0章EX 高校一年の邪眼女子(イビルガール) 3
高校一年の邪眼女子は概ね書きあがりました。
想定より少し長くなり、恐らく全12 or 13部(?)になる予定です。
人と関わるのは面倒だ。
相手が何かを話すと、それに何かリアクションが求められる。
答え方を間違うとギクシャクする。
答えるタイミングを間違うと会話にならない。
答えるか否かを間違うと人間関係にヒビが入る。
………ほら、良い事が一つも無いじゃないか。
なら、関わらないのが良い。
幸い、高校生活が始まって半月も経過していないのに、私の話相手は一人も居ない。
このままボッチ街道を邁進させて欲しい。
…私だって別に、本しか読まない生活をするわけじゃない。読みたい本がなければ、次はネットとゲームに忙しくなるのが殆どだ。
本を読んでいない時は、たまに話し相手が居ない事を悪い事のように感じたりする。でも、直ぐに思い直す。そんな事はない。
友達が居て、その友達と話して遊んで、それが当たり前のように誰も彼もが生きているけれど、学校の教師は強く勧めてくる事もあるけど、それらは必要な事じゃない。家族とすら、会話をしなくても問題なく生きられるんだ。今更友達一人居て何になると言うのか。
「…私は、居ない方が良いです。何処にも。文芸部にもあの部室にも、居ない方が良いですよ。部長さんとは話ができますが、私は殆どの人とまともに会話ができません。下手なようなので、会話。」
「………えっと。もしかして、これで私とまともに会話できてると思ってる?」
「…?わりと?」
「…」
決して、この人を困らせたいわけではない。気を使って貰ってるのがわかる。ありがたいと思う。でも逆なのだ。そんな人に、迷惑がかかる。私が行けばきっと、不和を産む。
でも、それを積極的に解消しようとは思わない。する方法もわからない。
だから私は放置されるのが、お互いのためなのだ。
「…ううん。それでも、見過ごせない。本が好きで、文芸部になろうって新入部員が、入る前から来ない宣言とか。ねえ、部室にだってたくさん本はある。読む本全部自分で買うのは、学生には結構辛くない?貸し出しはできない物もあるけど、部室なら読み放題だよ!」
「っ………いえ、結構です。ラノベしか読まないんで。」
本当は、ラノベ専門ってわけじゃないけど、8割程度はラノベ。ちょっと誇張したけど、逆に言えば8割真実なのだ。四捨五入すれば、私は10割の真実を言った事になる。なんと言うステキ論理!
とは言え、ああ、確かに読み放題は魅力的な提案かもしれない。でも、別に問題はない。一度読んだ本は売れば良いし。最悪、お金が無いなら古本屋で立ち読みでもしよう。中学の時には踏ん切りがつかなくてできなかったが、高校生になったら一度やってみようと思っていたんだ。文芸部の、部活動の名前だけでも借りる事ができればできる。私は部活に行っていたと言う事にして、立ち読みして、ゆっくりと家に帰ればいいんだ。
「ほう、ライトノベルか…」
…はい、ライトノベルです。どうかしましたか?
ライトノベル。ラノベ。
ラノベを知らない人に、「ラノベって何?」って聞かれたら、何をどう伝えれば良いかよくわからないが、ジャンルとして一応確立しているジャンル。
ライトなノベルですよ。え、じゃあライトって何がライトなの?軽いの明るいの?多分軽いんです、フワッフワです。何それ薄いの、薄い本なの?薄い本はまた別なんです。でも薄くなりそうなのもあります。………おっと、脳内劇場はそこまでだ!
とは言えライトノベルは、認知され始めてはいても余り認められていない。
どの層にと言われれば、ライトじゃないノベルを長年好んで読んで来た層にだろう。私は別に、直接そんな話を聞いたわけではないけれど、どことなくそんなイメージ。でも、図書室にライトノベルは配備されていないのは、つまりはそういう事だ。意見書を出した中学では、結局卒業するまで認められる事はなかった。
文芸と言うのは、実際本を読むだけではないだろう。先程部室でも、一人は黙々と何かを書いていたようにも見えた。本を読む人が居れば、書く人も当然居る。でも、ちゃんと文芸部らしい文芸活動をしている文芸部に、ライトノベルは相応しくない。
断り文句としては上出来だ。
「ライトノベルもあると言ったら、君は来る?」
「行きます。」
「よろしい。なら、明日、おいで。」
「はい!…はっ…!」
元気良く返事をしてから気がついた。
まんまと餌に食いついた魚だよこれじゃあ。
「あ、でも、あの、ライトノベルと言っても、好みのジャンルもありますので一概にはなんとも…」
「ほう、参考までに好みを聞いても良い?」
「妹が出る作品です。」
「………は?」
「可愛い妹が出る作品です。一番良いのは女性主人公に実妹が居るパターンですが余りにもニッチなので男性視点の物も喰わず嫌いをせずに読んでいます。ですが主人公ではなく主人公に積極的に関わってくる中に妹が居るくらいまでの範囲は食指が動きますね。一応実妹が出なくても、おねえちゃんって呼んでくれる妹キャラが出れば一考の余地はありますが、その辺りは登場頻度と該当妹キャラの性格によりけりかと。。。」
「え………それはジャンルって、言う……いや、うん。まあ安心しなさい。妹が出る作品ね。あったよ。」
「行きます!今行きます!」
釣られても良い気がしてきた!
「いやいやいや、明日来なさい。ほら、今日はまだ、えー、貸し出しされてた奴もあるしさ。部員達に声をかけて回収しておくよ。それにまだ正式な部員じゃないから、皆には今日のうちに説明しておくから。明日来たら準備万端だろうし、ね。」
「わかりました。じゃあ、今日はこれで。」
「うん。また明日ね。砂原さん。」
「…」
「…?砂原さん?」
私は、砂原と呼ばれるのがあまり好きではない。最近少し慣れてきたけど。それでも、少しだけ、心がざわつく。
私は先輩の顔をじっと見た。見ただけでは伝わらない事もあるけれど、この先輩は、この目に怯えずに話してくれる珍しい人だ。つまりなんで見たのか?……考えがまとまらない。自分でも、よくわからない。
見詰め合ったまま、目が離せない。
でも、見て欲しいんじゃない。
気づいて、先輩。
「…」
「どうかした?」
「カバンを返してください。」
「ああ。忘れてた。」
それは忘れて良い所じゃないと思う。
ともかく、挨拶だけして名前だけの幽霊部員になるつもりが、私は実際に部員となってしまったのだった。
机から降りた先輩は、「お尻がしびれた」と言ってしばらく机に寄りかかって小鹿のように立ち尽くし、それからカバンを受け取って部室の前まで共に歩く。
部室に着いたが、しかし先輩は中に入らず私を見送ろうとした。
「……本当に部員になるなら、ちゃんと挨拶していった方が良いですよね?」
「いや、明日で良いでしょ。って言うか、多分その方が良い。文芸部員は内気な子も多いからね。さっきも言った通り、私から予め説明しておいてからの方がスムーズになると思う。」
「……それなら、そうします。」
明日は良い本との出会いがあるかもしれないと胸がときめく。
今日の点数は、100点満点中、概ね25点といった所だろうか。