0章EX 高校一年の邪眼女子(イビルガール) 9
「ツッチー!何してるんだ!」
「っ…!」
部長が勢い良く部室に駆け込んでくる。
何かを言いよどむ先輩。
「部長と先輩がお笑いコンビになったら売れるんじゃないかって話を」
「してないわよ!ならないわよ!意味わかんないわよ!」
…良いつっこみなんだけどね。勿体無い。
「外まで響いてて、ビックリして走って来たんだよ…ねえ、砂原さんに何言ってたの。」
「…それは……」
「……部長と先輩が夫婦漫才っぽくて、部長が旦那さんなら、先輩はヒステリックな母親で、まあでもそれが以外とお似合いだと思ったので、末永くお幸せにと言祝いでました。」
「は!?」
「そう言う意味だったの!?」
「え、ほんとにそんな話してたの!?」
「あれ!?」
部長、先輩、部長、私。
驚きが4連鎖。
大打撃!ひゃ~。
部長が驚くのはわかるけど、先輩とはずっと一対一で話してたはずなんだけどなあ。なんで驚くの?おかしいなあ。
「わ、私は!こいつに、部員が来なくなったのはあんたのせいだって言ってやったのよ!」
「っ…つっちー!」
「…」
あー。もう。
部長が帰ってきたら話は終わると思ったらこれだよ。全然予想通りにはいかないなあ。人間って難しい。
……やっぱり、質問してくる人には言わなきゃダメなのかな。
人によって対処の仕方が違うのか。
そう考えるだけで面倒になってきた。
お互いに先に何かを言おうか、でも何を言えば良いのか。そんな感じに表情で牽制しあっていた。
「…」
「…」
「先輩、部長。一つ良いですか。」
二人とも此方に向き直る。
「…?」
「なによ…。」
「先輩。さっきから私のせいって言ってるけど、私のせいじゃないですよ。きっかけは私が来た事ですが、原因は部長です。」
「っ…!やはり、私が悪いのか…」
「はあ!?あんた何言ってんの、そんなわけないでしょ!?」
「ええ、そうですね。部長は悪くない。」
「「…は?」」
「だから部長は気にしなくて良いと思いますよ。」
「砂原さん…」
部長に言ったのに、隣の先輩がうるさく噛みついてくる。
「いや、何言ってんのよさっきから!言ってる事がめちゃくちゃじゃない!」
「…?どこがですか?」
「薫が…部長が悪いとか、悪くないとか、どっちなのよ!どう思ってんのよあんたは!」
「…先輩、ちゃんと聞いてました?」
「何をよ!」
「きっかけを作ったのは私です。」
「ええ!」
「原因を作ったのは部長です。」
「違うわよ!」
「いや、私だよ…」
部長は再びうなだれてしまった。なぜだ。ホワイ。
「私は別に来なくても良いかなとも思ったんですが、引き止めたのは部長なので、原因を作ったのは誰かと言えば部長です。でも…」
でも、なんでそれが悪い事になるのかがわからないんだ。私には。
「悪いのは今日部活に来てない人達じゃないですか。」
二人とも、今日一番の呆けた顔をしていた。
別に欠席裁判をやろうってんじゃない。
明日来て文句を言われたら、私は本人の前でも同じ意見を言える。
私はただ、部員になって、部活に来た。私が問題を起こしたとか怪我をさせたとか脅したとかではないのだ。まあ、出会ったら必ず何かしらの問題に発展するだろうとは確信してるから、今の状況は不幸中の幸いと言ってもいいのかもしれないけれど。だが現時点では、故意か事故かとか物理的に精神的にとか関わらず、私はまだあの人達と何も関わってない。
部長が私を無理に引き止めて、部員との間に事件が起きたと言うなら部長にもほんのちょっと悪い部分があるかもしれない。…あれだ、一見さんお断りシステムみたいな奴だ。
でも、今回はそのどれでもない。
問題が起こる前に、彼女らは逃げ出したのだ。一見散………ちがう。一目散に。もとい、一耳散に。
「来れるのに来ない事を選んだのはその人達なんですよね?なんで私とか部長が悪い事になるのかわからないんですけど。部活を休むのが悪だなんて、流石に幽霊部員になろうとしてた私の立場からは言えませんが、誰が一番間違ってて誰が一番悪いかって話をするなら、どう考えても今日休んだ人じゃないですか?それを私のせいとか、部長が悪いとか、先輩の言ってる意味はよくわかりません。それでも先輩が、私か部長のどっちかが悪いって言うなら、反論…」
手元の本に目が行った。
それは主人公、ベンジャミンの台詞。
丁度、さっき読んでたページだ。
「『反論があるなら、時系列順に論理立てて。ああ、あと、主語を抜かずに言葉を濁さず、ちゃんと説明して下さい。』」
がっちりとした体格ではなくて、体の線と同じく声も少し細め。活発な所もあるが二十歳手前の男性にしては種族補正がかかって多分優しめ、ただし女性のそれよりは低い声。私の中の、ベンジャミンの声をイメージして、唐突にぶちかましてみた。
間の抜けた顔二つ。
一瞬の静寂。
そしてそれから、部室には文芸部部長の高らかな笑い声が、1分以上絶えることなく続いた。
ラノベを一人で読んでいると、周りに人が居ない時とかに、たまに台詞をそれっぽく音読したりするよね。言ってみたい台詞、あるよね?皆あるよね?
え、そんなに笑えるの?
そんなに面白かった?