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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
159/162

第40眼 その剣に触らないで下さぁい!!!!!! の3つ目



 ああ…話題が途切れ空気が重い。



「まだ来ないね、鍵。」

「…ああ、この騒ぎだ。店閉めててもおかしくねぇ。諦めて帰ったらどうだ?」



 無言のムースは剣を収納しているケースに音をたててへばりつく。離れないという意思表示だろう。



「…もう少しここで待つよ。」

「お、おう…」

「っていうか、後回しにするぞって言ってたけど全然人来ないね。」

「そりゃそうだろうな。土壇場に武器屋駆け込むなんざ三流だ。」

「…じゃあ人来ないって事?」

「まともな奴はな。」

「…なのに門前払いしようとしたの?ひねくれてんなぁ。」

「ちげぇよ!ハンターにゃ武器が要る、それが三流だろうがな!なのに見ろ、他が閉めちまってんだ。俺も閉めたら、誰かが困るかもしれねぇだろ。」

「はぁ、成程ね…。」



 まるで天邪鬼。委託販売に、非常時の開店。みんながやらない事を、自分はやる。ひねくれてるとは思うが、そこにはちゃんと意味はある。意味があるなら、ひねくれてたって良いじゃない?



「おーい、遅くなったなぁ。」



 グラサンに白髭白髪、カラフルな帽子、…と言うか、帽子と色が違うだけで全身似たようなデザイン。

 要するに。ヤバイジジイが現れた。

 手に持っている割れたカードのような物を振って見せている。

 


「よう爺さん。無理させたか?」

「良い良い、店番見つけるのにちっとかかっただけだって。にしてももう出るのか、入れ食いたあ結構な事だ。」

「まともな客じゃあねぇがな。ほら、銀ジャリだよ。」

「銀ジャリって…おー!!おーおー、こりゃあベッピンさんになって!じゃあなんだ、白銀ハクギン様の復活って事かい!?」

「ハ…あの、その呼び方はちょっと…それに、戻るつもりは今の所ありませんよ。」

「…え、じゃあもしかしてまだ続いてるのかい?」

「なんで皆私がクビになると…!?」



 …どうやらこの爺もムースの知り合いらしい。

 大丈夫こいつは間違ってもイケメンわくでもイケオジ枠でもない。お近づきになるにしても、近所のお節介おじさん枠が関の山だ。

 所で…



「その白銀ハクギンって、何?」

「「…」」



 おっさん二人が凍り付いた。

 ムースは頭を抱えて嫌そうな顔。



「あんた、まさかシロガネ姉妹の名前も知らないでこの人と組んでんのかい!?」

「シロガネ姉妹?」

「やめましょうこの話は!もう鍵も届いたんですから!」



 ずいと乗り出して語り始めるカラフル爺を、ムースが制止する。…余程聞かれたくない内容なのか。



「カー・ラ・アスノートの、いやさアオモリを代表する、強く!可憐な!白銀髪のハンター姉妹!姉の白金、妹の白銀…二人揃ってシロガネ姉妹ってね!」

「やめて下さい、もう10年前の話じゃないですか!って言うか揃った事ないんですからね!?」

「何言ってんだか、今もハンター達の話のタネは、勇者か魔王かシロガネ姉妹!色あせない生きる伝説だよ…」



 あ、わかった!これはムースが若かりし頃の恥ずかしい話だ!

 と言うか、妹が白銀って事は…ムースは妹だったんだ。なんだよ、早く言えよー。ムースが今までの3倍輝いて見えるよ!今なら友達にもなれる気がする!



「伝説ってどんな!?」

「食いつかないで下さいあんたの正体もバラしますよ!?」

「どうぞご勝手に!」

「くぅっ…!!貴方も!自分の店はどうした!早く帰りなさい!」

「おお、そうだったそうだった!白銀様に嫌われたくはないからねぇ。お暇させて貰うよ~。」



 爺の癖に足取りは軽快である。

 息荒く爺を見送るムース。



「って言うかあれは誰ですか!」

「知らない人なの!?」

「知りませんよあんなの!」



 めっちゃ知り合いテイストで話してたじゃん嘘だろ!?



