第8眼 貴方の想いを語って下さい! の3つ目
「まあ、良いや。二人に聞きたいんだけど…」
ミドリーのフルネームとか興味ない。
こっちの内心を知ってか知らずかロウが顔をしかめるが、そちらも興味はない。睨むな。
実は現在に至るまで、ムースさんとは会話らしい会話を一度もしていない。なので咄嗟に今まで会話した「二人」と言ったのだが、どうやら当の二人は理解してくれたらしく話の続きを傾聴してくれていた。
「どっちも同じ質問になるわけだけど。まず、ロウ。ミドリーちゃんの事は好き?」
「おい勇者、貴様…先程から、私を何だと思っているのだ。」
「うーん。その質問は難しいな…回答は保留します。で、こっちの質問…結構、本気で聞いてるよ?私。」
ただの冗談やカマかけだと思われてるのかもしれないが、それは面倒だ。声のトーンを落とし視線を鋭く、こちらが真剣に質問していると直ぐにわかるように極端に。空気が変わる。
どう答えようか迷っているらしく、記憶を探りながらもこちらの様子を伺っているのがわかる。
「………そもそ」
「実は!」
悩んだ素振りを見せた後の返答。本心ではなかったり、無難か答えが返ってきそうだと思った。
故に、念の為の、ダメ押しをしておく。
「ロウ君、いや、ロウ。知ってるだろう?勇者が、特別な力を授かってこの世界に降り立つと。人の理では量れない、超常の結果を伴う神秘の力があると。さて、私は嘘を見抜く事ができる…と先程言ったが、果たしてそれは本当か、嘘か?君はどのくらい信じていて、どのくらいがブラフだと思ったんだろうね?でも、だ。良く考えようぜ?…君が嘘をつけば、君が嘘をついたと私にわかるとしたら、私が『敵対された』と認識すれば、もしかしたらミドリーの、ニールの策謀が瓦解するかもしれないんだぜ?そうなった時の責任は誰が取る?ん?いやいや安心してくれ給へ。勿論ここで聞いた話は、君が漏らさなければミドリー側に漏れる事はない。どれだけ不敬があったとしても、だ。そう、君はただ、真実を言えば良い。それだけで良い。それ以外は間違いだと言ってしまっても良い。断言しよう。さあ、ロウ。君の、真実を聞かせて欲しいんだ。」
「…わ、私は……私が……」
「…ロウ。君は、プリンセスミドリーの事が好きかい?人間として、好ましいかい?異性として、愛せる?主として、敬愛できる?君の素直な意見を…聞かせておくれよ。なに、ちょっとした確認だよ。勿論色恋沙汰のアドバイスが欲しいと言うならその位の付加サービスもしてあげるが、基本は、君から望まない限りミドリーとの関係に口出ししたりなんて、野暮はしないよ。君は、ただ本心を話す。私は見返りに、ミドリーとの約束を決して、違えない。これは、そう言う提案なんだ。」
…まあ、実を言えば?
ここまでの会話を一通り聞いてた人なら気付いたかもしれない事では有るが。。。
勇者の力で嘘と本当が見分けられるなら、私はミドリーが言った言葉も嘘か本当かわかったはずなので、「ミドリーはちゃんとお金払ってくれる人?」とロウに問うた時点で、ハッタリ確定なのだ。
その辺は深く考え始めるとばれるので、勢いに任せてみた。
へへっ。
なお、超絶思案中なロウ以外のここに居る全員が、悪魔でも見たような絶望の表情でこちらを見ている。
…次はキーロちゃんにも同じ質問をするつもりなんだけどな。やりにくい。
途中で口を出されないように、目線で合図をしておく。
大事な話なので、最後まで口を出さないで欲しい、と。
ジェスチャーと、少しの微笑みで。…伝わるだろうか?
