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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
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0章EX 高校一年の邪眼女子(イビルガール) 11




「ところで、もし気分の良くない話題だったら答えてくれなくても良いんだけど…砂原さん。沢中の『メデューサ』って、あなたの事だよね?」



 帰り道。

 私達は三人連れ立って歩いていた。

 完全に同じ方向ではなかったが、大まかには似通った方角。なので部長から、大きな通りを駅近くまで歩いて行ってからの解散を提案された。丁重にお断り申し上げた。が、「とりあえず今日だけやってみよう、やってみて嫌なら明日からはやめよう」と説得され、渋々従っている所だ。



「……そうですね。確かに私は沢谷下中ですし。メデューサ砂原って影で言われてるのを何度か耳にしました。他にも『人喰い鬼』と『邪眼の悪魔』とか。」

「人喰い…そっちは初めて聞いたな。それに、邪眼の方も少し違った気がする。悪魔じゃなくて……なんだっけ。ツッチー覚えてる?」

「あー…たしか、魔神?じゃなかった?」

「ああ、そうだ。『邪眼の魔神』。でも、邪眼ってなんなの?魔眼じゃなくて?」

「魔神バロールですか。成る程。」

「おお、やはり解かるかい?さすが文芸部希望の星!」

「文芸部関係ないから…」

「まあ、メデューサも同じ魔眼だけどね。人喰い鬼以外は、やはりその目が原因か。」

「目はまあ、否定できませんが…メデューサは違うんじゃないですか?あれは魔眼じゃないですよ。」

「あれ?そうだっけ?」

「良く覚えてないです、けど。バロールの、見た相手を呪い殺すのが魔眼でしょ?確かメデューサは、メデューサに見られただけだと大丈夫じゃないですか。直接目を合わせなければ石にされないですよね。誰だかがピカピカに磨いた盾で、反射した姿を見ながら退治したんじゃなかったです?」

「あー…その辺は、どうなんだろう。バロールのそれとは違うのかもしれないけど…目を合わせるとダメなのか?うー…。ちゃんと覚えてないし、多分色々捕らえ方があるだろうから、なんとも言えないね。ただ私の記憶違いでなければ、メデューサも一応、石化の魔眼を持つ化け物として扱われてたはずだよ。」



 日本語が原文ならまだしも、外国作品が基なら翻訳する人間によって解釈が変わるとはよく聞く。

 そういう意味ではやはり、基本的にその国で生まれた文学はその国で消費される事に特化して生まれているのだろう。日本語のギャグとか、翻訳しても面白いなんてのはなかなかないだろうし。

 ……外人が書いたライトノベルが日本語化されるとすれば、私は楽しめるだろうか?

 多分、妹キャラが居るか居ないかが大きな分岐点だろう。



「因みにメデューサと言う呼び方は耳に馴染むけど、実は『メドゥーサ』と表記される事の方が多いね。まあ、日本人には少し発音しにくいのかもしれないけど。」

「メドゥーサでもメデューサでもどっちでも良いんだけど…」



 そこは先輩に同意である。

 ドゥー。ドゥードゥー。

 言えないわけじゃないけど、言いにくい。

 それにそもそも、メデューサの呼び名はあまり気にくわない。



「酷いですよね、メデューサとか。」

「まあ、確かにね。」

「妹がいないじゃないですか。三姉妹の末っ子とか。絶対嫌ですよ。」



 姉二人の名前は覚えていないが、自分がメデューサと呼ばれているのを知って一度神話について調べた事がある。

 メデューサは三姉妹で、二人の姉が居た。末妹と言う奴だ。



「そこか!いや、砂原さんらしいと思うけど。まあ、ここにお姉さんが二人居るんだ。…来年まではメデューサでも良いんじゃない?」

「姉は不要です。」

「こんな妹、嫌よ。」

「えぇ…」



 そこも先輩に同意である。あれ、もしかして気があう?


 良い事言ったぜ!と言わんばかりのキメ顔をした部長は私達二人に軽くあしらわれた。

 先輩との共感を感じ始めた私だったが、次の先輩の一言はいただけなかった。

 


「でも、最初にその二つ名で呼んだ奴はなかなかにセンスあると思うわ。」

「…はあ。そして私は今日から番長とも呼ばれているみたいですね。嘆かわしいです。」

「うぅ…うるさいわよ。二つ名がある人とか、漫画でしか見た事ないわよ。完全に番長じゃない。」

「番長と言う二つ名を私につけた先輩には言われたくないんですが。あ、四つもあるのに二つ名とはこれいかに?」

「ほう、それは興味深い命題だ。」

「どうでも良いわよ!って言うか生意気なのよあんた、1年のくせに。」

「自覚はあります。」

「あんのかよ!なら自重しなさいよ!」

「すみません自覚はありましたが自重は忘れてきたみたいなのでまた明日お願いします。」

「昨日も今日も忘れっぱなしじゃないの!」



 本当に鋭いつっこみをする人だ。こちらの言葉を汲み取って、考える間もなくつっこんでるように見える。この人のつっこみスキルにはリキャストタイムがない。

 うん。この人、つっこみの鑑だよ。



「沢中の…って事は、中学時代からの呼び名なんでしょ?まさか、本当に呪い殺した人物が居るわけでもあるまいに。もしかして、噂が変に広まっただけで、その、随分酷い…嫌がらせみたいな事があったのかい?」