「忘れたのか!?寂れた魔法屋だよ行った事あるだろ、『最後の鏃』って名前の。」

「知りませんよ!行ってたって覚えてないですよ、名前もアレも!なんか知ってる風に話しかけられたから合わせてただけです!」

「はー…ソレ爺さんには言うなよ、かなりのファンなんだから。」

「約束はできません!」



 爺が変なのか、ムースが薄情なのか…それは誰にもわからない。



「そんな事よりほら、鍵を早く!」

「うるっせぇな!もう開いたよ!」

「では早速!」



 話をしながら、既に開けていたようだ。ケース前を譲られたムースが、聖剣を取り出す。

 表面を虹が生き物のように動く美しい剣は、銀髪の彼女に良く似合っていた。



「…先程の評価、改めました。」

「へぇ、その心は?」

「予想よりかなり重い。信じられないですが…柄以外は全てオリハルコン?しかも、どれだけ溜まっているか…いや………。それより、解せないのは…充填型だと言いましたよね?」

「ああ。最初に触ってから、明らかに軽くなってる…いずれ落ち着くいてくれるだろうとは思ってるがな。聖魔力の供給元になるような魔石は恐らく、どこにもない…と思ったが、何がおかしい?」



 聖魔力っ…!聖なのか魔なのかどっちかにしろよ。



「オリハルコン製の魔剣だと常用型が基本なのですが…充填型だと魔力切れで強度が落ちるでしょう?これだけ細身なら作製コンセプトは、なるべく魔力が切れない常用型が前提のはず。でなければ強度の為に手っ取り早く大型にするとか…手間ですが、アダマンタイトを入れるとか。費用対効果は最悪なので机上の空論でしょうが…とにかくオリハルコンで充填型なんて現実的じゃないんですよ。普通に考えれば外部的に…鞘は?」

「受け取ったのは本体だけだ。見てないが、話じゃ魔石らしい物はついて無かったとさ。」

「となると充填型の線が濃厚ですか…違和感しかないですが。それに、直ぐ気が付くほど重量が変わるとなると、何かしら魔力を消費する機構が備わっていそうですが…」

「それだけがどうにもなぁ…」



 また専門的な話になってしまった。お前は剣のスペシャリストかと。いや、そうなんだろうけど。

 ムースがさっき剣を地面に置きたがらなかったのはもしや、大切な剣だったとかではなく、ただ剣が好きなだけ…?


 剣全体を見ていたムースだが、手に持っていた握り部分で目を止めた。柄は他と色が違うが、そこは特に目を引く赤色だ。

 驚きからか観察の為か、細めていた目を突如見開く。



「柄か?…そこだけ違うが、なんなんだ?」

「…………ヒヒイロカネですか!?」



 …なんか新しい単語が出た。聞いた事あるような無いような…ヒヒイロカネ…狒々色金?語感が日本語寄りなのが不穏だ。



「ヒヒイロカネって…魔道具に使うあれだろ?色が違うだろ。」

「いえ、恐らく…間違いないです。魔力伝導時には変色するんですよ。ここから魔力が漏れしてます…でもなんだこの、無駄な……これまさか…」

「どう思う?」

「…はぁ……そもそも最初に聞くべきでした…この剣、どういう経緯でここに来たんですか。」



 …さっき巨壁ツガルからの委託販売って言ってたよね。



「ああ。2・3日前の話だが…身の丈に合わない長剣背負った女のガキが二人、保護を求めて壁にたどり着いたそうな。ゼム無し、金無し、身元不明。おまけにこいつら、自称勇者ってんだから笑っちまう。」

