第1眼 神様は素直に敬って下さい! の2つ目
正座をしながら、私は右目を閉じた。
それは、私が思考をめぐらせる時の癖だ。
ちょっと(物理的に)浮かれていらっしゃる自称神。
浮いてるだけじゃなく、なんだか何にもない空間に座ってるように見える。
座ってると断言できないのは、どっしり腰掛けてるわけじゃなくて、なんだかお洒落なバーにありそう(行った事がないからわからない)な座る部分が凄くちっちゃい椅子に、お尻はそえるだけな感じなのだ。
………座るっているべき椅子が見えないのにここまでわかっちゃうのだ。きっとパントマイムの天才だろう。流石神!
…っ!おっと!神相手に呼び捨てで良いと思っているのか!?敬称をつけるんだよ、自分!
そう、『神様』。…自称、神様。
自称神様は、見た目だけなら恐らく私より年下だろうと断定できる程には幼そうな外見だった。
ただそう考えてから、目の前の日本人らしからぬ顔立ちをした美女。…美少女?……美幼女?
とにかくそんな美しい自称神様は、日本の私が持っている年齢感覚とはきっと違う。
日本人は実年齢よりかなり幼く見えるそうだ。成人しても、国によっては大人だと信じて貰えない事もあるらしい。
私がそんな日本人的感覚にどっぷり浸かっている事を考えると、見た目で「恐らく」と思ってしまう程度に幼い女神様は、もしかしたらもしかしなくてもかなり幼女?
と、とは言え、そんな伝聞の知識はある物の、外国人に「ハゥ、オールドゥ、アー、ユー?」なんて聞いてハイタッチしてハグしたり一緒にホームパーティーした事など一度もない。
そして神様に実年齢の話なぞ、見当違いも良い所だろう。
とりあえず、見た目から受けた印象通り、私よりちょっと幼そうだな、と思っておこう。
身に着けているのは極彩色…とは言えないが、淡い色がびっしりと折り重なった、派手じゃない、けど主張が激しい羽衣風の何か。
一枚の布にプリントやら染めで加工していると言うより、どちらかと言えばパッチワークのような見た目に近い。しかし本当に一枚ずつの布を合わせている訳ではない。手拭いか、ないしはもっと細くて長い色とりどりの布を隙間なく編んだような。
ただ、下方に降りるにしたがって黒に近い重い色が濃くなって見える。
そもそも人間の手に作れる物なのかはおいておいて、メがこれだけ荒いのに隙間が見えない服なんて一度も見た事がない。そしてなんだかこの荒いアミアミ加減は、昔見たちょっとお高い異国の絨毯のようだ。空は飛ぶかしら?アラビアーン。
更に色は全体的に見るとなんだかパソコンの色彩表でも見ているような気分だ。全て一色に塗りつぶしてしまっても良いだろうか。
…良いわけないだろう!絨毯よりめっちゃ柔らかそうじゃないか!何がアラビアンだ!
本人はもとより、若干ドレスなのかもしれないとも、でも羽衣なんだろうと思われるようなデザインの衣服も、やはりふわふわしていた。どうやらおうちに重力を忘れ物してきたご様子。
うふふ、うっかりさんめ。
「私は、神です」
ああ、間違いない、彼女はきっと女神様だ!
先ほどから本人が何度もそう言っている。と、ツッコミを入れる者は居ない。
絶世の美女もとい美少女は、服とは違い一色に染められた長く艶やかな濃紺の髪を、しかし服と同様に風も無い中空に棚引かせ続けていた。
何者をも許してしまうような、何者からも許されてしまいそうな柔和な笑顔。
閉じているのでは?と勘繰ってしまう程細められた目。
…え、大丈夫?
本当に閉じてないよね?
目、それで見えてるんだよね?
「…」
「…」
「…」
「…」
「…え、っと…」
「…」
「…あのー」
「…」
「あの…、ですね?あ、あの、わたし、かか、か、神なんですけども?」
しまった。
自称神様が下手に出る程メンチ切ってしまっていたらしい。
そう言えば自己紹介がまだでした。
私、すこぶる目つきが悪いです。