第7眼 姫様は優雅に笑って下さい!Take2 の2つ目
「へぇ…」
扉を開けると、そこには美しい少女がいました。
ここは本当に、素敵な少女達との出会いに埋め尽くされた天国のような世界なのかもしれない。
召喚してくれたセステレスに、そしてこの出会いに感謝を!
なお、召喚の際にステージを取り囲んでいた割と平均年齢高めの見目麗しくない男達は、今の所この「出会い」の数には含まれて居ない。
少女はミリアンやキーロよりも明らかに幼く、背丈は幾分かあるが、顔立ちから感じる歳は小学校高学年くらいを彷彿とさせる。
濃い緑のドレスをベースに、シャツなのかなんなのか良くわからない内側の所々は輝く白色が覗くコーディネート。一見キーロの物よりも装飾や凹凸が少ないドレスは、それでもスカート部分だけはこれでもかと言うほどひらひらふわふわと主張していた。
髪はドレスのそれよりは明るめの、しかし原色より少し暗めの緑に、青を一滴だけ垂らしたような色。手を差し込めば何処までも潜って行きそうな、透き通ったムラないエメラルドグリーン一色。瞳はこちらも黒だ。
扉の先で待ち受けていた少女もキーロに負けず劣らず、深窓の令嬢かくやと言わんばかりの華奢な白くほっそりした肢体や、端整な顔立ちの持ち主。ただ、先のキーロと比べるからだろうが、それらの美しさとは水と油になりかねないような、しかし生意気そうな子供にはありがちな、活発で相手を小馬鹿にしたような表情が目立つ。
生意気な、憎たらしい、偉そうな。おおよそ悪ガキを表すのに使うそんな言葉のどれを使ってもピッタリと嵌ってしまいそうな、そんな雰囲気だ。
立ち居振る舞い、従者の配置と機微、服装。彼女もまたキーロと同じく王女であるか、それに近しい立場ある者である事は一目でわかった。
美少女の周りには、冷ややかに見下ろす、長身でほっそりとした髭濃いめの男性が1人。他に護衛らしき人物を含めた6人が立っている。
…一番目立つ長身男。コイツはアジアンはアジアンでもちょっと三国志とかに出てくる下位領地の、密偵工作だけは巧みなモブみたいな奴。
いや、気に入らない目線だったからちょっと低めに言った。本音で言えば、三国志の後半まで結構な確率で残ってくる上位領地の領主で、密偵工作が特に巧みないけ好かないモブみたいな顔、だ。
「何でここに…!?」
「あんたこそ、駄目じゃない?キーロ。持ち場を離れちゃ。それとも、本物の勇者はまだ時間かかるわけ?」
美少女との出会いに心からの感謝を捧げた次に考えたのは、『キーロちゃんもそうだったけど、髪の色をドレスの色はあえて同系色を選んでいるのかな?って言うか、会話の流れと距離感で言えば姉妹の可能性が高そうだけど、もしそうなら両親の髪は何色だ?』という、これまた益体もない事だった。
…で、なに?本物がなんだって?
「ミドリー!?貴方、なんて…」
「はぁ?…え?まさか、コレだけ?本当に?なに。ふざけてんの?隠してても良い事とかないんだけど?」
「この方は、勇者様よ!?」
「うぇっ…良い部分なんて、着てる服だけじゃない。すんごい顔。ゴロツキみたいな目して、いかにも下民ございますって感じ。礼の仕方一つ知らないみたいだし、気分悪い。」
「ミドリー!謝罪なさい、今すぐに!」
「やーよ」
フン、と鼻を鳴らしていた。
…あれ?コイツ、可愛くない。
降って沸いた美少女…姫様が『ミドリー』と呼ぶ少女との遭遇で高まったテンションは、『コレ』扱いされたその瞬間スッと音をたてて急降下。
高飛車そうな表情ではあるものの、そこに子供らしい活発さを感じると最初は思った。しかし違う。
なんて陰湿そうに笑うガキだ。見た目だけが良い、中身が最悪の、心が腐った、ただのガキ。
だからと言って、直ぐにどうこうしようとは思わないが…仲良くなれない。好きになれない。わかりあえない。そんな気がした。
そしてそれはちょうど生まれ始めていた、この国への態度を見直そうと思っていた心も。恐らく一緒に、ジェンガのように、もしくはバベルの塔さながらに。ばらばらと崩れ落ちていった瞬間だった。
心のスイッチがオフになった。小説を読む時に動くのと同じ、私の心のオンオフスイッチ。
「まあ、無い物強請りしてもコレしか居ないわけだしね。」
「ミドリー…もう黙りなさい。二ール!早くミドリーを連れて行って!」
キーロを無視して顔を向けてくるミドリー。目はかろうじて合わせているが、興味はなかった。
「聞きなさい。私はミドリー、王族よ。そこに居るのの妹なわけだけど…そんなのとただ歩いてても退屈でしょ?お母様の居る部屋まで私と一緒に歩きなさい。そうね、ちゃんとついて来れたら、数年、いえ、5年遊べる位のお金をあげるわ。」
たかが子供の態度、じゃない。
傍に立っている男は、他の付き人とは明らかに位が違う。黒い洋服に黒マントを重ねて身に着けており、端々に輝く金色は、金糸やその他装飾品だ。高い上背から見下ろす、高い身分に間違いなさそうな、身なりと態度をしたそいつは、事もあろうに異世界から連れてきた勇者を含む王女一行に対するこの態度を、気にも留めない。
興味無さそうにあさっての方向を見ているのに、此方を値踏みするように目線を切るその顔には、正でも負でも何かしらの感情を強く抱いている様子はない。
ミドリーはこれが平常。隣のお付きもこれが当然。こんな人物を傍に置いているのだから、恐らく親もろくでもない。その親が治めている国も、きっとろくでもない。
「断る」