第12眼 現状を詳しく纏めて下さい! の1つ目
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記念に本日から第一章終了まで(質が保てる間は)一日一部ずつの毎日更新に切り替えます。
※第12眼は1話ほぼまるまる愛ちゃんのモノローグ回。
珠玉の間への扉に入ると、まず大きな赤い幕が目の前にあり、先が見えなかった。
普通の騎士風の男が一人と、装備的にはかなり高級そうな感じの騎士風の男が一人立っており、普通の騎士が進む道を示してくれた。
後に続くはずのキーロやムースは姿を見せず、後ろで閉まった扉の向こうから微かに話し声が聞こえた。
恐らく私、正確に言うなら勇者が居ない場所で、引継ぎやら報告やらが必要だったのだろう。
珠玉の間に足を踏み入れてすぐ、これから相対するのが一国の王やその傍に仕える者達である事を改めて思い出していた。
王への謁見に際して必要な知識がない。特に、この世界独特の挨拶等はないかを確認していない。
そういった知識の教授がないままここへ連れられて来たが、はたして異世界人として認知されているだろう勇者には、そういったマナーは求められるのだろうか?
日本でも初対面の挨拶はとても大事。
社会人勤務初日からしっかりとした挨拶ができないとネチネチとしつこい上司に目をつけられる。
平民だなんだと見下されてる私が王様に横柄な態度をとったらどうなる?トラブる?お決まりの「私は大臣だ!こらお前、王に対しての礼儀がなっとらんぞ!」イベント来る?
そう言えば初めて顔をあわせたミドリーが、「挨拶もできない」なんちゃらかんちゃらとか言ってたような気がする。おばかミドリー限定の物なのか、他の人物にも当てはまる考えなのか…今の時点じゃ判断できない。
一応、そういった所も含めてキーロちゃんに確認しておきたい所だったんだけど…。
だがしかし、後に続いて直ぐに入ってくると思っていたキーロ達は姿を見せない。
……てっきり扉を開くと、その前方には王様の姿がいきなり見えると思ったけど、思っていたのと少し違うけど。
垂れ下がった赤い幕の向こう側から感じる、大勢の人間が発する独特の静かな喧騒。静かなのに騒がしいとはこれいかに。矛盾のようではあるが、とんちや禅問答をしたわけではない。確かにうるさいわけではない、にも関わらずこの幕一枚では断ちきれない気配がハッキリとある。聞き取れる。呼吸や衣擦れの音なのか?或いは小声で前後左右の人と話しちゃう学校の体育館の中現象か。
間違いなくこの向こう側に居る。しかも、数人ってレベルじゃない。大勢。
懐かしき、学校の体育館に集められた児童達のざわざわ感…。
学校の代表になった経験なんて一度もないけど、きっと私が校長先生だったなら、壇上に立つ前が丁度こんな感じだろう。
怖くないわけじゃない。けどそれより、これからする予定の演説まがいの討論で、一体全体どんな反応を返してくれるのやら。そう考えるだけで楽しくなってくるね。
せっかく一人で考えを巡らせられる時間が来たのだ。
この時間を利用して今のうちに、改めて私の勝利条件とスタンスをまとめよう。
なに、どうせ私の頭の中を読むのなんて、神の間から私の様子を伺うミリアンくらいだろう。
全て包み隠さず、手早く本音で行こうじゃないか。
左目を閉じて、私は思考を巡らせる。
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ミリアンからの依頼は細かい物は沢山あるが、可能な限り全力で取り組んで欲しいと言われている物は5つだ。
A、勇者召喚技術の撲滅。
勇者召喚に関わる知識・情報・魔法全ての根絶。早急に。
B、ミリアンのフルネーム布教。
特に教会上層者の意識改革と、聖典の修正を強く希望。
C、人類対立状況の緩和。
人類大戦争をある程度収束、またそれを助長する人物がいれば処理。
D、文化の発達促進。
可能な範囲で。…理想は携帯とネットの普及らしい。
E、異端宗教撲滅。
問題となる一部の信仰とその象徴を処理根絶。
この国ですぐに手を出せそうなのは勇者召喚技術の撲滅。状況によって他も視野に入れて行動と言った所だろう。
この辺は柔軟に対応していきたい所だね。
次に優先順位。
■最低限達成しなければいけない最終防衛ライン。
1、「砂原 愛の生命の安全確保。」
大切な事なので一応確認したが、これは正直心配していない。
魔族へジョブチェンジしステータス爆上げしたスキル複数持ち。
多分普通の人間だと私を害せる者は居ない。
但しこの世界には勇者ほど強力ではなくとも、スキルを保有している人間も存在するらしい。人間以外の生命体も存在している。
自分が無敵ではない事は自覚して、油断し過ぎないようにしておこう。
いのちだいじに!
これはミリアンにも悪いが、他の何をおいても優先させて貰いたい。
■勝ち取りたい勝敗目標ライン。
2、「勇者召喚の儀式に関わる情報・魔法の破壊。」
重要ミリアンクエストの一つ。
放置した場合、強制イベント「王都がボンっ」発生の可能性あり。
安全確保の意味もあるが、できれば本日中完了が望ましい。
3、「セステレスでの生活に必要な物資や情報。」
王城の外の事を知らない私は、カー・ラ・アスノートへの協力を拒否した場合恐らくそのまま異世界に身分証明書も無く放り出される事になる。
そもそも無断で拉致したのはこの国の人間。
ならその情報や必要物資を提供するべきは?そう、彼らだ。
■余裕があれば確保したい完全勝利ライン。
4、「戦争助長の原因になりそうな人物を処理。」
需要ミリアンクエストの一つ。目下有力なのは私の召喚を決定した人物か?
5、「敵対者への攻撃・殺害、もしくは実験体の確保。」
必須ではないが、今後の為にここでしておくのがベストだと思われる。
6、「キーロ姫の立場の確保。」
必ずしも私がやるべき事ではないが、機会があれば是非手助けしたい。
7、「ミドリーへの悪戯実行。」
自分とキーロの憂さ晴らし。ついでの資金確保ができればなお良し?
8、「宗教関係の情報収集。」
効果的な布教や聖典改善等の為に、まず何が必要なのかを確認したい。
こんな所か。
順位付けしてみたはいいが、変な立ち回りをしなければ、恐らくこの謁見で私のこの国での目標は8割方片付くだろう。
全ての条件を達成した上で更に次の国へと即日で旅立つ、と言うのが理想なのかしら。