第13眼 召喚の理由を聞かせて下さい! の3つ目
「奴隷として扱われる事はありませんよ。勿論相応の見返りを約束しましょう。更にそれは、功績に比例して大きい物となるでしょう。当然勇者一人で戦場に立たせる事はございませんし、必要物資や資金については賄われるのでご安心なさい。…ただ。」
「ただ?」
「ただ勘違いなされているかもしれないので、ハッキリと告げておきましょう。…対等?対等な立場かと聞かれましたか?成る程、先程からの発言の理由に得心がいきました。逆に問いましょう。今の貴女は、いったい、なんですか?」
王妃が、わざとらしい程に、鼻をフンっと鳴らして笑った。
それに合わせて周りで傍観していたそこかしこからも溜息のような馬鹿にした笑いのような、そんな音が幾つも洩れ聞こえる。
「貴女は偉業をなした勇者ですか?世界を平和にした英雄でしょうか?いいえ、違います。今はまだ勇者召喚の儀で現れた、神から力を授かっただけの、異界に住んでいた、ただの小娘に過ぎません。資金も物資も人手も持たない、ただの小娘。必要になる分は金も物も人も、まずは此方で用意しましょう。ですがそれらの補助が続くかどうかは当然、貴女の働き次第だと言う事も肝に銘じておきなさい。どれだけの力があるのか、その力は安全且つ正しく扱えるのか、そしてどれだけ効率的に有意義に使えるのか、それだけの頭や常識があるのか。使える人間かどうか、我が国の命運を賭けるに足る存在なのかどうか…値踏みしているのは貴女ではない、私どもなのですよ。おわかりですか?」
「ああ、ああ。成る程そういう………奴隷以上、対等以下って事ね。了解了解。で、一応確認なんだけど…それは国王様もおんなじ気持ちって事だよね?王妃様個人の意見ってわけじゃなくて、この国の総意って事だよね?」
「…妻の言葉の通りだ。」
「ほぅ…、即答で良いのかい?この回答は、後からは覆せないぜ?」
「三度は言わん。」
「…OK。」
「立場が理解できたのなら、まずは言葉遣いから改める事をお勧めしますよ。」
「いいや、その必要はない。それ以前の問題だし。」
「それ以前?」
「そう。あんたらは、交渉するに値しない、救うに値しない。交渉するとかしないとか、それ以前の問題だ。今、そう判断を下した。」
「…それはどういう」
「アイ様!」
勇者の言葉に騒然とし始める人々の中、キーロは声を上げて弾かれる様に再びアイと呼んだ勇者のもとへと駆け寄った。
だが先程とは違い、彼女の前までたどり着いたキーロは、くず折れるようにその場に両膝をつき手を組んだ。その姿は敬虔な信徒の神への祈りか、忠実な臣下が命を賭ける誓いをするかのようだった。
この光景を見ていた物達が驚愕で一斉に息を呑む。
本来キーロの相談役であり、こういった事態には率先して止めるべき立場のムースは、その様子を呆けるでもなく、ただ苦々しそうに見つめていた。
「キーロ!…ムース、キーロを連れて出ていきなさい。」
「お母様は黙ってて!アイ様、どうか、無礼を私と我が国の無礼をどうかお許し下さい。私が償える事ならなんでも致します、ですのでどうか!」
「な、なんでも!?」
「はい!」
鬼気迫るキーロの剣幕に対し、嬉々とした声と邪悪な笑みを浮かべる勇者はあまりに対象的な光景だ。
だがその場でやりとりを見ていた全ての者は、どちらにも言葉をかけ兼ねていた。
「ムース!命令よ、早くなさい!」
「…」
壇上からかかる王妃の声にしかし、ムースはあろう事か見向きもせずに二人の会話の行く末を見つめている。
止める事ができずに誰もが見守り、誰にも咎められないと知った二人は会話を再開していた。
と言っても観衆を気にするのは専ら勇者であり、話の中心であったキーロに関しては一度たりとも勇者から視線をはずさないのだが。
「んー仕方ない。他ならぬキーロちゃんにここまで言われちゃあ、仕方ない。わかったよ。皆さん、ちょっとだけキーロちゃんとお話しさせて貰えます?」
「ふざけるなぁああ!」
そこへ突然声をあげたのは、ずっと端から見ていただけの若い中央貴族だった。