第12眼 現状を詳しく纏めて下さい! の3つ目
ここは恐らく王城と呼ばれる建築物だ、と察しをつけている。
ここまでの道中全ての柱や壁は石造りであり、しかし原始的な物ではなく、継ぎ目ないかなりの高技術で建てられた物に見えた。
それは全貌を初めて見たばかりの珠玉の間も同じ様で、素材自体は石でできてはいるのだが、この部屋は廊下と比べ独特の趣があった。
中は豪奢な、赤に金糸で細工された布を敷いたり巻いたり垂らしたりと、これでもかと言わんばかりに飾り立てられており、ただし華美ではあるが贅沢には見えない物だった。例えるなら、クリスマス用にラッピングされたプレゼントボックスを見ているような気分にさせられる部屋だった。
石造りの城と言えば某有名ゲームのボスキャラの根城が一番最初に思い浮かぶよね。
亀をはじめとする謎の生き物のオンパレードを従えるカリスマを持ちながら、異種族であるはずの人間の姫を執拗につけねらうだけのストーカー愛溢れる彼。
…ユッケだかビビンバだかコチュジャンだかと同じ、美味しい系統の名前をした、爬虫類系生物のお城。アレは現代技術で言えば住処としては落第点で、煉瓦を積んだだけ。狼さんは追い返せても、人間が住むには難ありだ。隙間風との触れ合いパークだ。
…いや、さすがにそれは冗談だよ?建築のけの字も知らない私だが、石を積んだだけでお家ができてしまうとは思っていない。レンガで家を作った三男は間に何かを塗っていた気がする。きっとアレはコンクリートか何かだろう。
なら全部コンクリートで作ればよくね?………家作りは謎が多い。
話がそれた。
さっきまで歩いてきた廊下は窓が沢山あったけど、ここ珠玉の間にはそれらしき物はない。
そのせいで少し暗いのが、某お城を連想させた原因だろう。
光源は、等間隔で立っている謎の像。
結構リアルな人型半裸像。その体の一部が光ると言う、「シュールで理解に苦しむ芸術」感漂う巨大な明かり。だって明かりになってる部分より石び部分の方が大きい石像。明らかに像メインだよこれ。石像のおまけとしてライトが付いてる、明かり(おまけ)付属の半裸の石像(本体)だよ。
その趣味、ちょっと分かり合えそうにない。
って言うか突然どうしたの!?歩いて来た廊下にはこんな異様な光源らしき物置いてなかったんだけど!?
本当に今更だが、このまま話し合いに臨んで大丈夫だろうか……私もこの像の一つにされたりしないだろうか?
…にしても、あれは電気か?いや、魔法アイテム的な…?
電球なら普通、壁や天井についているイメージだよね。
あー、もしこの世界に電気の技術がなかったらどうしよう?
生活の不便さもそうだが、それより大きな問題が一つある。
電気がないのに携帯とかネットとか無理だからね?ほんと無理だからねミリアンちゃん。もしかして私、電気の発明と電力会社の設立まで要求されてたりしないよね?
……うん。これもできれば早めに、文化レベルを確認したい所だね。
最初に見えた赤い幕を迂回し、広間の全体が見える位置で思考を巡らせていたが、長く立ち尽くしているわけにもいかない。
一瞬では数え切れない程の人数が、既にこの部屋に参列し、値踏みするような視線を投げかけていた。
臆しているわけではないが、平常心とも決して言えない。
まずは一歩前へ、と足を踏み出す。
部屋着の上に纏った黒いマントが、少し遅れてついてくるの感じながら、足を止めずに片目をもう一度閉じる。
さてさてさて。
ここで異世界的あるある、 国王との謁見イベントが発生しました。
分岐パターンは下記を参照。
1、王様が寛容で礼節に関しては咎められない。(異世界イージーモード)
2、最低限の略式進行とその対処を叩き込まれる。(異世界ノーマルモード)
3、謁見までに礼儀作法と挨拶全て覚えさせられる。(異世界ハードモード)
4、そもそも王様が下賎の者などと会う訳がなかろう。(愛ちゃんマストダイモード)
5、本だけの知識から知ったかぶりでその場を切り抜けろ!(愛ちゃんチートモード)
6、一体いつから、この謁見が…初対面だと錯覚していた?(ドキっ!城下町での出会ったあの人は?運命のフォーリンラヴモード)
是非とも6でお願いしたい。ただし若くてイケメンに限る。許容範囲は+7歳まで、それ以上は性格と年収により要相談ですよろしくお願いします。
ああ、だが残念。下町をぶらっとする機会はなかったので今回はありえません。そもそも今回玉座に座っているような髭の似合う渋メンは、私ちょっとふぉーりんできませんごめんなさい。
ふぅ。…………さて、と。
まあちょっとふざけてみたが…真面目な話、キーロちゃんと折角一緒にここまで来たのに何も聞いていない、2を選び損ねた残念な私は今、一見5が一番理想的に思える。
「へへ、アンタ異世界小説も読んでたんだって?なら挨拶位余裕だろ?」
うん、傍から見たそうだよね?そう思うよね?
