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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
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0章EX 高校一年の邪眼女子(イビルガール) 4



「部長!カツアゲされたんですか!?」

「大丈夫ですか部長!殴られたりとか…」

「あれって、噂の新入生ですよね!何が目的だったんですか!?」

「待て待て待て。とりあえず無事だ。で、聞きたいことは順番で頼む。」



 文芸部室に帰って来た飯島を出迎えたのは、5人の文芸部員。内1人が飯島と同学年だが、2人の二年生と、残り2人が既に入部希望を済ませた一年だ。全員が女子だ。

 唯一の三年部員は落ち着き払っているものの、残った3人は声をかけるだけでは足りず、飯島の元へ駆け寄った。

 後の1人は黙々と小説を書いているため反応がない。



「やはりあれがそうだったか。沢中の…メデューサ?魔眼だったっけ?」

「メデューサ砂原です。1-Bの。」

「え、私は『邪眼の魔神』って聞いたかな…?」

「邪眼ねえ…ふむ、あまり聞きなれない単語だが、やはり魔眼の事だろうか。」

「二つ名があるとか。漫画やアニメの番長みたいね。」



 冷静に聞いていた唯一の同学年部員、津田。通称ツッチー。彼女が本から目を上げずそう言った。



「文芸部なんだ。そこはせめて、ライトノベルを引き合いに出すべきじゃない?」

「は?文芸部と関係ないじゃない。」



 津田は不機嫌そうな声と不愉快そうな顔を此方へ向けた。



「あ、いや…そのメデューサさんがね。ライトノベルをご所望らしい。」

「……そんなの置いてるわけないじゃない。ここは文芸部よ?」

「ああ、だが明日から置こうと思う。」

「は?」

「え?」

「嘘…」

「まさか…」



 4人はほぼ同時に、各々の反応を示した。

 そしてやはり最初に問い質して来たのは津田だ。



「ねえ、それってあいつの為にわざわざ準備するって事?」

「そうじゃないよ、それは一つの切っ掛けに過ぎない。」

「言い訳じゃない!まさか、本当に脅されたりしたわけ?」

「いや。話を聞けば、純粋な文芸部入部希望者だったよ。」

「ふざけないで!入部前からブッチ宣言する不良が純粋な入部希望者?わけわかんない!」

「…本を読むのは好き、でもライトノベルしか読まない。こんな自分は正式な文芸部員にはなれない。だから名前だけ登録させてくれ…ってさ。」

「は?聞いてもわけわかんないわよ。結局来ないなら、文芸部じゃなくてもいいじゃない。」

「そうなんだよね。文芸部じゃなくて良い。それに、わざわざ幽霊部員にさせて下さいなんて言いにくる必要もない。私もわかんなくってさ。なんで来たと思う?」

「だから、わかんないわよ!私に聞かないでよ!」

「本当はね。本当に、文芸部員になりたいんだと思う。そう思った。だから、誘った。」

「…さっぱり。さっぱりだわ。」

「直接話さないとわからないだろうね。兎に角そういう事で、明日ね。ラノベは私が持って来る予定だから、心配しないで。」

「そういう事言ってるんじゃないんだってば!」

「じゃあどういう事よ。」

「番長なんてお断りだって言ってんの。」

「違う、本好きの女子よ。」

「じゃなくて!本人の希望通り幽霊部員させとけば良いでしょって言ってんの!」

「寂しい事言わないでよ。って言っても、私だって、話だけ聞いてそうするつもりだったけど…あの子がね……」



 あの時の顔を思い出して、言葉に詰まる。



「本が好きなら普通の部員で良いじゃないって私が言ったらね。…私なんか、居ない方が良いですよって…そう言ったんだ。」

「………何、それ。」

「まだ、高校入ったばっかりの1年だよ?私よりも2才も年下の。私が1年の時何考えてたかなんて、ぱっと思い出せないけどさ。十数年、どんな風に生きて来たら、そんな風に言える?……私には、無理。言えない。どんな気持ちかわからないけど。でも、なんか、私がしてあげたくなったの。だから誘った。間違ったとは思ってないし、撤回する気もない。本が好きだと言ったあの子は、たとえそれが何ノベルだってどんなジャンルだって、私たちの同士よ!居場所、作ってあげたいの!変?私、おかしな事言ってる?」

