! 第11眼 彼女の正体を教えて下さい! の1つ目
!注意!
第10眼・第11眼(!を頭につけています)の二話は時系列順でこの位置の話であり当然そのまま読めますが、第一章の種明かし(エピローグ)として読んでも楽しめるように作成されています。
サスペンスで例えるならば、推理より先に犯人と犯行計画の一部が描写されるような回だとご想像下さい。
とは言え推理や大きな伏線等はないので、先でも後でもそれぞれの楽しみ方ができると思います。
以下からお好きな方を選びお気軽にご覧下さい。
1、「ネタバレ上等、時系列順に追って行くのが一番楽しいに決まってんだろ!」と言う方は気にせずそのままお読みください。
2、「ギリギリまで焦らしに焦らして、物語は骨の髄までしゃぶり尽くしたい!」と言う方は、第10眼・第11眼を読み飛ばし、一章読了後にお読み戴く事をお勧めいたします。
さて、この世界で邪眼を発動させるのは初めてなわけだ。
邪眼のオーソドックスな発動手順はこうだ。
片目だけを開ける、つまりウィンクをするような感じ。
ただこれを大衆の面前でほいほいやると、恐らく遠からず視線が関係したスキルだとバレてしまう。……まあバレても問題はないかもしれない、しかし切れるジョーカーはできるだけ多い方が良い。なんなら手札全部がワイルドカードでも良い位だ。
殊更に隠しすぎるのも怪しくなるが、自然にできる範囲でやってみて、結果悟られないならそれが一番だと思う。
あと、このポーズはちょっとかっこいいかなとは思う。ただのついでだけど。
本当にあくまでついでで、別にそこまで絶対かっこよくしたいわけではない。前々からちょっとやってみたかったとかは少しも思っていない。
何度でも言うが、私は別に中二病とかそういうのではない。
邪眼スキル、……正式名称『単目直視の覚醒邪眼』
その1つ目
『積量有限の七道具箱』
元となったアイテムボックスの、最大7個同時展開可能Ver。
最大容量を最初から比べるとかなり小さくしたりした事で、なんと!便利な選定機能等はそのままに、一つのスキル枠で複数使えるようにしたのだ。
なんて凄そうに言ったが、つまりは大きな亜空間を中で7分割して、全部に出入り口をつけただけ。この程度、私とミリアンちゃんが本気を出せばちょちょいのちょいだった。
キーロと自分の間に、アイテムボックスを三重に発動させる。
三つ目は使う予定はないが念の為だ。
発動中、私には常にその出入り口が見えているが、他人には物の出し入れの際の、空間におきる水面の波紋が広がるような変化の様しか確認できない。
つまり、発動しても物の出し入れがない現在の状況では、自分以外には見えていない。
「そうね。物は試しに。…キーロちゃん、ゆっくりこっちに手を出して。何が起こっても、怖がらなくて良いよ。」
「…?はい。!?」
そっと伸ばした手が空中の波紋に触れた瞬間、驚いて手を引いた。
声は出さずに、もう一度手を伸ばすようにジェスチャーでキーロに伝える。
今度は手首まで消えた所で一旦とまり、息を止めて更に一歩先、肘まで入れる。
その後は、恐る恐ると言った様子で出し入れをした。
そこで一旦声をかけて、アイテムボックスの条件を変える。
「じゃあキーロちゃん。そのまま、手首まで入れたままにして」
「…こうですか?」
「そうそう、で、引いてみて。」
「…え、え!?」
「あ、気をつけてね。」
勢い良く手を引こうとして体勢を崩しかける。
だが、空中の水面に沈んだ手首は、1mmたりとも戻る気配はない。
「全く…さっきまでは、あれ!?」
「ストップ。ちょっと入れて、引っ張って、ちょっと入れて、引っ張って。さあ、どうぞ。」
「…入っていきますが、抜けません。助けて…」
「おい、大丈夫なのか!?」
「じゃ、するっと抜けるようになるから気をつけて。はい。」
意識の中だけで、アイテムボックスの出す・入れるの条件を元に戻す。
出し入れする条件の中で一番単純な効果がこの出口・入口の設定で、普段は出し入れ自由だが、片方にすると出すだけの扉と入るだけの扉を作る事ができる。
横から見て驚愕していたムースにも声をかける。
「今度はムース。ちょっと…その剣で、私を思いっきり突いてみて。」
「は?」
「私が、無敵って事の証明だから。ほら。」
「う、いや、だがそこに。…私もソコの中に入るだけじゃないのか。なら別に」
「フフフ、何が起こるかお楽しみ。さあ、遠慮なく全力で!」
「ムース、お願い。」
「…くぅ。」
姫にお願いされては断れないらしい。
次回からムースに何かお願いしたい時はキーロちゃんを通そう。
ムースは乗り気ではないと顔に出しながらも、渋々剣を構え、そして突く。
距離がまあまあ近かった事もあり大きく2歩踏み出すだけで剣は届いたが、その際、ムースが手に持っていた剣が波紋の中に消える。
ただそれだけではなく、右腕は波紋を突き抜けてそのまま拳を突き出した形のまま残り、全身につけていた鎧のうち、波紋を潜った右腕部分が二の腕辺りまでだけが消えた。
慌てて手を引き戻したが肘から上部分までは波紋から出て来た物の、残りは綺麗に消えている。
二つ目のアイテムボックスは金属のみを入れるように指定し、ムースとの丁度真ん中程に移動させていた。
指定から外れた人体や衣服についてはすり抜ける。結果として、剣を握っていた手だけが残ったわけだ。
確かに持っていたはずの剣だけが手の中から消えた瞬間、その逆に自分の右手がそこにある事に違和感と驚愕を覚え、ムースは戦慄の声をあげる。
「な!?」
「ご協力ありがとう。」
そう言って出口を自分の手元に用意し、右手で剣を、左手に鎧の消えた部分を取り出して、ムースのそれぞれの手に渡す。
「これが私のスキル、アイテムボックス。私には盾なんて居なくても、問題はないのです。」
「今のが、…今のは本当にスキルなのですね。まさか、私の手も、入ってしまった……」
キーロは自分の手を見下ろしながら、声を震わせて言った。
得体の知れない物に触れた恐怖だろうか。
あるいは、自分の手が自分のもとへ戻ってきた来た喜びに打ち震えているのか。