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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
162/162

第41眼 貴女の武器を買って下さい! の3つ目


「………そういう事かよ、クソッ…!」



 言葉を理解するのに時間がかかったらしく、アハ体験みたいにゆっくりと表情が険しくなる。

 彼の眉間はどちらかと言うと皺が常在気味ではあったが、今は比べ物にならない。そこには明らかに、怒りの表情が浮かんでいた。



「回りくどい言い方しやがって…!その剣寄越せって、正々堂々言えねぇのかよ!!気に食わねぇ…!」

「違うんだけど」

「良いさくれてやる!!だがなぁ、正面切って言えねぇのはやましいからだろうが!違うか!?てめぇ自身卑怯だって自覚があるんだろ!?それで勇者名乗ろうたぁ恐れいったよ!」

「いやだから」

「その剣持ってとっとと出て行きやがれ!二度と客ヅラすんじゃねぇ!!」

「最初から買うって言ってんじゃんちょっと落ち着けよ。」

「は…!?」

「いやだからさ…最初に言ったじゃん?買うって。」

「………………ああ、そういう事かよ!」

「どういう事だよ…」



 一度呆けた顔。後のアハ体験二問目。さあ変わった所はどこでしょう?正解は、顔だよ!!!!

 っていうかそのフラグはさっき回収したんですが?もしかして突然村人Aの自覚が出て来て、同じセリフしか喋れない人になりました?何度話しかけても「そういう事かよ!」しか言わなくなりました?ループって怖いよね。



「とぼけやがって白々しい!あくまで自分の口じゃ言わねぇって腹だな、クソが!」



 なんか物凄い罵られているが、全く心当たりがない。

 ムースの顔も見てみたが、どうやらコレについては彼女もわからないらしい。



「タダ同然にして売れって言いたいんだろ!?ああそりゃそうだ、『売買しました』って事実さえ残れば、勇者の名前出して略奪まがいに持ってくよりずっとマシだろうからな!」

「…なるほど!」

「なるほどって、貴女…!」



 良い案だ。

 どちらにしろブツは私の手に入るが、勇者としての接収だとそのしわ寄せを被るのは結局のところカー・ラ・アスノートと言う国。例えば事前の同意や確認が無い状態で、私が民家から勝手に物を持ちだしたとしよう。盗られた側は「勇者だから黙認しただけだ」と言ってしまえば、勇者法とやらで国から補填される事になるだろう。

 それに対してあくまで売買として品物を受け取るこの方法だと、被害を被るのは無理やり売らされた相手だけだ。

 しかし、盗られるより売らされる方が損をするのだから普通に考えれば売る側が首を縦に振るわけがない。…となると。権力か暴力で…あるいは、「同意しなければお前の身分や命まで全てを接収して奴隷以下の扱いにしてやるぞ」とか言って脅すなどの方法をとって、とにかく首を縦に振らせれば良い。

 勇者法とやらの決定的な抜け穴に思える。

 次に機会があったらそうしてみよう。今回やるつもりはないけど。


 にしてもこの問答を聞くに、もしかしてこの店主は勇者法の事を知ってるんじゃないだろうか。

 一市民、一店主までが知っているのであれば、結構この世界…少なくともこの国では有名な法律なのかもしれない。


 まあ、知られていようが知られていなかろうが、私はもとよりそんなつもりはないのだが。



「勘違いしないで欲しいんだけど?買うって言ってるんだよ。」

「……買う?どういう意味だ…?」

「どういう意味も何もないよ。買う。普通に買う。それも言い値で買う。1エインでも1億エインでも、好きな額を言えって。その額で買いますって事。」

「………は?」

「何かわからない所ある?」

「………?」



 怒鳴られる事に快感を覚えた事は一度もないので静かになったのは心から嬉しい、嬉しいんだが…なんで伝わらないんだ?



