表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
37/162

0章EX 高校一年の邪眼女子(イビルガール) 6



 私が『彼女』の影響を甘く見ていたと痛感するまで、3時間もかからなかった。


 「事実は小説よりも奇なり」だと少し意味合いが違いすぎるだろうか。「百聞は一見に如かず」でも少し違和感はあるが、まだ近い方かもしれない。

 普通は逆だと思う。日常の体験があるからこそ、リアリティのある描写にリアルを感じるのだ。だがそれが逆転する事がある。

 文章で何度も見た事はあったが、全く想像できていなかった事が、現実で直面すると腑に落ちると言う瞬間は、稀ではあるが確かに存在する。腑に落ちたと同時に、それは驚く程の鮮烈なイメージを頭に叩きつけていくのだ。


 私の、砂原愛という少女との、メデューサとも呼ばれた少女とのファーストコンタクトに対する感想も、概ねこれに近い経験だったと言えよう。


 『人を2、3人殺してそうな目』と言うのは、今まで何度か悪人の人相を形容する枕詞として見て来たが、どうにもピンと来なかった。だがそれは、ただ私が実際にそういう人物を目撃した事がなかったと言うだけの話だったのだろう。

 次から、人を殺してそうな目と言う言葉を見る度、私は間違いなく砂原愛の目を思い出すのだ。

 見た瞬間、心の中でそう断言した程だ。


 最初に彼女を見た時。何かあったら部員を守るのは私だと、覚悟を決めた。

 だから詳しい話を聞く段階になった時、できれば私だけで話ができる場所をと考えたし、結果臨時の時にしか踏み入らない空き教室まで足を運んだのだ。

 だが実際話を聞いてみると、噂とメデューサ本人の言動には噛み合わない部分が多く、随分と違和感を感じた。

 最悪、文芸部室を文芸部員ごと接収しようなんて言う、ライトノベルちっくな世界感の中でも最たる非常識的要求を現実でも出される可能性すら考慮していただけに、「本が好きだから」なんて言われた日には、拍子抜けも良い所だろう。私と一緒にあの状況に居れば誰だって、今の私の感想に共感して貰えるだろうと思う。

 そしてその言葉を聴いた時から私の中で、目の前の凶悪な人相をした悪魔は、ライトノベルが好きな、自分を卑下する癖がある、内気な女の子になった。

 彼女も、守るべき私の後輩になったのだ。



 メデューサこと砂原愛が明日部活に来る事を告げて解散した当日、私はいつも通り家に帰る道すがらに本屋を見た。

 一昨日、気になっていたが買わなかったライトノベルが確かこてこての妹物だったはず。

 そう言う作風が嫌いなわけではないが、わりと男性読者を意識している場合が多く、その中でも艶かしい表現が出てくると続きを読む気が失せてしまう、なんて事があるのだ。なので前評判をネットで確認してから…と思っていたが、思い切って今買ってしまおう。


 直ぐレジに通して足早に家に帰ると、買った本は外袋から出しただけで机の上に置き、直ぐに自分の部屋の本棚に噛りついた。

 一冊では到底足りないだろう。と言うより元々、私のコレクションから何作品か持って良くつもりだ。

 並べられているラノベのタイトルを片っ端から読みながら、妹キャラが出ている作品だったかどうかを頭の中でリプレイしていた。しかし思い出せない作品が半分程で、このままではパッと思いついた実妹が出る2作と妹系キャラ作品1作しか持っていけない。

 心の中だけで悪態をつきながら、妹キャラ有無が明確に思い出せない全作品の一巻だけを引き抜いてベッドに乗せた。話の頭を読めば作品の全貌や登場キャラが思い出せるだろう、と考えたからだ。


 ……しかし、だ。

 久々に開いた本と言うのはまたなんとも魅力的な物だ。あの頃読んでいて気がつかなかった伏線や、共感できなかった心理描写が、今ではハッキリと理解できてしまうのだから。特に伏線のそれは、続巻を読み進めた後で物語の序盤をもう一度読む時こそ色濃く見えてくる場合が多い為目が離せない。

 一巻を読み終えて思い出したのは、この一巻で認識を新たにした名場面…二巻か三巻で、ヒロインキャラ目線での回想になっていた気がする。あの部分にも何か新しい発見があるのでは?三巻だっけ?

 いやいやいや、そんな無粋な事はするべきじゃない。せっかく前読んだ時よりも物語を深く理解できていると言うのに、そこまで一気に読み飛ばすのか?このまま進んでいけば一層楽しくこの話を理解できるんだぞ?

 答えは当然、NOだ。

 私は二巻に手を伸ばし、その頭から読み始める。



 ふぅ、全く。自分と来たら直ぐコレだ。まだ一作品目だと言うのに、気がつけば盛大につまづいているではないか。先が思いやられる。

 本来は何をするつもりだった?妹キャラが出る作品を見つけるんだよ。まったく、駄目だな。

 ……そんな風に気がついたのは、夕食の時間になった事を告げる母親の声が耳に届いたからだ。

 

 …夕食を食べたら、選分け作業を再開しなければ。


 そんな風に考えていると、自分の携帯が光っている事にようやく気がついた。現在の2・3年が部活の連絡に使っているアプリの通知だ。


 そこには、2年生二人が明日部活を休む事が書かれていた。


 理由も書かず、二人同時に休む。そんな事は初めてだった。

 わかっている。明日は、何が何でも休みたいのだろう。その原因も、わかっている。

 だが、別に休む事自体は悪い事でもないし、わざわざ濁された理由を今日だけ詳しく聞こうとする方がおかしい。ただの一回目、しかも欠席連絡をしてくれた相手に、流石にその反応は過敏過ぎるだろう…とは思う物の、スッキリしない気分なのは確かだ。


 ざわつく心。携帯を握る。


 何かメッセージを送ろうか。

 いや、送って何になる。

 何を送れば良い。


 …ああ、明日は随分静かになるなあ。


 なんて自分の心すら騙せない下手なぼやきを合間に入れて、なんとか思い留まった。

 「了解した」

 打ったのはそれだけだった。





折り返し地点(予定)。

明日日曜は更新休みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