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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
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! 1章EX 浅黄乙女の暗中模索(イディオムエラー) 1

第11眼直後、キーロちゃん達のお話です。

本稿をご覧になる場合、先に第11眼までを読んで頂く事を強くお勧めいたします。





「…………ねぇ、ムース?あの方は今、なんて言いました?」



 誰も何も言えず、誰もその場から動けない。

 キーロはハッと、飾りつきの黒いローブ男へ向き直る。



「ねえ、貴方、貴方!貴方先程なんて言いました?」

「は、は…はい。……え?えっと」

「貴方、さっきアイ様を止めて!人ではないと、そう言いましたね!?どういう事です、教えてください!どういう意味なのですか!貴方は何を見たのですか!何を感じたのです!」

「す、すみ、申し訳ありません!」

「謝罪は良いから!何故、人ではないなんて!そう思ったのか、理由を言いなさい!貴方でも良いわ!なんでも良いの、なんでも良いから!」



 今度は白ローブの男の目の前まで詰め寄る。

 先程の勇者の意味不明な言動。そして普段は取り乱す事など決してないアーサー・キーロの、優雅な姿しか知らないその場の誰もが唖然とする中、一人なんとか我を取り戻し諌めようとするムース。



「ひ、姫様!落ち着いて下さい、姫!!」

「そんな、ムース!?そんな場合じゃないの!確かめないと!そうだ、召喚した人間なら少しは…今すぐ聖櫃の間に戻りましょう!」

「なりません!」

「ムース!何を言ってるの!?時間がないの、邪魔しないで!」

「そうです!時間がありません。勇、い、いえ、アイ様はもう、中に入られました。だから手早く確認します。最速を、最善で。そして我々はあの中へ、入らなければならないのです。それは、わかりますね?」

「…はい。」



 未だ肩を震わせ涙目をするキーロだが、頭に上っていた血は幾分か引いた様子だった。

 それを見たムースは一つ息を吐き、片手だけはキーロに触れたままローブ男達に向き直る。



「それで…あの方の何を見たのだ、お前達は。我々が勇者様のステータス等、見る事はできない。それはわかって居る。だろう?」

「はい、見る事はできません、でした。しかしわかっていても、必ず確認するのが義務ですので、確認したら、なんと言うか……人としては、…いえ、その、どう言えば……」

「わ、私も、言葉にするのは難しいのですが、感じた魔力の量もですが、量だけではなくて、全身に怖気が走ったと言えばいいのでしょうか…感じた魔力の、量も、質も、明らかに違うというか、そう、その、人間ではなかったのです。で、ですが…先程のあれが事実だとすれば、あの、我々が呼び止めてしまった事で、何か…どうすれば……!我々は、とんだしし、し失礼を…!?」



 混乱し怯え始めた二人を、手で制すムース。



「良い、一先ずお前達が、職務に全うであった事は我々が…ここに居る全員が、わかっている。引き止めたお前達こそが正しかったのかもしれないと、今強く感じている所だ。…悪いようにはしない、と、私の権限では言える訳ではないが…忠臣が大義のせいで首が飛ぶなど、見過ごせん。可能の範囲で手は尽くす。それは保障する。だから、一先ず落ち着け。ご苦労だった。」

「「あ、ありがとうございます!」」



 深く頭を下げる大の男二人、顔は未だ上げないが、感極まったのか涙声だった。



「ムース…」

「判断するには情報が少なすぎる、とは思いますが……」

「やはり、急いで戻るか、せめて使いを出すべきではありませんか?きっとまだ聖櫃の間に居るはずです。」

「いえ、今から往復となると……いや、そうですね。ロナ!」

「はっ!」



 ムースはキーロの護衛の内一人に声をかける。



「とりあえず聖櫃の間に急ぎ、可能ならギルド長。無理ならせめて副長を至急つれて来い。行け!」

「はっ!」



 少女は駆け出して行く。

 次に、残ったもう一人に視線を向けるムース。



「イオ。ロナが戻った際姫様と私が中に入っていた時は、お前とロナでアイ様について可能な限り情報を聞き出しておけ。良いな?」

「はっ!」

「さて…」

「ムース、戻ってくるまでどのくらいかかるでしょう?私達が直接向かった方が早かったりはしない?」

「……」


 どのくらいかかる?

 10分以上か。

 行きは単身で速いが、帰りは人を連れてくる。

 普段から訓練をしている者でなければ、全速力で何分と走るのも厳しいだろう。それも、普段から魔法ばかりで剣を持たない体力のない老人が相手。酷ければその倍以上もかかりそうだ。

 ムースは「中に入っていた時は」と口にはした物の、ほぼ間違い無くそうなるだろう事は殆どの者が理解していた。それでもロナと呼んだ少女を走らせたのは、悩んでいる間に呼んでおけば良かったと後悔するのが馬鹿らしいから、と言うムースの考えによるものだろう。ただそれだけ、気休め程度の、意味のない物だった。

 問うたキーロも、わかっている。

 希望は持てない。


 では、本人の言う通りキーロが行けば?

 結果、大して変わらない。

 帰りは急げても、行きがロナ一人より圧倒的に遅いのは明白だ。

 何よりキーロが行けばどうなる?

 何か珠玉の間で問題が起きて状況が更に変われば?

 早いか遅いか以前に、キーロが戻ると言う選択肢はないのだ。

 考えればわかる事だろうに。キーロが行くのはどう考えても悪手。

 現実逃避をしているか、混乱しているかの何れかでしかない。


 どちらにしても、大した違いはない。

 勇者アイ。彼女は既に扉の中へと入った。

 早ければ既に王と勇者は相見えている頃だろう。

 だとすれば現時点で既に、キーロは先導としての役割を放棄しているに等しい状態だ。

 彼女と連れ立って珠玉の間に入らなければならないはずのキーロが、未だに扉よりこちら側に立っているのだから。

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