「…確かに、言ってる事はわかるけど…」

「皆に相談なしに決めたのは悪かったと思ってる。私も、顔見た時から、多分噂の新入生だろうなってのはわかってたから。今日はとりあえず、色々理由つけて帰って貰った。でもね、悪い子じゃないと思うんだ。仲良くしてあげてなんて、私が言うのは変かもだけど、一回だけでも話してみてよ。印象が変わるかもしれない。私みたいに、噂なんて、ただの噂だって思うかもしれないし。」



 噂の彼女と同じ1年生の女子が、遠慮がちに視線を下げながらも訴えてくる。



「で、でも、やっぱり、怖いです…」

「ごめんね。まず守らなきゃいけないのは、部員の方なはずだってわかってたんだけどね。…一回話してみて、どうしても無理なら、もう一回私に相談してくれる?」

「…」

「確かにあの子が部活に来るかどうかは変わった。けど私が認めなかろうと彼女が希望すれば、黙ってても幽霊部員として在籍する事になった。そうなれば学校のあれこれで部活単位で動く時、どっちにしても何回かは顔を合わせる事になるでしょ。0にできないなら、あとは1でも100でも有る事には変わらない。あとは多いか少ないかとか、慣れるか慣れないかの問題よ。」



 言い訳じみている事は、自分でももちろん理解していた。

 それでも、簡単には避けて通れない事は確かなんだから。


 居心地の悪さはもはや体感温度すら下げかねない程となっている、空気の凍りついた部室。既に話し始めた時の『怖い噂を怖がりながらも楽しく話す女子達』の浮ついた雰囲気を完全にぶち壊していた。それでも津田は食い下がる。




「毎日来るか来ないかは十分おおごとだと思うんだけど。」

「かもしれない。けど悪い事とも限らない。」

「どうやっても良い事にはなりそうもないけど?」

「ねえ。…ツッチーは、どうしても反対?」

「………その言い方はズルイ。」

「そう?」

「反対って言えば。私が、悪役みたいじゃない。」

「ああ、確かに。」

「そこは否定しなさいよ…」



 私と津田だけが、控えめに笑った。

 だがそれだけで、後輩達は安心を感じるらしく、忘れていた息を吹き返したように、深呼吸がぽつぽつと聞こえた。



「でも、ライトノベルって…大丈夫なの?そのメデューサの新入生、なんか文芸部勘違いしてない?」

「いや、さっきも言ったかもしれないけど、あの子自身には、自分はライトノベルしか読まないからって、一度部室に来る事を拒否されたくらいだよ。だから、ラノベも部室なら読めるよって勢いで言っちゃった。」

「あんた馬鹿でしょ。」

「馬鹿だけど、別に考えてないわけじゃない。去年からずっと入れたいと思ってたし。もう一人の新入部員も、ラノベをご所望じゃないか。」



 いまだ黙々と書き続けている彼女へ目線を向けるが、こっちの話は聞いていないらしく一切話に参加してこない。



「もうそういう時代なんだよ。これを機に、ラノベ導入の既成事実を作りたい。部長としては、これから入ってくる後輩達のため、文芸部をこれからのサブカルチャーに遅れずについていけるグローバルな部活動にして行きたいわけよ!」

「…あ、そ。ま、もう良いけど。」



 津田は座っていた椅子に戻って読書を再開。それを見て、私に群がっていた後輩達も解散。一人は未だに小説を書き続けていた。


 私も、家で読む本と言えばラノベの方が多い。

 だが別に、部活中でもラノベが読める良い切っ掛けになるから力説していたわけでは断じてないのだ。私はあくまで先達として、可愛い後輩の為に頑張りたい文芸部の部長だ。

 そう、私は言い訳が多い女。飯島薫だ。




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