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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
19/162

第6眼 姫様は優雅に笑って下さい! の3つ目




 ホカノユウシャサマ?

 …勇者?他の?私以外の?

 ミリアン、お姉様、初耳なのだわ?

 私の他に、他の世界から、他の勇者がいらっしゃる予定なのかしら?



「………」



 返事がない。ただの女神様のようだ。

 …いや、天界と念話等と言う特殊な力は持ってはいないのですがね。はい。

 つまりは心の独り言。


 そんな私を怪訝そうに、固唾を呑んで見つめるアーサー。

 ふと気がつくと、階段の上でも声を荒げてはいないものの、焦りを含んだようなやりとりがいつくも聞こえてくる。

 大勢が声を潜めたやりとりをする為、何を言っているのかは全く聞き取れなかった。



「…この後、追加で勇者召喚する予定でも、あったりするのかな?」



 冷静さを装っているが、実際にはかなり焦ってる。

 もしこの懸念が事実だったなら、早急に、全力でこの国から退避する事も考えた方が良いかもしれない。

 次に行われる儀式に、勇者が私と同じように応えるとは限らない。来ないだけなら問題ないが、儀式失敗による「王都がボン!」に巻き込まれる可能性は非常に高くなる。



「あ、いえ、そう言う訳では!っ…!?」



 大きな身振りで慌てて否定しながら、自分が大きな声を出してしまった事に気がついたようだった。小さく一呼吸を挟んで、すぐに冷静を取り戻したアーサーは、改めてこちらを向き直った。



「勇者様、大変失礼いたしました。道中、少しお話させていただいても宜しいでしょうか。」

「もちろん。」

「ありがとうございます。それと、こちらもまた失礼ではあるのですが、気が動転していて順序を違えてしまっておりまして…勇者様の、お名前をお聞きしても?」



 …忘れてた、まだ名乗ってない。てっきり、このまま「勇者様」が続くかと思ってた。

 もしかしたら思ってたよりは、人間として扱ってくれるのだろうか?

 ほぼ強制的につれて来られたわけだし、かなり腹がたって視野が狭くなっていたのかもしれない。盲目的に、これから出会う人間は全て敵対者だと考えてた。

 名前を聞かれた事もそうだけど、姫様からは会って間もない私への敬意や気遣い等を感じる…

 手段にはツッコミ所も問題点も多いし、後で落ち着いてからたっぷり言ってやろうとは思うけど。誰だって自分の身は可愛いし、命の危機が迫れば冷静さを欠く事もある。

 最悪王城の人間は殲滅してでもとか、そうでなくても力ずくで出て行くのが手っ取り早いかと考えてたけど、もう少し歩み寄っても良いかも知れない。

 ミリアンからのお願いもある事だし。


 少しだけ元の名前を名乗る事を躊躇ったが、直ぐに適当な偽名が思い浮かぶわけでもない。

 本名で良いとして、じゃあ今度は、女神の姉を自称するのに、日本名のフルネームを先に名乗るのは悪手だろうか?と考え、そこで思考は一旦保留にした。取り敢えずは無難に、名前だけ名乗っておけば良いか。



「ああ、私の事はアイって呼んで。」

「はい。感謝いたします、勇者アイ様。アイ様とは歳の程も近いかと…。アーサーでもキーロでも、私の事はどうぞ気軽に御呼び下さいませ。それでは参りましょう。」



 勇者アイ様。その呼び方はやめて欲しい、と言う前にアーサー…


 …「キーロ」の方が可愛い。キーロと呼ぼう。


 キーロ姫は歩き始めてしまった為、一先ずむず痒い気持ちは胸の中にしまいこみ後を追う。

 だが歩き始めてすぐ、歩幅を緩めながらキーロはこちらを振り向いた。



「…本当に、申し訳ありません。不快な思いをされていらっしゃるかとは思うのですが…」



 チラッ、チラッ、と伺うように表情を、とりわけ目を気にしているようだ。


 ほうほう、成る程。王族貴族とやらがどれだけ感情を表に出すのかわからないけれど、つまりこんなに睨んで来るのはそれだけ不機嫌なのだろうとそう判断したわけだね。ふむふむ。確かに、不満も言いたい事も沢山あるのは事実。


 …ただ、貴方が今警戒しているのは、可愛い女の子との会話で割と緩んだ表情なんだけどね?アハハ。


 しかし美少女にこんな顔をさせているのはいただけない。女の子は笑顔が一番。なんとかしたいな。

 否定できない話題だけど、良いフォローもないし、ここはあえて正直に言ってみようか。



「この顔は、生まれつきなんだけどね。」

「………………え?」



 間。およそ8歩分。

 余程受け入れ難い事実だったようだ。

 それならばと、精一杯の笑顔で応えてみる。



「ね?」 ニヤァ



 こう言った類の、表情に関するあれやこれやは、日本で生活していた間は「人生とはこんな物だろう」と半ば諦めていた所がある。母に似て生まれ、その母から悪し様に忌避された凶悪な目つき。

 他人からの評価とか興味がないと言うか、いやさそもそも妹以外の人間に一切合財興味が沸かなかったと言うのも大きな原因ではあるのだが。

 ただ、異世界に来て、神様と出会い、人間をやめた現在の全能感のような物が、気分を高揚させているのか。新しい人生における未体験への挑戦を、そんな気持ちが促したのかもしれない。

 今までの自分ではありえない行動は、きっと新しい世界への扉を開く!そう、レッツ異世界デヴュー!



 それまでずっと優雅に保たれてきたキーロ姫の表情は崩れ、目は開ききっていた。まるで親友に裏切られた時のような、もしくは自分の失敗で肉親の命が危ぶまれた時の様な、そんな取り返しのつかない事象への後悔や絶望に塗れた表情。焦燥。動揺。

 顔や目はもはやこちらを見ておらず、空気中から必死に答えを探すかのようだ。

 今まで気にならなかった外野達の鎮痛な面持ちが視界の端で際立っている。



「ハ、ハハッ…!」



 しばらく後、返って来たのは乾いた笑いだけだった。




 ………赤い絨毯に抑制された足音だけが響く。

 ただし、実は私は現在裸足だ。

 …部屋に居たんだもん!




本日のミリアン一言劇場


「うわぁああああああ!?レプリカの間の私(大人Ver)完全再現じゃないですか!?え、誰が!?どの勇者が!!??きもちわるっ…!」

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