そういうシーンを、読んだ事があるなら、できるだろう?
ハハハ!ハンっ!!ハンっ!!!ハーン!!??
言ったな?今言ったな!?良いだろうじゃあお前やってみろよ!ここがインドの謁見場なら初見でナマステだぞ?ナマステは今関係ないよ!インドの皆さんごめんなさいだ、このやろう!ああ、もう、どうしようもない。そういう問題じゃないっての。
就職面接くらいならできるけどな!アレだって一応練習したんだからな!実際に見た事も無い物今日突然やれとか言われてもできないし!って言うか国どころか世界が違うんだから異文化交流に決まってんだろーが本で見た事できてもそれが正解とは限らないだろーが正解なんてないのが人生みたいなもんだろーが!
1は任意選択できません、3は手遅れ、珠玉の間に通されている時点で4の目は既になく、もはや私に選択肢はない。つまりは、現状、打つ手無し!オワタ!
なので!新たに起死回生の選択肢を一つ増やします…!
7、オッス、オラ勇者!アイサツ?何だそれ、うめえのか?(愛ちゃんバーサーカーモード)
これ1択だ!
…え、なに?真面目じゃないって?
ああ、そうさ。
私はそもそも謁見と言う初体験を前に、大いに昂ぶっているらしい。
そもそも、日本に住んでいて日本のトップに面と向かって直接陳情できるのか?もし実は知らないだけでそんな方法があるとして、それ専用広間ははたして存在するのか?いいやできない、きっとない。
と、考えた時。
「いや、だからそもそもリアル謁見の間とかねーから(笑)」
なんて頭の中で考えながら異世界小説を読み進めていた過去の私。
そんな私が今いるのは、セステレスが一国、なんだかノートと言う国の、通称大謁見場と呼ばれるらしい『珠玉の間』。
はい。
過去の私に教えてあげたい。
あります、謁見の間。
なーんて言っても、普段はそうそう使われない場所のようだけど。
RPGの冒頭で「勇者よ、世界を救うのじゃ!」とか言って、いつ戻ってきてもそこから動かず「救うのじゃ!」と繰り返し、パーティー全滅したら「おお、死んでしまうとは情けない。」なんて辛辣な言葉を投げかけながらも回復してあげる、みんなのヒロイン、ツンデレ王。略してレ王。
もしくは一昔前の漫画やアニメで良く見た、何日も前から予約で埋まっており、毎日朝から列をなして人が途切れる事は無く、民の声一つ一つを真摯に受け止め、打開策や必要な資金を出したりたまに暗殺を企てられたりと、確かにそれ良い王様っぽいけど国の長なのに他に仕事ないの?それが唯一のお仕事なの?この国はそれで大丈夫なの?なんて不安を提供してくれる八方美人王。命名ビ王。
そう。そんな彼らがいつも座っている事で有名な謁見の間は、別にいつでも誰にでも開放してはいないのだ。コンビニのトイレとは違う。
ここが、王様の、所定の位置では、ない。
しかし、今回に限って言えば、そんなどこかのテンプレを模写してきたように、正面に見える壇上の玉座。国王が私を待ち構えるように座っていた。
「良くぞ参った、遠い異世界の民、勇者よ。」
本日のミリアン一言劇場
「貴方に押し付けたのは、ただの……私の我侭です。断ったって、怨んだりなんかしなかったのですよ?ねえ、お姉ちゃん。貴方は……本当に、不器用なのですね。」