「私、何か難しい事言ってる?」

「いいえ…ただ、かなりおかしな事を言っているとは思います。」

「おかしい?」

「言い値とかアホですか?吹っ掛けられるに決まってるでしょう?自分から弱みを見せてるようなもんじゃないですか。」

「そうだね?」

「自覚はあるんですか…」

「あ、一応今の手持ちは9000万までだから。それ以上ってなったら不足分取りに帰る事になるけどね。」

「そこまで言う必要あります!?」

「言っておいた方がスムーズだと思って。」

「………」



 何故不思議そうな顔をされるのか。私にはわからない。

 わかります、とつぶやいて頷くムース。店主を憐れむような表情をしているので、おそらくこの「わかる」は店主が理解できない事への共感なんだろう。納得いかない。



「…どういう意味だ?」

「だーかーらー!買うんだって!普通に買うの!」

「買う?」

「買う。」

「なんで?」

「弁償?かな。こんな風にしちゃったわけだし。」

「勇者なのに?」



 一般市民の中で勇者ってどういうイメージなんだよ…。



「迷惑かけたわけだし?これと勇者がどうのとかは関係ないじゃん?」

「…言い値って、どういう事だ?」

「あんたが言った値段で買うって事だよ。」

「なんでだ?」

「そりゃまあ、言った通り、弁償なわけだし。正当な値段がわからないからって言うか…。」

「待て…じゃあ、なんで…勇者だとか言い出したんだ…?」

「あのさー…話聞いてないの?値段に影響がありそうな情報は打ち明けて置いた方が良いかと思ったんだってば。」

「…あんたが勇者だって事と、その剣の値段が?どう関係してくる!?」

「そうだよ!その話だよ!」



 ああ、ようやくスタートラインに戻って来てくれたらしい…!



「おっさんの名誉のために、正当な評価をしておくことをオススメしたいって話だ。」

「俺の名誉?それはどういう…?」

「これが『勇者の聖剣』になるからだ。」

「おい!あ、いや…だからそれは、さっきも言ったが素材が良いだけの」

「この剣は!これから、本当に本物の、勇者の聖剣になる!…だから、注目を浴びる。」

「は!?いや、勇者が使えばどんな剣でも聖剣と呼ばれるってわけじゃないぞ…?」

「これは良い武器だよ。多分私はコイツを使い続ける。いつまでかはわからないけどね。元聖剣で、勇者の愛剣…これってもう殆ど勇者の聖剣じゃん。」



 …いや、正しくは『勇者の剣』かもしれないけど。

 思わず握りこんでいた元聖剣。思いきり握っていたにも関わらず、未だに形を保っている剣。これは間違いなく、私の武器になる。

 実剣なんて手にした事も無かった私の手によくなじむこの剣が。まるで、体の延長のように感じるこの剣が、私の相棒である事を、私は半ば確信していた。



「まあ、良い。それはなんとなくわかった…だが、なんで俺の名誉なんて話に…飛びすぎだろ?」

「私少なくとも、今この国一、時の人な自覚はあるわけよ。今は王様の所にお世話になってるから、こんなの使ってたら嫌でも目に付くだろうし。調べられたら入手経路なんて、隠しててもばれるだろうね。私も聞かれたら答えるだろうし、聞かれなくともあれだけ目立ってたんだもん。」

「…いや、それはその剣が有名になるってだけの話だろ?」

「でもきっと、いずれこの剣の価値についても…幾らで買ったか広まるよ?」

「どうして!?」

「私は長くても…多分数年もすれば、ここから居なくなる。」



 そうなんですか!?と驚くムース。

 何に驚いているんだ?コイツは。私がいずれこの世界に骨を埋めるとでも思っていたのか?


 ミリアンちゃんの所に行くのに武器なんかいらないし、地球に持っていけたって銃刀法があるので使い道は皆無。ましてや未知の魔法金属が使われている聖剣コレなんかは、処理に困るアイテムの代表だろう。

 


「その時多分この剣は国にでも寄付するんじゃないかな?場合によっては国宝にでもなりそうだよね。そうでなくとも量産できる物なら欲しいと、幾らで買った物なのかと、気になる人はごまんと出てくるだろうね。」

「アンタが答えなきゃ良いだけだろ!?」

「所がそうもいかない。ツガルの、お国の兵隊さんが、アガリの7割持ってくんだろう?」

「あ…」

「幾らで売ったかなんて、それこそこの国の人間が調べれば一発でしょ?私が隠す事に、大した意味はないよ。だから、そこまで興味を持たれたらもう、いくらで売買されたかまでたどり着くのは時間の問題だろうね。」

「それは、確かに、そうだが…」

「さて、後はオープンザプライスっ!…と行きたい所だが、その前に軽く二つ程アドバイスがあります。聞かなくても良いし、聞いた上で自己判断すれば良いと思うけど…どうする?聞く?」