キーロは生唾を飲み込んだ。
「…本当、だろうな。」
「ああ勿論。誓おう。神に誓おう。」
「提案も、だが、その…私の言葉が、ミドリー様へ届かないと言うのは」
「誓うとも。勇者である私と、我が最愛の妹の名に、誓うよ。」
「………ミドリー様は、あまり尊敬できる方ではない。」
「ほう…と言うのは?」
「言わずとも、大体わかっているだろう?アレだけ、あの方を綺麗にあしらった上で、こんな話を持ちかけているんだ。」
「それでも、聞きたいんだ。ちゃんと、他人の言葉でね。」
「…気がつけば、ああなってしまっていた。私が仕え始めた時も、裏表が全く無いとは言わないが…ああではなかった。身分の高い人間は大なり小なり、時に自分の利益の為に他人を貶めたり、策を弄する物だが…あの方は、それを恥じらいもなく、堂々とされるようになった。自分が王であるかのように振舞う…まるで、王妃様のように。」
「っ…!」
隣に居たキーロの纏う空気が、王妃と聞いた途端ガラリと変わる。
うーん。本当は好きか嫌いか…というか嫌われて当然の性格をしているので、どんな風に嫌われてるか聞きたかったのだが。しかしここまで聞いたら、少し興味が沸いて来た。
「以前は、違った?」
「カラカラと…風とか、草とか、花みたいに、とにかく元気で…屈託なく笑う、可愛げのあるお方だった。時々悪戯をし過ぎて、よく注意されていたし、そう言った時はあまり…まだ、今より小さかった事もあるが、それを加えても子供らしすぎると感じてばかりだった。勿論、今だって変わらない所はあるが。もう、今じゃ、ほとんどあれだ。あんな風だ。腐った果実みたいに。畑一面腐らせるのが生きがいみたいに、目に付く他人を蹴落とす事ばかりに腐心して。…毎日、ずっと、あんなだ。」
ロウの声は次第にか細くなって来ている。
それにしてもロウ君、腐った果実とはなかな皮肉で詩的じゃないか。
何より今ミドリーにどんなイメージを持っているのかがよくわかる。
…きっと腐る前は、瑞々しい果実に見えたんだろう。
「…それって、元々の性格かな?王妃様が関係あると思う?」
まだ会ってもない王妃様の悪口を聞く形になったわけだが、キーロの反応が気になる。本人に聞けるかわからないし、今のうちに聞いておこう。
「ハッ、わかるわけないだろう…。私はただの護衛だ。傍に居る時間は多くても…今じゃ、命令以外で、話しかけられる日の方が少ない。王妃様だって良く目にはするが、直接言葉を交わしたのはほんの数えられる程度だ。」
「ま、そりゃそうなるか。わかったよ、ロウ。ありがとう。約束は守るよ。でも、よければ協力してくれると嬉しいね。」
「…協力?」
「警戒しなくても大丈夫だよ。君の前で言う姫様への悪戯計画やらその実行を、ぜーんぶ聞かなかった事にしてくれれば良い。うん。全部聞いた上で、やっぱり報告しても良いけど、ね。自分の保身を考えた上で決めてくれれば良いよ。」
「悪戯、か。」
「そう、悪戯。ちょっと懲らしめる程度のね。」
「なら、先に内容を聞こうか。」
「OK。でもその前に…」
廊下の先への道を指差しながら、キーロへ向き直る。
「歩きながら聞かせてくれる?キーロちゃん。君は、妹が、好きかい?」
「…勇者様、やはり私も、本音でなければならないのでしょうか。」
「ああ、そうね…勇者に嘘は通じないのさ。」
悟るような表情をした彼女は既に、まな板の上の鯉よりも従順だった。
最初の一歩と同時に、簡潔な回答があったが、先を歩く彼女はそれから暫く振り返らず歩いていた為に、表情は伺えなかった。
ただその声は、諦めたような声であるのと同時に、待ち望んでいた答えあわせをするようにスルリと出てきた事が、その内容よりももっと印象的だった。
「大嫌いですよ、今は。消えてしまえば良いと、毎日思っています。」
本日のミリアン一言劇場
「………勇者より詐欺師の方が向いてるんじゃないかって気がしてきたのですよ。」