第7眼 姫様は優雅に笑って下さい!Take2 の3つ目
断る。
あえて、キーロに言ったのと同じ言葉をもう一度返した。あの時は直ぐに後悔したが、今回それはないだろうと確信している。
その瞬間。
コピー紙を握りつぶしたみたいに、くしゃっ、と余裕の表情が憤怒に一変した。
「…はぁ?王族、だって、言ったの!聞こえなかったあぁぁああ!?」
「姫様。」
「何よ!?」
「そこな女も、突然つれて来られた国で、天上人の言葉だと言われて、ピンと来ないのでしょう。察しろと言っても…下民とは、そういう物です。でしょう?」
「フンッ…」
「ニール!?」
静かにだが、高い位置から投げかけられる低い冷静な声。どうやら彼がニールと言う名前の、ミドリーのお付きらしい。
「先程も申しました通りです。…共に歩かずともよいのですよ。」
「…わかってるわよ」
「ニールあなた、ミドリーに何を言っているのです!?」
「アーサー様…なに、ただの簡単な、儀式のようなモノですので。これ以上は姫も、そう、そういう事は申し上げませんので。どうかご容赦を。」
「ニール、貴方は止めるべき立場のはずよ!」
「姫様も。順番を間違えただけなのです、順番を。…そうですね?」
「ええ…そうね。確かに、少し間違えたかもね。少しだけ。」
「ミドリー…?」
「…仕方ないわね。勇者。」
ニールを見上げていた顔を再度こちらへ向けてくる。
勇者と呼ばれて一拍空くが、返事はしない。
「…じゃあ、一緒に歩かなくても良いわ。契約…約束ね。約束しなさい、この私と!お父様とお母様の話を聞くって!」
「もともとそのつもりだけど」
「約束、しろっていってるの!私と!あんたの気持ちとか、理由なんてどーでも良いのよ!今すぐ、わかったって言えば良いの!」
ニールは満足した顔で、しかしミドリーに「姫様」と、一言静かに言う。
キーロは美しい顔を苦しげに歪ませて、ミドリーの代わりに小声で謝罪をしている。
「なんなら、そう、それだけで、さっき言ってた分の半分位ならあげるわよ!」
「…わかった。」
「っ…!そうよ、良く言ったわ。最初からそう言えば良いのよ。」
ミドリーは騙されたバカを見るような顔で私とキーロを見たあと、ニールを見上げていた。ニールはミドリーに耳打ちしながら、お付き全員と廊下をまっすぐ歩き始めていた。
ミドリーはすでにどうでも良かったが、申し訳なさそうに立っているキーロを見ていると、とっとと話を切り上げたかった。
だが、ミドリーは立ち止まって振り返り、更に言葉を加えてきた。
一秒でも早く視界から消えて欲しいのに。
「聞きなさい!もしその女が、私と同じような約束を持ちかけてきても、みんなの前で聞かれたら、私と約束したって言いなさい!そうすれば、その女の倍まで出してあげるわ!」
最後まで不愉快極まりない台詞を吐いて消えようとするミドリーに、少しだけ悪戯心が芽生えて、今度はこちらから呼び止める。
「ちょっと待ちなさい。」
「何よ!?下民が命令-」
「誰か、一人。証人が居た方が安心できるでしょ?お互いに。だからそっちの付き人で信用できる人を一人、置いて行ってくれない?…そうすれば、ね?」
ミドリーは即座にニールを見上げ、ニールは目を瞑る。
それを見たミドリーは、先程とはまた違う嫌らしさを持った、自分の成功を確信したような、または井の中の蛙を見下ろすような目をして笑った。ああ。姫らしからぬ、汚ねぇ笑顔だ。
「それは、そうね。……ロウ、残りなさい。」
「ハッ…」
ロウと呼ばれた護衛風の若い男だけが踵を返して戻って来る中、残りはそのまま廊下の奥へ足早に歩いていく。
ロウの髪は殆ど白に近い色だったが、後ろに下げている1房分の先だけは真紅に染まっていた。
顔だけを見ると幼さが見え、ミリアンと同じ位かと感じた。ただ、日本の身近でムッキムキの男子とお近づきになる機会があったか?と聞かれると閉口するしかない。その程度の交友量な私的感覚からすると、平均的な若き少年と比べれば鍛えられた腕の筋肉が、『童顔短身長なだけで、逆に少し年上くらいの可能性もあるかもしれない』とも思う。
ミドリー達が随分離れて声が聞こえなくなった頃、キーロが動こうとしたが手で制した。
キーロちゃんに謝らせる必要はない。それに、まだ早い。
長い廊下の随分先を左に曲がりようやくミドリーの姿が見えなくなって一息つく。
本日のミリアン一言劇場
「コイツ、天罰下してやろうか!いや、気持ちはわかりますけれど!ゴロツキみたいとか!愛さ、愛お、ぉ姉ちゃんを馬鹿にして!気持ちはわかりますけれどー!」