしている。
違う部分は大きく二つ、スキル属性の遺伝は必ずって所と、制約が「自分の配下(制限人数無し)」に「一つまで」となっている所。
備えあれば憂い無し……じゃないよ。
なんだよこれ。は?え?ミリアンちゃーん?ちょっとおかしくなーい?話ちがくなーい?あれー?だってこれ、この国に、勇者とか要らないじゃーん。呼ぶなよ私ー。こんなにスキル持ってる奴が居るならお前らで十分解決できるだろー。ふざけんなー。
はぁ。
心の中で文句を言ってても仕方がないか。
でも、これは思っていたよりも危険かもしれない。
ステータスで圧倒していようが、それらを無視して敵を圧倒できるだけのポテンシャルがスキルにはある。スキル辞典を見て沢山試してきた私が言うんだから、間違いない!そんなスキル持ちが沢山居る現状、果たして無事に帰れるだろうか?
……まあ、ならスキルを使われる前に終わらせれば良いのか。
先制攻撃でみんなまとめてやってしまえば安全だろう。
いやいやいや、落ち着け私。
そうなればただの虐殺だ。
まだ拉致されただけだし?キーロちゃんは可愛かったし?
もう少し様子を見よう。
彼らの話を聞いてから判断しても遅くはなかろう。
しかし大勢の観衆の中、このまま本題に入ろうとし始める王様。
マジか。
つまりこれはアレか。予想通りのアレなのか。
「まさかこのまま?…場所移さなくて良いの?」
「勇者の存在はこの国に光を齎す。少しでも多くの者に知らしめるべき事だ。それとも、何か?大勢の前では言えぬ事でも?」
「…まあそっちが良いなら、別に私はこのままでも良いだけどさぁ。私は、どうなっても責任取れないからね。そこんとこヨロシク。」
拉致監禁。ん?監禁じゃない?
そうだね。私は家に帰る方法が今の所ないわけだから、監禁よりも更に酷いよね。
もしもの話だが。
やんごとなき事情で、「どうしても勇者しか手がないんだ助けてよアイえもん!」ってお願いされたなら、私だって少しは情に絆されたかもしれないのにね。この態度だよ。予想通りだけど。
キーロちゃんの言う通り、ここには私を不快にさせるそれしかないんだろう。
まあ一応、最後まで聞くけどさ。
そして王は直ぐに私との話を「雑務」と判断したらしく、隣に立っていた奥さんに主導権を渡した。
第一王妃、パール・キーン・ギーン・カー・ラ・アスノート。
プレゼントキャンペーンが捗りそうな名前だ。
因みにここでステータスを見てようやく気がついたが、どうやらこの国の王族は、名前に色が入っているらしい。
国王、ハイ・シロウ・クロウ・カー・ラ・アスノート。
灰に白黒と盛り沢山。本人の髪はまだ黒いが、そのうち白髪が増えてくるだろう。
王妃、パール・キーン・ギーン・カー・ラ・アスノート。
金銀はわかるが、「パール」だけが全く色と関係ない。…ゲットだぜ?
長男、クロウ・ミズー・アッカー・カー・ラ・アスノート。
原色に近い赤色の髪をする青年。水あっかー………。私からはノーコメントで。
次女、ギーン・フーカ・ミドリー・カー・ラ・アスノート。
深緑。深いと言う程濃い色ではないが、確かに美しい緑色の髪をしている。
そしてここに居ない長女、ギーン・アーサー・キーロ・カー・ラ・アスノート。
言わずもがな、パステルイエロー、黄色の似合う美少女だ。
ここまではわかる。
だが、もう一人。
判断がつかない謎の美少女が居る。
王族の関係者なのか、もしくは偶然なのかはわからない。
ハク、と言う短い名前しか見えない少女が、王の横に居た。
年も正確にはわからないが、ミドリーと同じか少し若い位だろう。
ハクが「白」を表すなら関係はあるだろうが…それにしては名前が短い。
白黒な国王と色被りしてるしね。
髪も、白は全く関わりのなさそうな橙に近い色だ。夕日か朝日を彷彿とさせる濁りのない綺麗な色だが、煌くというよりかは落ち着いたオレンジ色をしている。
他は全員髪の色と名前が一致している事を考えると…偶然の方が可能性は高いかもね。
だが、王族か否かと言う以前の問題でもある
『覇王暴君の阿修羅道』
持ってるスキルの名前は物々しい上、唯一ルビ付。ルビは相も変わらずのできで、ミリアンが付けているんじゃないかと疑いたくなる程ツッコミ所満載だが、正直な所一番警戒するべき相手かもしれないと思う。




