0章EX 高校一年の邪眼女子(イビルガール) 8
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ベンジャミンは森に住む賢者の一族に名を連ねる青年。
森に住み、森の恵みに生かされ、森を守護する森の民。そう……つまり、エルフ。
エルフであり、エルフを取り纏める賢者の一族であり、その長男であるはずのベンジャミンはしかし、か細い人間との交流から人類が発達させた文明社会に興味を持ち、度々森から抜け出して人間社会へと出かけていく、エルフの中でも異端児として有名な存在だ。
当然種族としてのエルフとは、交流があれどもそれが大きくない事もあり、エルフ自体を知らない人間や、エルフを知っていてもどのような種族かと言う知識が殆ど無い人も居るし、それらを知っていても見た事が無い人間も沢山おり、出会ったとしてもそれが偏見に塗れている事がしばしばあった。
ベンジャミンは度々森を抜け出しては人間の街に行き色々な物や知識に触れるが、エルフが人間社会に馴染み溶け込む事は中々に難しい。時に種族の違いからベンジャミンが問題を起こし、時にエルフの物珍しさに釣られた人間が問題を起こす。
だが、当然それだけではない。
問題に巻き込まれる事が多いベンジャミンではあるが勿論、決して人々に無用な危害を加える事はしない。
そして彼は人間の町で色々な物に触れ、時にそれを手に入れる為の交換条件として、エルフと言う種族が培ってきた薬草や樹木等の知識を人間に提供していた。
同じ街でそんなエルフの姿を度々見かけるのだ。住処の森から一番近いその街では、森の民の話題が出ればその9割はベンジャミンを指す話題となる程に、彼は良い意味で有名人だった。
そんなベンジャミンではあるが、勿論エルフにはエルフの常識と風評があり、異端として語られる彼は度々両親や一族から非難される。
居心地が悪くなれば、また人間の街へと足を運ぶ機会増えると言うサイクルが生まれており、家族とは不仲気味になってしまっていた。
だが彼には、彼に良く懐き彼の後ろをついて良く、ジャスミンと言う愛らしい妹が居た。
ベンジャミンが街に行くのを、危険だからと止めるために後をつけたが直ぐにベンジャミンに見つかってしまい、結局二人で街を歩く。そんな事を繰り返す内、ベンジャミンだけではなく、妹のジャスミンにも人間に友達と呼べる存在が何人かできた事をきっかけに、ジャスミンも自ら街へ足を運ぶようになったのだ。
その日は、ベンジャミンとジャスミンの共通の知り合いであるフルネスティネと言う少女の誕生日を祝う為に、二人連れ立って街へ出かけていた。
この街では、近隣の住民同士は強く協力しあって成り立っており、それはエルフからすれば親戚よりも仲が良い、まるで家族同士のようにも見える関係性だ。
そんな街の人々は当然のように、月2回にわけて近所の子供の誕生日をまとめて盛大に祝うのだ。
彼女の誕生日を祝いに来るのは初めてではない。ベンジャミンとジャスミンはそれぞれに彼女宛のプレゼントを持って行く。
だが、そんな晴れの日だからと言って、異種族の彼らを取り巻く問題が避けて通ってくれるわけでもない。その日初めて見る露天が、手癖の悪い盗人だと彼の手首を掴んで大声で叫んだのだ。
一先ず自分だけが容疑者である事を確認したベンジャミンは、妹のジャスミンが巻き込まれないように彼女は無関係の通行人だと嘘をついて、フルネスティネの下へと急がせた。
駆けつけた衛兵に対して『うちの商品が盗まれた!』と声高に主張する露天商とは裏腹に、その主張を冷静に聞き矛盾する点を見つけて疑問を投げかけたベンジャミン。
逆上して支離滅裂な事を言い始めた露天商と、どちらを信じるべきを察し始めたベンジャミンと顔なじみの衛兵。
トドメの一言をベンジャミンが、-
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「ねぇ。」
「…」
………………………ベンジャミンが、
「新入生!」
……………肩を揺さぶられた。
本を読んでいる所を邪魔しないで欲しい。
抗議の目線を向けてみた。が、たじろぎはされたがそれだけで、目は合ったままだ。
「…」
「…」
「……なんですか。」
「この部室見て、何か言う事あるでしょ。」
なんでこんなに部室の感想求めてくるのか、この人は。
気がつけば、私が真剣に本を読んでいる間に部長の姿が忽然と消えているっ…!?
まあ荷物は残っているので帰ったわけではないみたいだ。…ああ、トイレか。
わざわざこのタイミングで話しかけて来たって事は、部長さんが戻って来れば静かになるだろう。それまで黙ってれば良いかなあ。
でもなあ。怒鳴るだけの人は黙ってれば良いけど、質問する人は無視するとそれはそれで煩わしいんだよなあ。
「……人口密度が下がりましたね。」
「あんたのせいでね。」
「…はあ。」
「……ねえ、それだけ!?」
「…はい。」
「はあ!?」
え、それ以外に何を言えば良いの?疑問は素直に口にすべきなの?どうせ何を言っても怒りそうだから余り喋りたくはないんですけど?
「あんた、この部屋見て、私以外の部員が全員来てないのわかってるよね!?」
「…はあ、まあ。」
「どう見たってあんたのせいでしょ!?なんか一言あっても良いんじゃないの!」
「…はあ。」
私のせいじゃないと思うけど。
でもそれを言ったら絶対長くなる。
この人は何を求めてるんだ?
なんて言って欲しいんだ?
部員が来なくて苛立ってるのか?
「ご愁傷様です?」
「誰のせいよ!」
「頑張ってください?」
「何をよ!」
「ご冥福をお祈りします?」
「誰のよ!」
おお、なんてキレイなつっこみだ。
お笑い芸人になれるんじゃないかこの人。
そう言えば部長ってボケとツッコミのどちらかと言えば断然ボケ寄りだよね。部長とコンビを組めば良いんじゃないかな。
夫婦漫才かな。そうなるとこの人が妻、旦那が部長。
部長の方が優しそうだもんね?
「部長と末永くお幸せに。」
「どこをどう考えたらそうなるのよ!」
………?自分でもそう思います。どうしてこうなった?
夫婦漫才、そう。本当の夫婦の話じゃない。部長と先輩がお似合いのお笑いコンビだって所だよ。