第8眼 貴方の想いを語って下さい! の2つ目
混乱する私を見て、キーロが補足してくれた。
「あ、えっと…今まで、必ず勇者様方の中には男性が含まれていたのです。と申しますか、男性一人のみの時以外、グループの代表を務める方は必ず男性でした。」
…おう。
いや、確かに私の中でも、勇者と言われればまず最初に、若い男性を思い浮かべる。
例外が居ないわけではないだろうが、大体が男だ。若い、イケメン。
そうか、最初にキーロちゃんが、他の勇者は来ないのかと聞いたのは、そういう意味だったのか。
『女一人だけの勇者、それはありえない。』
キーロちゃんはミドリー程の失礼な言い方を避けただけで、その発想自体は同じだったのだろう。
「それで、実は、最初の歓待と言う意味もあり、私が…」
そう言ってパックリと割れたドレスの胸元に、その決して貧相ではないモノに手を置いて、口ごもる。特別胸が大きいと言う事はない、だが四肢や体のラインの細さとそのドレスのせいで、本来の大きさより一層目立って見えた。まとめて下品に見えてしまわないのは、キーロのたおやかさの賜物だろう。
ミドリーよりは幾つか年上だろうが、私と大きく差は感じない歳。日本での未成年程には見えるキーロ。そんな彼女のゆるっと優しそうな仕草や佇まい等のイメージからは、少しばかりセクシー過ぎるドレスのようにも感じていた。
そして、間違いなく男性が来ると思っていた所に、このような格好をさせて送り出しているのだ。それも、姫と言う、高貴な身分の、若い女性を。
意味している事など、深く考える必要もないほど明白だ。
「その、勇者様の、お相手」
「OK大丈夫、まあまあ、だいたいわかった!」
乙女にこれ以上、言わせてなるものかよ!
そんな寂しそうな顔はしないで、大丈夫!その攻撃、全て私が引き受けた!
勇者へ色仕掛けの先制攻撃!
こうか は ばつぐん だ!
「安心して、ちゃんと効果は抜群だから!」
「へ?」
心の声が漏れた。
「いや、なんでもない。じゃあ、そろそろ、歩きながら話そうか?ここからは作戦タイムだ。」
藪をつついたら蛇どころかハブとマングースを一緒に見つけてしまった気分だよ。勿論ハブもマングースも実物を見た事はない、と言うか活字上でしか出会った事がないツチノコレベルで幻の動物である。
自分で聞いておいてなんだけど、そんな裏事情は要らなかった。このドロドロ、見なかった事にしてそっとしまっておきたい。
これ以上どこに踏まなくて良い地雷があるかわからないし、とっとと本題に入りたい。
だが、ロウの剣幕が険しくなり叫ぶように言葉をぶつけてきた。
「っ!?裏切るのか貴様!」
「怒らない怒らない。言われた通り、誰との約束かを聞かれたら、ちゃんとミドリーちゃんの名前を出そうと考えてるよ?お金あげるっと言われちゃったしね。お金はあればあるだけ嬉しいもんね?そう思わない?」
「…まあ、理由などどうでも良い。裏切らないのなら、私はそれで構わない。」
「と言っても…キーロちゃんに迷惑はかけたくないんだよねー。キーロちゃんも、それで大丈夫?もしかして、キーロちゃんの名前、言った方が良かったりするの?」
つくづく可愛い子には甘いのだ。自覚はある!
ロウは声に出さないが警戒するようにキーロを見やる。
「いえ、私は大丈夫です。…ミドリーも、ただお母様に褒めて欲しいから…という可能性もありますし。よく功績を見つけると、お母様の元へ走ってゆく姿を見ますので。ただ、ニール様が包み隠さず、ああもはっきりと関わって居られたのはどうにも気になりますが。」
「へぇ」
「姫様!お気づきなのでしょう!?そんな悠長な!」
しばらく黙っていた護衛・ムースさんが声を荒げた。
「勇者様への協力を取り付けたとなれば、どう控えめに見ても、現状では類稀な功績として評価に繋がります!それが、褒められるだけ等と…明らかに、王位に関わる貢献の一柱にされる腹づもりではありませんか!」
「そうか、それが、ニール様の…」
「へぇ。」
ロウと一緒に関心してしまった。
「…しかし、私とて何もできておりません。アイ様はお話しを聞いて下さるとの事でしたが、それはアイ様の優しさに縋っただけの事。受け入れられたなら、それは交渉されたお父様達の、そしてアイ様の齎す功績は、アイ様の物です。…それに、良いではありませんか。我が国が平和になると言うのなら、それが誰が手にした物かなど。」
「ふむ。」
「欲が無さ過ぎます…いえ、もっと先を見据えて下さいませ!フーカ様にが王になられならば、この国の平和など…」
「フウカ様?」
なぜここで突然日本人っぽい名前が出てくるのだろう。フウカさんも王様になるの?
「フウカって?」
「それ以上はおやめなさい…今はとにかく、勇者アイ様を、無事お連れしましょう?今日新たな王が決まるわけでも無し、また貴方の話を聞きますから。ね?」
「…必ずですよ?」
「ええ」
「ねえ、ロウ。フウカ様って?」
「お前はバカか。」
「誰がバカだ。失敬な。……あ、キーロのお兄さんか!」
一応他にも兄弟姉妹は居るらしい。が、今の所、話に出てきたのはまだ見ぬキーロの兄と、さっきの生意気高飛車幼女ミドリーだ。
有力な王候補の中、名前を知らないのは…消去法で残るは誰か?…ハッハッハ。誰が見たって一目瞭然じゃないか。簡単な推理だよ、ワトソン君!
ロウは前髪をぐしゃりと掴み、疲れたように頭をおさえている。
あれ、頭痛ですか?大丈夫ですか?
「さっきまで会話してただろう。もう忘れたか…アーサー姫様の妹君、我が主。ギーン・フーカ・ミドリー・カー・ラ・アスノート様だ。」
ちなみに、後からちゃんと聞く事になるが、キーロちゃんのフルネームは、ギーン・アーサー・キーロ・カー・ラ・アスノートと言うらしい。
…フルネームは初めて聞きました。
それと、とりあえず、私の前だけでも呼び方を統一して貰えないだろうか。
それにしても、名前が長くて、覚えられる気がしない…私を見習って欲しい。
サハラ アイ。日本人の名前って、短くて良いよね!