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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
18/162

第6眼 姫様は優雅に笑って下さい! の2つ目




 召喚された場所は、一方が下り階段で残りの三面の大部分が窓の並ぶとても明るい空間だった。カトリックの教会や神殿に通じる所がありつつ、西洋の王城や貴族亭にありそうなホールを混ぜたようなイメージか。


 三階分の高さがあるホールの二階に相当する階層。その中腹程、更に階段2段分程だけ高くなった円錐状ステージの上に私は立っていた。

 向かって前方、ステージを降りて数十歩程の距離に下り階段があり、その向こうは角度の関係で最後まで見えないが、どうやら長く続く廊下になっているようだった。それを遮るように、そして今にもステージに足をかけられそうな位置に、この世界のはじめての話し相手であるアーサー姫が立っている。


 振り返って後方。これまたステージの終端、人の形をしたモノがあった。顔を見上げる必要がある程の長身は、しかし恐怖を覚えるより速く、全く動かない無機質なそれが人間ではないとすぐに判別できた。

 七体の巨大フィギュアだ。

 中心にあるのは、覚えの有る印象を残しつつ、それに3か4程の年齢を重ねたのだろうと思われる美しい女性の似姿を模した像。そう、つい先ほど言葉を交わし、妹にすると宣言してきた女神、セステレス・ミリアン・ガーデゥーに似た女性だった。

 それを囲むように6体…向かって左に男神、右は女神が、全ての顔が見やすいように、縦横や高低をずらして配置されていた。

 仏像ではなく神や女神を象っているので、神像と言う方が正しいのだろう。しかし祖母の家やお寺にあった金属製の物や、家から少し離れた協会に見えていた白一色の物等、宗教的な像と言うのは殆どの場合単色なイメージが強いと言うのが本音だ。

 じっと見つめてもズレないように感じる程丁寧に彩色されたそれを見て、オタク文化発祥の地・大和の魂はフィギュアと言う言葉を強く主張していた。

 なお、できたてほやほやの我が愛すべき妹の身長を思い返して見ると、等身大を軽く越えており、神像の雰囲気通り3年程経過した場合で考えても、恐らく実際のそれより2倍から3倍程の大きさはあるように見えた。


 私はまずミリアンの似姿を、そして残りの6体も顔を覚えるように順に見て行った。


 ステンドグラス風の窓が天井と背面にのみあり、これが協会に近いイメージを持たせている。

 向かって背面、つまり神像達…の更に後ろにある階段は壁に突き当たり、そのまま左右に分かれて上っていく造りになっているのだが、階段より更にひと一人分ほど高い位置には中くらいの一つと、その脇に更にもう一回り小さい円形が左右に一つずつ、そして天井には一際大きい物が一つと、周りに小さい物が六つ取り囲む形で配置されていた。

 『ステンドグラス風』と一言で言っても、しかし一時も同じ配色のままで留まらない。窓はそれぞれに主だった色を持ちながらも、さながら虹が写る川の水面を丸く切り取って貼り付けたかと思ってしまうような、動き煌き続ける幻想的な物であった。

 背面と天井にある中でそれぞれ一番大きい円の色は共通しており、雑多な色の中では薄い青が一番多く見えるが、他の小さな窓は全て基本の色が同じ物はない。

 虹色の窓なんて、高価だどうだとかのレベルの話ではない。職人技とか言う領分は軽く飛び越えていた。どう考えたって魔法のかかった何某かだ。壊したら治すのに幾らかかるかわかった物ではない。


 その内一つ割ってみたいんだが。ダメ?残念。勿論、弁償などできる持ち合わせはない。


 …短くまとめると、このホール全体が宗教っぽい雰囲気がありつつ、もの凄ーくお金がかかっていそうな見た目なのだ。


 ステージの上に立って居るのは私一人、そして取り囲むように居る人々はほぼ全て二階部分にいる。

 因みに三階に相当する部分は、背面の階段から続く左右に別れた細い道が壁沿いぐるっと一周あるだけで、そこには何も置かれておらず人も居ない。厳かな上り階段から続く道なので、こちらもまた儀式的な意味を多分に含んでいる可能性もあるが…なんだか学校の体育館とかにある作業用通路にしか見えないのは、建築や宗教に関する専門的な知識が乏しい為だろうか。



「感謝いたします。それではご案内いたします。」



 二階部分ではまだ場所が足りなかったのか、1割より少し多い位の余った人員が、下り階段に溢れている状態だった。そこにアーサー・キーロと名乗った姫の一言と会釈に合わせたかのように、人垣の中に階段の下へと続く道ができる。


 アーサーは、ぱっと見パステル調の淡い黄色だった。無論、肌の色の話ではない。

 全身を包むのはパステルカラーのイエロー、所々にアソビを持たせてありゆったりとしたドレス。包み込むような優しいデザインとは裏腹に、首から胸元までだけを大きく開いた扇情的な物だった。長く伸びる髪も、ドレス程淡くはないがやはり目にまぶしくないパステルイエロー。