 本当にどうでも良い事だけど、部長は女言葉がデフォルトだが、たまに男っぽいと言うか、芝居がかった口調になる事がある。

 ほら、あれだ。宝なんとか。



「なかったわけじゃないですよ。でも、呪い殺しては居ませんが、殴り倒しはしましたし。随分静かに」

「なっ、な…!?」

「完全に番長じゃない!」

「…?」



 番長だなんて失礼な。そう何度も暴力沙汰を起こしたわけじゃないし、私はバトルジャンキーではないのだ。勘違いを助長する二つ名はできれば返上したい所だ。

 そんな風に色々な話をしていると、直ぐに駅に着いた。

 遠回りな帰り道、歩く距離が増えて面倒くさい。

 …まあでも、別に頑なに拒むほど、嫌いではないかもしれない。


 今日に点数をつけるなら、ジャスミンと出会えたプラス補正を含めて、100点満点中ギリギリ25点といった所だろう。危なかった。




※------------------※




 そして、更にその翌日。入部二日目の放課後。

 先に授業を終えて部室に来た私に少し遅れて、三年生二人が入って来た。



「部長!」

「ん?何かな、砂原さん。」



 ニヤニヤと笑う部長の、飯島先輩。

 そうか、わかってたんだな、この人は…!

 なんて人だ。こんな事を!

 あんた、悪魔だよ!あんたこそが人でなしだ………!

 だって、ベンジャミンの妹の、ジャスミンが…!



「ジャスミンが死んだああああああ!」



 可愛い妹キャラが死ぬ作品を勧めるとか、ありえないからああああああ!





 唐突だが、昨日部長が差し出した袋の中身についての話だ。

 袋の中、一番上にあったライトノベルについて、あの日は「見覚えがあるな」と思った程度だった。

 しかしそれが、今週発売したばかりの最新作だった事に気がついたのは、この日の帰りに本屋で同じ物見つけた時だった。


 もしかして…?

 わざわざ私の話を聞いて、妹物のラノベを買った?

 ………いや。まさか。そんなはずは。

 でも、少なくとも文芸部室に常設してあった作品なわけもない。

 机に上に、袋の中に、沢山の作品があった。

 元々ラノベを読む人の…恐らく、部長の私物。

 そう考えるのが一番しっくり来る。


 そして更にそれから本当に暫くしてから気がつくのだが。

 部室にあるラノベ、全部妹か妹系キャラが出る作品なのだ。

 それだけでも決定的だが、ラストパンチがもう一発。

 最新作には他の全てで抜き取られていた、広告の冊子と栞と一緒にレシートが、不自然に挟まったままだった。

 気がついた時、もう偶然とは思わなかった。


 部長とは、その話はしていない。

 でも気がついてからの部長との会話は、その前よりずっとスムーズになっていた気がした。

 ただこの時点はまだ、昨日部長が私に渡そうとしたラノベが今週出た最新作だって事にすら気づいていなかったから、部長にはちょっと、少し辛辣に言い過ぎてしまったと、後から少しだけ思ったりもする。



 3時間後だ。私が部長の気遣いに気がつくのは、この時から丁度、3時間後。部活からの帰り道の話。

 その日。高校生活で初めての25点以上…29点をつけた自分が居た。

 4点がどこから来たのかわからないけど、それを考えた時、私は確かに部長の顔を思い浮かべていた。




※------------------※




 …

 ……

 ………その後の一年生の期間は、何事もなく平和に過ごした。

 とは言え。本当の本当に、何事もなかったとは言えない。

 元文芸部員とのいざこざがあったり。部長が顧問の先生と騒ぎになったと聞いたり。部長が元文芸部員と何かいざこざがあったと聞いたり。 

 でも私と部長と先輩の三人の間にあったのは何事もない平和な日常だけだったし、入部初日のあの日より沢山話す事はついぞなかった。本を読んだり、お勧めを聞いたり、たまに感想会が開かれたり、三年生が引退したり、私が部長になったり、その際文芸部について色々教えて貰ったり。どれも当たり障りの無い、文芸部の先輩と後輩が過ごす、静かで平和な、日常の風景だった。


 引退した先輩達は最初はそれまでと変わらずに来ていたが、部室で勉強したりもわりとしていて、つまり本を読んだり感想を言い合う事が減って、徐々に来る頻度が落ちて、そして受験の時期を迎えた。


 二人とも、無事に合格したとだけは教えてくれたけど、だからと言ってまた部室に足を運びはじめるわけでもない。だって、もう卒業が目の前に控えていたから。




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