第9眼 この熱の名を教えて下さい。 の3つ目
「………は?」
「おっと!返事は直ぐじゃなくて良いよ。今はそんな時じゃないし。まずは妹を前提にお友達になって下さい。」
「わけがわかりません!」
この子を守りたいと思ったのだ、他に理由は要らない。
ああ、セステレスでの異世界ライフをもしもゲーム化するなら、サブタイトルはきっと「~愛の愛妹コレクション~」だ!
カー・ラ・アスノート。
召喚直後この国に対しては、「国とか人とか関わりたくないが、ミリアンのお願いならば」と考えていた。
途中ミドリーとの会話の間「腐ったゴミを処理するだけの簡単なお仕事です」と達観していた。
しかし現在は、「せめてキーロちゃんが生き易い国にしたいな」と言う思想へ変化を初めている。
…今まで平凡に生きていて、こんな熱を胸に宿した事はない。
もしかしたらずっと昔、子供の頃にはあったのかもしれないが、パッと思い出せる程鮮明な記憶にはない。
だからこの衝動が、この熱が、何によるモノなのか断言できない。
私は、元々他人にも自分にも興味を持たない、無気力な人間のはずだ。
唯一胸をときめかせたのは、本を読む時くらいな物だ。
誰かの為に。と、ここに生まれた物がある。
でもそれがなんという名前の物なのか。わからない。
…そう、それがなんなのかわからないが、これはミリアンを妹と呼んだ時の気持ちに似ていた。
きっとキーロちゃんは、私の妹だ。そうに違いない!おう、テンションが上がって来た!今なら何でもできそうな気がする!
「私は、お逃げ下さいと言ってるんです!」
「と、言われてもね。私には最初から、あの扉の向こうにも用事があるんだよ。」
「あちらに行けばもう戻れないんです、今しかないんです!」
「じゃああちらに行くのは決定事項だから戻らなくて良いように力を貸してよ。」
「なんで、話を…わかってくれないんですか…。」
「私は妹と、その次に可愛い女の子の味方なのさ。そして、妹好きな子の味方でもある。」
「私は…妹は、嫌いだと…」
「また好きになるかも知れない…できるかもしれない。直ぐどうにかなるわけじゃないかもだけど。ちょっと懲らしめたらさ、案外ケロっと元のお姉ちゃんっ子に戻るかもしれないよ?だから、さ。手伝ってよ。ね?」
「無理です。簡単ではありません。できるならとっくにやっています。」
「でもまだ何も試してないなら、試す価値はあるじゃない。」
「失敗するかも、もっと酷くなるかもしれないじゃないですか!」
「それならその時考えるさ。私も一緒に。」
「そんなの…」
「いくらキーロちゃんが止めても私は行く。他の事なんて、ぶっちゃけ全部ついでなんだぜ?私が行くのは、我が妹の我侭を叶える為なのさ。妹が可愛ければ、その分力が沸いてくる。それが、お姉ちゃんって生き物だろ?ちなみに私にとってはもう、キーロちゃんも妹候補だぜ!?どうだい?今から!」
ええ、どうだいって、何をだい!?と言うつっこみ待ちなんだが。誰もつっこみをしてくれない。
真面目な会話の中に盛り込まれているキーロ姫妹化計画は余りにも場違いだが、もはや発言の異常性は周りの人間の殆どから無視されていた。
様子を伺っていた奥の兵や周りの護衛は、キーロの熱が沈下した事に安堵していた。
「…私は、何をすれば宜しいのです?」
「そうこなくっちゃ!じゃあまず幾つか質問に答えて欲しいのと…最後に、一つだけお願いがあるんだ。」
「お聞きします。…急ぎましょう。」
あまりミドリーよりも到着が遅れると、怪しまれますから。
そう言って疲れたように悲しそうに、でも悪巧みを楽しむように悪戯っぽく笑う。キーロの始めて見せるそんな表情は少しだけ、ミドリーのそれに似ていた。
そして悪戯の相談が始まった。
…
……
………キーロは後から振り返ってこう思うのだ。
この日、普段決して言葉にできない妹や母への暗い気持ちを、苦しさを口にして再認識した、それまでの時間。針の道を歩き続けるような、短くも鋭い心の痛みを感じていた時間ですら、幸せな時間だった。
勇者アイ。
彼女が珠玉の間に入る、その時までの時間が、この国にとって…私にとって、なんと幸せな時間であった事か、と。
本日のミリアン一言劇場
「ちょっ、いもっ…!?節操無さ過ぎるのですよ!?まだセステレス一日目なのですけれど!!」
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以降の内容が複雑になる為、時間を要しております。
本編次話の掲載までしばしお待ちください。
時間がかかり過ぎる場合は、1・2話分のサイドストーリーを挟む事になります。
予めご了承下さい。