! 第11眼 彼女の正体を教えて下さい! の2つ目
アイテムボックスは本当に優れ物だ。
物理も魔法も言わずもがなで全て収納可能。故に身を守る為に使う事もできるのだ。
ちなみにこれまで実践して見せたあれやこれやは、神の間で使ったアイテムボックスと同等の性能であり、既に試験時実験済みだ。
スキルは念の為貰えるだけ貰っておこうとぶんどって来たわけだが、正直アイテムボックスがあればもう大体問題ないと思っている。
キーロはまた呆けており、既に解除してあるアイテムボックスの入り口がまだないかを警戒しているらしく、空中を見たり控えめに手を出したりしていた。
「確かに、もの凄いスキルだな。」
「おお、これだけでわかってくれるとは!嬉しいねぇ。」
「しかし、中はどうなってるんだ?姫様の手は無事なようだが…」
「基本無害だよ。…色々できるけど。」
「ふむ…しかし、アイテムボックスか…ふむ…」
「キーロちゃん。」
「あ、はい!」
「さっき手が出せなかった時、怖くなかった?」
「え……それは、もう…とても。」
「で、ミドリーちゃんが土壇場になって、『そんな金額、あんたなんかに払わないわよ!』って言ったら、アイテムボックスで捕まえて、ちゃんと支払いますって鼻水たらして泣き喚くまで脅してやろうと思うんだ。おいたはいけませんよーって。どう思う?」
「悪魔の所業だ…」
ロウ、うるさいぞ。
私は成功すると思うか意見を聞きたかったんだ。
「流石は勇者の持つ神のスキルと言った所か、原理が全く理解できない。だが、攻撃の力ではないスキルを見せびらかすとなると…交渉は、寧ろ難航しかねないと思うがな。」
「そうなんだ。まあ、攻勢に出る場合はまた別の手段でも使いますかね。」
「まだ他に何かあるのか!?」
「ヒヒ、企業秘密。」
「いえ、まさかそんなはず…」
「有り得るのか…?」
スキルを複数持った勇者など私が始めてだろうし。なら今回は、見せるのは一つだけでも十分だろう。
……いや、ミリアンが、過去にスキル複数保持者が居て、文字が重なったら能力が干渉しちゃったとか言ってたっけか?
余裕が出たら、要確認かな。
「ま、あとの事はお楽しみにしとこうよ。」
とは言え、反応は悪くない。
キーロとムースは何やら真剣な顔で小さくやりとりをしていたが、結論は出そうにない。
ともあれここまでで悪戯の仕込みは終わりだ。
随分話し込んでしまった。
「どうよ、題して『真実の口ミドリーちゃん捕獲計画』!」
「確かに、これだけの恐怖に曝されれば戦意も無くなるでしょう。一時的にならなんとかなるかもしれないです…。まあ、こんな事で、とても改心するとは思えませんが…」
「良いの良いの。コレだって大勢との話し合いの中で使えるとは限らないしね。幾つかする悪戯の中の、はじめの一手二手程度さ。手札は多い方が良いって事。」
「そうですか…」
「そうなのです。」
マジメな話はコレで終わり、と言外にわかるよう、少しふざけた口調とあわせて、わざとらしい程胸を張って見せる。
お互いに笑いあう。ああ、なんて優雅なのだろう!
この短い時間で、随分仲良くなれた気がするね!
同じ釜の飯を食べるより、同じ悪戯を一緒に計画する方が仲良くなれると思います。切実に。
「さーて、そろそろ行きますか。ロウは、どうする?」
「…もう、私が協力するような事などないではないか。」
護衛はこれから入る珠玉の間へは、緊急でない限り入れないらしい。
無論ロウに声をかけたのは、計画への参加についてと言う意味になる。
暫くぶりに歩き始めた一行に、ロウは一歩分だけ遅れて追従した。
「拗ねるなよー、こう言うのは気持ちが大切なんだぜー?」
「私は、姫様に質問されれば答えるだけだ。………私が、必要だと判断した部分だけを、な。姫様が驚かれるかもしれん、と思うと…なんだか、それだけで少し笑えて来る。」
「良いね!良い顔だ!」
ロウの胸元の金属鎧へ、茶化すように裏券で小突く。
思いのほか力が入ったようで、辺りに鈍く、ゴインッと響く。
…おかしいな?ここは本来、コンッ、とか、コツン、とか、可愛らしい音が似合う場面なんだが。
まあ、私のステータスはとてもじゃないが、可愛いくて華奢な女の子を反映していない数字が並んでいるからね。しかたない。しかたない…
その馬鹿みたいに高いステータスのおかげで、手が痛くなかったのが救いだ。
「さて、じゃあここからは作戦開始だ。バレない様に気をつけて。」
「ええ。…それにしてもアイ様はよくこんな…不思議な、悪戯を思いつきますね。せっかくいただいた神秘の力を、突飛な使い方と言いますか、神をも恐れぬと言いますか。」
「怖いわけないさ。神様なんて、可愛いもんだよ。」
いよいよ近づいてきた番兵達が、手に持った武器を軽く鳴らし、関係の無い者は下がれと目で訴えてくる。
それを見て、私とキーロ、そしてムースだけが前に歩いていく。
その時初めて思い至ったが、ムースだけが護衛の中で唯一同行できる高位の者だったらしい。
ロウはここで居残りだが、私達が扉の中に入るまでは近くで待機していた。
「神様が可愛い、ですか…私にはとても同じ事はできそうにないですね。あっ……そう言えば。勇者様は皆、召喚の際、女神様と言葉を交わすと言う噂を聞き及んでいます。どのような方だったのか…後で、お聞かせいただけますか?」
「おう、勿論良いよ。」
「えっ!?えっと、じゃあ、お茶にお招きしなければいけませんね、ムース?」
「…ええ。」
「「と、止まれ!!」」
白と黒の男達に呼び止められる。そして向かって右側の黒い奴から衝撃の一言。
「貴様!その力、人間ではないな、何者だ!?」
ヤバイ。いきなり正体がバレた!?