「自称勇者の、少女二人…」



 自称勇者。

 そう言えば急に増えたって話だったっけ。



「年頃のガキだってんだ、大方スライム漁りにでも来たんじゃねぇの?」

「殺しますよ?」

「悪ぃ!冗談だよ二度と言わねぇ!!」

「そうですか、別に良いんですよ?聖剣で串焼きが作れるか試してみるのも一興かと思っていたので、どうぞ遠慮なく。」

「言う相手を間違えたって。怖ぇ怖ぇ…。でもよ、なんで壁の外に居たのかも喋らなかったって話だったからよ。…面倒事に首突っ込む気はねぇしな。当面の生活費を渡してやった代わりに受け取ったのがこの『勇者シオンの聖剣』だとさ。俺は最初、鑑定だけ頼まれたんだが…結果売る事になった。売れば3割儲け、残りは壁に返して、さあどうなるやら。」

「……これの代わりに生活費って…その二人には、幾ら渡したんです?」

「さあ?ただ、売れるなら100万以上で、気持ち早めに売ってくれって言われたよ。価値がわからなかったってのもあるだろうが…どっちかってーと、質屋より足元見られたんじゃねぇかなぁ。可哀想に。」

「そうですか…まあ一部同意できる所はありますけど…結論から言いますが、これ恐らく聖剣じゃないですね。レプリカ…のような物、かと。」

「やっぱお前もそう思うか…。」



 レプリカって事は、聖剣の偽物?店主はそれで納得しているようだけど。



「握り以外の柄も含めて…信じられないですが、全てオリハルコン…だと思います。ここまで高価な素材で聖剣のレプリカを使っておいて魔石一つ無いというのは、普通あり得ません。手入れ不足と言った事は撤回します、が…ただこの剣、聖剣を模して作ったと言うより、もっと違う…素材だけは立派ですが、聖剣が何たるかを知らないまま素人が作ったようなチグハグさがあります。このままだとレプリカとしても並以下の、失敗作と言わざるを得ません。」



 酷い言われようだ。

 これは金額に大きな影響を及ぼしそうだが…果たして鑑定や如何に!



「そうなんだよなぁ。聖剣の場合はそのまま売らない予定だったらしいんだが…思ったまま言ったら、うちで売る事になった。うまい話だけどよ…。だが変な話でもある。強力な聖魔力は、確かにあるのに。」



 聖剣らしい部分も多々あるが、聖剣らしからぬ部分も多い。

 話を聞くに、鑑定がまだ完了していなかったというのも本当らしい。

 …自称勇者の、勇者シオンが使っていたと言われる、聖剣と断言できない代物。って事はあの注意書き、本当に本当の事をそのまま書いてあるのか。なら寧ろ、勇者の聖剣だと思わせるような売り文句の方は問題な気もするが…



「と言うか…寧ろ、何故これを5000万で売ろうとしていたのか、の方が気になりますが?」

「…販売戦略だよ。」

「だから、何故そこまで早く売りたかったのかを聞いているんです。」

「簡単だ、売ると決めたのは俺じゃねぇから今なら俺に責任はねぇ!だが逆に言えば鶴の一声でおじゃんになる商売さ…これだけの品、いつ手のひら返されるかわかったもんじゃねぇしな。この騒ぎも見方によっちゃ好機!鼻が効かない奴の背伸び位には高く見えて、目が効く奴には良い値に見える。最悪、4までは下げるつもりだけどな。」

「それにしても安すぎると言うか…そうですね、私ならこれに…7000万から。上は1億と見ます。」

「お、億!?そこまでか!?」

「わざとではないんですね…。持ち主に一人だけ心当たりがあります。それが理由です。」

「持ち主って…いや、それにしたって、どう関係してくる?売っちまえば同じだろ。」

「…一つだけ、仮説があります。本来魔剣としては燃費が悪いはずのヒヒイロカネを、それも無意味な握りに使われている理由、それは恐らく…この剣の所有者が強力な聖魔力の担い手だったと言う事ではないかと。」