「…聞こう。」

「よし来た。1つ目、言い値とは言ったけど、いろんな人がこの値段に注目するかもしれないんだ。当然見た人が悪印象を持たないような安すぎず高すぎずが良いと思うけど…」

「高すぎるのが悪いのはわかるが、安すぎて悪印象なんて…あるか?」

「勇者への賄賂と思われる可能性が高いね。もしくは勇者に脅されたと。相手が勇者じゃなくとも権力には勝てない奴だと思われれば最後、卑しい輩(ハイエナ)共の餌食…なんて。考えすぎかもしれないけど、私は用心のしすぎとは思わないよ。」

「……。」

「具体的には、7000万か…最初の5000万位が一番良いと思うけどね。」

「5…?何でそれが一番なんだ?状況もあってああは言ってたが、5は安すぎる…安過ぎるのは駄目だって言ったのはあんただろ。」

「程度の問題だよ。1万とか10万なら明らかに何かあるって誰でも思う。でも5000万だと?それこそ、さっき自分で言ってたじゃん。三流の目利きならその位の値を付けてもおかしくないって。」

「言ったがよぉ…それだとただ舐められるだけだろ?」

「目が効かないけど商売っ気はある、と思われれば?そんな緩い目利きの緩いお店なら、自分も面倒無しにただただ美味しいヒロイモノができるかもしれない。なーんて考える輩も少なくないと思うけど。」

「そうか?」

「まあ、そうじゃなくても純粋に、良い物を安くしているだけに見えなくもない。どっちにしろ、少しだけ安すぎる位が一番購買意欲をそそるんじゃないかなと。」

「はぁ…」

「ま、あくまで一意見だけどね。」



 30万円のカメラが1万円で売ってたら、故障を警戒する。月12万の部屋が2万なら事故物件を警戒する。得を求めるけど、得過ぎる事には警戒を示すのが人間って物だろうし。


 ただ、この辺についてはあまり食いつきが良くない。まあ、私の話は地球の知識と私の主観が入っているから、何処でも誰でも通用すると断言はできないしね。



「で、もう一つ。1億は、おすすめしない。」

「どうして?」

「…正直に言えば、私の手持ちじゃ足りなくなるってのもあるけどね。」

「じゃあ本命の理由は。」

「巫女様の持ち物とか言うアレ。結局ムースの想像だけでしょ?」

「そうだが…」

「確実じゃない情報を元に値段を吊り上げると、もし間違ってた時の印象は最悪だよね。詐欺師に騙されたかのようにも見える。」

「それはっ…!そう、だな…」



 素直か!

 やはりこのオッサン、話がわかる。



「その辺は裏がとれないなら、純粋に商品への評価だけで値段設定する方が良いと思うよ。まあ、これも一意見だけど。…さて。以上を踏まえた上でお値段をどうぞ。」

「……」

「あ、勿論1億以上でも、なんなら2億でも3億でも良いからね。」



 あんまり高くなる場合は、カー・ラ・アスノートの財政にも迷惑をかけかねないから自分でも頑張るつもりだけど。まあでも、少しくらいは使ってしまってもバチはあたらないだろう。遊びとかで浪費するならまだしも、今回は自分の身を守る為の武器の購入と言えなくもないので、まあ経費だ。経費の内だ。



「…5000万だ。」

「ふーん?良いの?」

「変な勇者に出会えた記念だ。面白い話も聞けたしな。」

「そう。なら、それで。」

「なあ、嬢ちゃん。」

「…」

「…おい?」

「あ、はい…?」



 嬢ちゃん!?私が、嬢ちゃん?私の事だよね!?


 二歩近付いて、真剣な顔をさらにしかめさせたかと思うと、男は頭を下げた。



「さっきは大声出して悪かった。」

「ええ!?いや良いよ?目の前で一攫千金事業をぶち壊したらそりゃ誰だって怒りもするさ。おっさんは悪くない。」

「おっさんは、やめてくれ…メリーラムだ。メリーラム・ネット。よくメリーとかラムとか呼ばれる、好きに呼べ。」



 め…メリーさん!?ラム、さん…

 ダメだ!どっちにしても真顔で呼べそうにない…!

