0章EX 高校一年の邪眼女子(イビルガール) 7
その翌日、つまりは今日。
残る一年生の内一人からのメッセージ、部活の欠席を知らせる紙を昼休みに知人伝いで届けられた。
同じ3年の津田も勿論2年二人の欠席連絡を見ていたが、更に1年がもう一人欠席する事伝えて顔が歪んだ事を確認した後、一緒に部室まで肩を並べて歩いた。
そしてトドメと言わんばかりに、入部してから毎日誰より速く部室に来て黙々と小説を書いていたはずの残り一人が居ない事を確認して、もうなんだか笑えてきた。
連絡は無い、無断遅刻…いやさ、恐らく無断欠席という事になるのだが…まあその辺は、まだ一年生と連絡先のやりとりをしていなかった事が原因の一つだろうし。悪し様に言うのも申し訳ない。
まさか、まさかの1・2年が全滅だ。
…そんなにか?
私は、それ程の事を皆に強いたと言うのか?
「…どうすんの?」
「どうするって?」
持ってきたラノベの一部分だけを棚の本と入れ替える作業をしていた私に声をかけて来た。
まったく、また津田は、私に意地の悪い質問の仕方をするものだ。
「バンチョー様と、可愛い後輩。どっち取るの。」
「番長じゃないって何度も言ってるじゃない。それに、そんな『はないちもんめ』みたいな事。」
「なんでそこで『はないちもんめ』よ。」
「『あの子が欲しい』?」
「誰から取るのよ…」
「うーん。……この場合は、誰からになるかしらね。相談しましょ?」
「誰でも良いわよ。『はないちもんめ』はもういいから。それより…流石に番長だって気づくんじゃない?昨日の部室見てるのに、今日から3人になってたら。自分が原因だって。」
「むぅ…」
あまり本棚の本を私の机に置いておいても変だ。と作業の手を止めた。
ライトノベルは、直接貸し出してもいいかもしれない。
ぼんやりとそんな風に考えながら、持って来た残りは、ビニール袋から出した机の上に乗ったままにしていた。
ああ、そりゃそうだ。津田の言う通り。
気づかない方がおかしい。
私はまだ、彼女がどういう子なのかちゃんとは把握できていない。
もしも、だ。もしも彼女が、感情表現が苦手な上に顔が怖いだけで、物凄い口下手で内向的な少女だったとしたら?
自分が原因で文芸部員が来なくなった部室を見て、改めて自分は邪魔なんだと、自分を責めてしまうのではないだろうか?
この惨状を見て、彼女はなんて言うだろう。
…わからない。
私は、何か方法を間違えたのか?
いや。いやいやいや。だとしても、だ。
砂原愛。
彼女をここに引き止めた事は、間違いではない。
私と津田が部室に到着して10分程後に、今日から入る新入部員が軽快な足取りで部室に足を運んでくれた事で、より一層確信を深めた。
間違っていない、絶対にだ。
そして、部室に足を踏み入れた彼女が最初に発した言葉は、私達二人の予想の斜め上を行く…
「…部長」
「なに?」
「全部、私が読んだ事ない奴です。凄い楽しみで、どの本が、部長のお勧めですか。教えて下さい。」
…斜め上どころか、棒立ちしてる所に全速力で近づいて来て走り高跳びのベリーロールの要領でこちらの身長を軽々と飛び越えられたような、そんな気分にさせられた台詞だった。
つまり、何が起こったのか一瞬わからなくて、何が起こったのかわかった後に残ったのが、「わけがわからない」なのだ。
開いた口が塞がらない、と言う言葉を自分がまさに今体言しているという事実に気づいた時には、もうわけがわからないなりに笑えてきた。
まあ、彼女の豪胆さに呆れながらも、彼女が傷つかなくて良かったと安堵し、そして同時に、気を使わずに少し踏み込んで接しても良いのかもしれないと思った瞬間でもあった。
だから、妹キャラに拘る彼女に、昨今のブームに寄せてライトノベルに近い世界観や作風の、且つ妹が出てくる推理小説を勧めてみた。
殺人事件に至るまでの描写も丁寧。それに異世界系ライトノベルも好きな私も、この本を読み進めると殺人事件の推理が待っていると言う事忘れそうな程、緻密に練りこまれた異世界の生活描写が書かれているのだ。
それでいて、有名な推理漫画を読んでいる時の様に、謎が解明するまでの過程と解決後の読了感が気持ち良い。
何故こんなに面白い作品なのに他では話を聞かないんだと、何度津田に力説したかわからない。
だからこの作品は確かにお勧めだ。
そう、そして何より、キーパーソンが妹なのだ。
…別に、どういう反応が返ってくるか楽しみだったとか、そんな悪戯心はない。ああ、きっとない。
そしてやはり、案の定食いついてきた。話してみれば、私だけではなくきっと皆わかるだろう。この子は、こんなにも面白い子なのだと。
今日休んだ子達の事は…今は考えても仕方がない。部活の間は、今ここにいる人間の事だけ考えよう。
とりあえず、彼女とは仲良くなれそうだ。
津田は私に問い質す様な視線を向けてくるが、無視していると諦めたようで、自分の本の続きを読み始める。
さあ、メデューサ砂原!それを読んで、あなたは何を思う?