「…?」

「握ったまま聖魔力を流せるでしょう?」

「持ち主が魔石代わりって事か!?」

「ええ。その場合全て合点がいきます。ただそれだけの力を使える、まして少女となると…もしかしたら持ち主は、巫女様では?」

「…んな、な馬鹿な!巫女は自分の国から出ねぇって話だろ?それがなんでうちの、しかもこんな場所に!」

「さあ?断言もできませんし…ただ、身元不明自称勇者と言う部分も説明できるかと…。我が国にこれだけの武具が確認されていたら、家宝として家名と共に有名になっているでしょう。それだけの品だと思いますが、私は一度たりとも聞いた事が無い…。逆に言えば、他国から持ち込まれた可能性が高いわけです。それでもやはり、聞いた事はありませんが。その上、これを手放してでも身分を隠してその場を逃れたかったとなると……隠したい事実があると言っているような物でしょう?それがもし秘密裏に潜入した敵国の首魁だったなら…?この剣を手放す方がマシだと考えて…と考えてもおかしくはないでしょう。」「まさか…」

「このタイミングだとやはり…勇者召喚が関係してくるんでしょうね。まあ理由はともかく、あの国が秘蔵していた高性能なレプリカの聖剣…それも恐らく、巫女様専用の特殊仕様。いつか買い戻しに来る可能性だって…となれば、ほら?億の値がついてもおかしくない、好事家垂涎の品だと思いませんか?」

「…」



 バカだバカだと言われて本気出したのか、ムースが頭良く見えるぞ!?


 改めて聖剣を見つめた店主の男は、咳払いをして満面の笑みになる。



「よし、鑑定の礼だ。まけにまけて8000万でどうだ!」

「はぁ!?販売戦略とか言ってた口で今更ですか!?礼だと言うならせめて7より下にするのが人ってものでしょうが!って言うか5000でしょう!」

「馬鹿か、あれ聞いて7切るとか頭どうかしてんじゃねぇのか!?」

「どうかしてるのはあなたですよ!勉強代です、5です5!」



 値段交渉に入った所を見ると、どうやら買う事は決定事項らしい。


 …最初に見た時から興味はあったけど、それが1億の剣と言われるとなんだか浮ついた気持ちになる。

 美術館に展示してある普段触れない美術品が家にあるような?触るのは怖いけど触りたい。そんな感じ。


 -触りますか?触りませんか?

 勿論触るよね!



「ムース、私もそれ見ても良い?」

「ああ、どうぞ?気を付けて下さい、見た目よりかなり重いですから。」



 私はこの選択を強く…強く強く後悔する。


 刹那の後の既視。

 破裂音。閃光。

 否。

 雷鳴轟く。稲光る。

 地獄の顕現。空間が、乱暴に雑紙でも破くかのように、引き裂かれる。


 伸ばした手が触れると同時に、けたたましい音と光。手や頬に走る、微かに痺れるような痛み。忘れるのも難しい、つい先ほどの出来事の…いや、それどころではない。それ以上の、切迫。

 何かが、弾け飛んだ。…何か?間違いなく、金属が。粉々に。

 道行く人も、近隣の商人も。ムースも。店主も。数えきれない視線が、私に集まる。


 …でも、違うんだ。違うはずだ。

 ほら、さっきと違ってこの手にはちゃんと、金属の感触がある。

 だから大丈夫。

 今のはただの、ものすごく大げさな静電気。きっとそうだ。

 だから怖くない、見るのは何も怖くない。私はちゃんと、右手に剣を持っている…


 そこには…?

 何も無かった。いや。何を見る事もできなかった。

 漆黒の闇。あったのは、剣の形をした闇。

 べた塗りされた暗黒。切り抜かれた空間。虚無、虚空。黒い、穴。


 一瞬で止んだ雷の後の静寂。



 「……………………1億って…何ケタだっけ。」



 数分にも感じるような、短くて長い沈黙の後。ようやく私が声に出せたのは…

 悲しいかな。精一杯の現実逃避だった。

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