 気弱そうなとまでは言えないが、その表情は自らの位の高さを主張しない優しそうな印象で、肌は白くほっそりとしていて、陶器でできていると言われれば信じそうな程儚くも見えた。

 顔立ちは西洋風外国人に近くも遠くもなく、その中にアジアン…中でも柔和な顔を象徴している黒い瞳から始まる目鼻立ちは、見慣れた瞳の色からだろうか、日本人に通じる雰囲気があり親近感を感じた。


 つまり、もの凄く、かわいい。日本人濃い目のハーフとか、クォーターみたいなやつ。

 緩く暗い色の部屋着しか着ていない自分が目の前に居ると思うと涙が出てきそうだ。意味とか考えずに無条件で謝りたくなってくる。謝った挙句頬ずりしながらデートに誘って最終的にお持ち帰りしたくなってくる。


 ステージから降りる私をエスコートしようとしたのか、横にずれて少しだけ手を差し伸べてくれたが、直ぐに護衛らしき一人に窘められ、恥ずかしそうに手を引っ込めた。

 窘めた護衛らしき女性は、灰か銀かが悩ましい長い髪が兜の尾よりも長く伸びていた。

 こちらも姫と同じくどこか日本人風の雰囲気を感じる顔立ちをしており、私的感覚で見れば30才前後だろうか?顔にシワ等は見えない物の、姫や自分よりは確かに年上なのだとわかる、年齢を重ねた威厳のある表情をしている。

 帯剣しているが、今はその手に黒いマントを数枚かけられ塞がっている。その中から一枚を残して、全て近くに立っていたもう一人の護衛風の女性へ渡す。

 そして残り一枚を私の肩にかけ、簡単に留めてくれた。


 …その華麗な一連の動作は、薄い部屋着姿の私が見苦しくて隠したようにも見えた…

 

 アーサーは自分が手順を間違ったらしいと気がついたのだろう。

 それでも姫様の照れ隠しに笑う顔は愛らしく、仕草は控えめで上品だった。


 ああ!女神に続きこの美少女!ここは私のハーレムですか!?

 なんとかお持ち帰りできない?テイクアウトのサービスはどこに問い合わせれば良いのかしら?どなたかテイクアクト用の箱を下さいまし!

 あ!アイテムボックスがあるんだった!お手軽な上、足がつかない。ナイスアイディア!

 …勿論、テイクアウトの際は本人の同意を取り付けます。ウフフ、ウフフフフ。


 私がステージから降りた後に、姫と姫の周りに居た一名の銀髪の女性護衛が先立って歩き、階段を下り始める。残り二人が後方に付いて歩き始めた。


 まさか、逃走防止策ではなかろうか?いや、考えすぎか。

 少しばかり警戒は残すが、そこまで気にする必要もない。

 どちらかと言うと、私がわけもわからぬうちに何者かに暗殺等されないように護衛してくれているのだろう。

 戦力として呼んでおいて、使う前に問題があっちゃたまらないだろうしね。

 まあでも、こちとら、人間一人に不意打ちされて殺される程やわなステータスしてないんで!護衛とか要らないんですけどね!

 逆に私を警戒しているのであれば、私の後ろより姫の四方を固める方が良いだろう。というか、もう少し私と姫様を離しておいた方が安全だろう。姫様が。

 因みに、もう一人居た護衛は姫が歩き始めるより先に、残りのマントを持って急いで階段を下っていった。

 一瞬、「あれ?護衛が持ち場を、姫の傍を離れるんかーい!」と心の中でツッコミを入れたのは内緒だ。びっくりしたが、そもそも彼女が護衛だったのか、何人護衛が居るのかとか、誰が何を担当しているとか知らないし。

 それに例え今のが敵前逃亡か何かだったとしても、正直興味もないし。


 階段を下っている私は、半分以上おりて初めて、後ろからついてくる衣擦れのような音が『あ、マント引き摺ってる音だ』と気付いた。

 …マント初心者なんだから、後ろで見ていた護衛ちゃん達は、気をつかって教えてくれてもよかったのではなくって?

 このマント、マントにしては重厚で肌触りは滑らか。なんかやたら高そうなんですが。

 後から弁償しろとか言われても無理なんですが。


 角度の関係で見えなかった、一階に相当する長い長い廊下の先に扉があるのが見えて来た。階段を先に降りきっていたアーサー姫が立ち止まっており、先ほどのステージと同じく階段を下りる私へのエスコートか何かかと考えていると、二階に目線を向けながらもそちらには決して届かないような静かな声で問うてきた。



「それで、大変失礼かとは存じますが…他の勇者様は、まだ暫く後になるのでしょうか?」




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