 笑うな、我慢だ。



「………おっさんはおっさんかな。」

「そこは名前で呼べよ…」



 すみません、私にはハードルが高い。このオッサンを「メリーさん」呼びするのだってなんだか笑えて来るが、もう一つに関しては…もはや語るまい。

 早々に話題を変えなければ。



「…値下げ交渉するみたいだから言わなかったけどさ。エビでタイを釣る、って言って伝わるかな?手に入れた利益はただ守る一択じゃない。エビを使ってタイを釣るみたいに、小さい利益を手放す事でより大きな利益を掴む…って意味なんだけど。この剣の売り上げなんて幾ら上げても所詮手に入るのはその3割じゃん?ならこれをエサにして、群がってくる肥え太った豚共を逆に食い物にするのも悪くないと思うわけだよ。」

「いや、そりゃ儲け話になるかもしれんがな…貴族相手なんて、ホントは怖くて勘弁して欲しいんだぞ?」

「そりゃあ…」



 …貴方の所のお得意様も、一応貴族なのは忘れないであげてね。


 それにしても、日本のことわざ、わかるんだ。

 …いや、対応したことわざみたいなのに変換されてるだけかもしれない。断定は禁物だ。


 アイテムボックスからお金を取り出して渡す。私は数えられないけど、限界近くまで詰まっている小さな袋が5つ。あれで5000万エインらしい。



「…まあ、アンタの所にタイが舞い込むように、エビ役頑張りますよ。」

「…変な奴だな、お前。」

「良く言われる。自覚は無いけど。さて、じゃあここからが本番。」

「はあ!?まだ何かあるのか!?」

「おっさんに迷惑をかけた分の迷惑料がまだだ。」

「いやちゃんと剣は買っただろ!?あれで終わりじゃないのか!?」

「それはおっさんに出るはずだった損害が相殺されただけ。利益はプラスマイナス0だ。でも、迷惑をかけたのはまた別。だから、一つ何かおっさんの為になる事をしたい。何かない?」

「いや、そんな急に言われてもなぁ…」

「ここよりもっといい立地の広い店をプレゼントー…とかできる?ムース。」

「確認しますが、恐らくは可能でしょう。空き地が無ければ不要な店を一つ二つ潰せば」

「待て!!待てよ!いらねぇ!ここは親父から継いだ土地だ、離れる気はねぇよ!」

「ああ、そうか。」



 自営業してるんだから、もっと良い条件の場所なら少なからず嬉しいだろうと思ったんだが…浅はかだったか。場所に愛着を持つという感覚はわからないが、理解不能なわけではない。

 なんでもかんでもプレゼントすればいいというわけではないのは「国、あげます」と言われて身をもって知って居るつもりだったが、いざ逆の立場になるとどうにも失念してしまっていたらしい。反省反省。



「じゃあ何か望みみたいなのはある?できればお金以外が良いけど、最悪なんでも良いよ。」



 委託販売品を安くしてもらう代わりに、店主に金を握らせた…なんて話になったら、あまり良い印象にはならないだろう。勿論ここに居る人間が喋らなければそうそうバレる事はないだろうけど、可能なら違う方法が良いとは思う。



「いや良い。」

「それじゃあ私の気が済まないんだよ。なんか望みとか、願望みたいなのとか無いの?」

「願望…?…そうだな。一回、金も時間も気にせずに、最高の剣を打ってみてぇなんて考えた事はあるが…生活もあるからな。夢みたいなもんだ。」

「よし採用。費用と時間は青天井、別途完成報酬ありで一本剣を打ってくれ。オーケー?」

「…ばっ!青天井って!そんな簡単にお前!大体今一本買ったばかりだろうが!」

「うん。だからムースの為の剣を作ってよ。」

「え?」

「…え?」



 だから、なんで君も驚くのだいムースさん。



「欲しかった聖剣をこんな風にしちゃたわけですし。代わりにはなんないけど、一応さ。」

「いや、私にはコレがありますので!必要ありません!」

「あるのに聖剣買おうとしてたの誰だよ。」

「あ、うぅ…」

「それにさ。私の騎士様への就任祝いがまだだったからね。」

「!!」

「遅くなったが、受け取っておくれよ。」



 ムースがキーロの相談役ではなくなった事はまだ公ではないので、近付いたついでに一応小声で伝えた。


 胴鎧を小突くつもりが、この人外してたんだった。なので、反動はコツンではなくポヨンでした。


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