! 第11眼 彼女の正体を教えて下さい! の3つ目
「失礼が過ぎますよ。この方が召喚にお応えいただいた勇者様です。大勢と共に、私もこの目で見ております。」
「い、いやしかし、明らかに人間では…!い、異常です!」
「では貴方がたは、他の勇者様を拝見した事がおありで?この方以外の、勇者を直接見た事があるのですか?」
「それは…」
「…そうですか。残念ですね。勇者様をお連れするように、国王陛下の厳命を受け、わざわざ召喚の成功はミドリーを通じて先に伝えられているから何も問題はないと…そう信じていたのですが。では勇者アイ様、勇者は番兵に止められて入れないそうなので、帰りましょう。」
「ひひ、ひ、姫様!申し訳ありません、お待ちを!ここでしばしお待ちを!」
「あら?アーサー・キーロの名にかけて、この方は紛れもなく勇者であるとここに宣言いたしましたが?…勇者様は何があっても無事ここへ通すよう、言われているはずでは?一体何故待たされるのか、お聞きしてもよろしいですか?」
「「…」」
小声で相談する番兵達4人。そこへ騒ぎを聞きつけたのか、扉の中からも一人、軽装ながら番兵とは異なる戦闘職を思わせる装備と風貌の……言うならば騎士風の男が、滑るように出てきて話に参加した。
「まったくもう……。アイ様、申し訳ございません。もしここでこれ以上待たされるなら、本当に…帰ってしまってもよいのではないでしょうか?」
ギョッとした顔で此方を伺い、再度話を始める5人。
番兵達への当て付けにも思えるキーロの言葉だが、つい先程国から逃げて欲しいと嘆願された時と同じ真剣な表情から、本心だとすぐにわかる。
「いや、良いさ。終わった後に、とあるお姫様と、お茶しながらお話しする約束をしちゃったからね。可愛い我が妹様の自慢話をしなきゃあ、帰るに帰れないよ。」
「まぁ!フフっ…アイ様の妹君のお話も是非お聞きしたいですが、私は、女神様のお話を聞きたいと言ったんですのよ?」
「お通り下さい。」
騎士風の男が中へと促し。四人の番兵は定位置に戻る。
さあさ、名残惜しいが世間話もそろそろ終わりかな。
「つまりは同じ事だろう?」
「…はい?」
自分は歩き出したのだが、直後に後ろからキーロの声が聞こえて振り向く。不思議そうな顔をしたまま、彼女がその場からまだ動いていない事に気付いた。
「ああ、そうだ!」
そして、その原因に思い至る。
今まさに珠玉の間に入るという直前になって、このタイミングになって、まだ大切な事を言い忘れていたのだという事とふと思い出たのだ。
キーロやムースだけでなく、ロウ達も含めた一行に聞こえるように言った。
「私の可愛い妹のフルネーム、コレを機にしっかり覚えてくれたまえよ!セステレス・ミリアン・『ガーデゥー』って言うんだ。あんまり間違えると、あの子、泣いちゃうんだぜ?皆、ヨロシクぅ!」
そのまま、スルリと扉をくぐり、大謁見場『珠玉の間』へと入っていく。
大きな扉が閉まる音が響き渡る廊下には、番兵達5人とキーロ一行が取り残されているが、一切の身動きがないため静けさが生まれる。
反響して返って来た音がそのまま響き、それらが時間をかけて収まっていき、ようやく廊下が本当の、これだけの人数が居ながら衣擦れの音すらない完全なる静寂に包まれた時、キーロはやっと声を出す事ができた。
「…………ねぇ、ムース?あの方は今、なんて言いました?」
本日のミリアン一言(?)劇場
「く、悔しいですが良い事言うのですよ妹二号候補!お姉ちゃんはもう少し私を敬っても良いと思うのですよ!え!?え、まままあででも可愛い妹とか、ってもう言っちゃってちょっと予想より早いと言うか初日と言うかそれは肩書きと言うかー!もう!まあ良いですけどねー!許すんですけどもー!私、妹ですしー!」