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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
157/162

第40眼 その剣に触らないで下さぁい!!!!!! の1つ目



「馬鹿かテメェは!」



 私が改めて言ったわけはない。

 店の中、カウンターに座って作業をしていた男だ。


 そうですその馬鹿にもっと言ってやってください。 


 中肉長背、無精ひげを生やした男が、入店一番に叫んだムースと同じだけの声量で返す。

 恐らく店主なのだろう無精ひげの男は、カウンター横を大回りしてズンズンと近づいて来る。

 ムースも止まらずに入って行くので、二人はゴング直後のボクサーみたいに距離を詰める。



「オレが今店開けてんのはなあ!武器屋が店閉めちまうと、ハンターが得物に困っちまうからだろうがなぁ!?」

「良い心がけです」

「デスじゃねぇデスじゃ偉そうに!わかってんなら帰れ!」

「それじゃああの聖剣が買えないじゃないですか!」

「非常時に!骨董品買いにくるテメェみてぇな馬鹿に今使う時間はねぇっつってんだよ!!今は帰れよ!騒ぎが済んだらいくらでも売ってやっから!」

「次来た時に売れてしまってたらどうするんですか!?」

「どうもしねぇよ!そん時ゃ運が無かったと思って諦めな!」

「そんな無慈悲な!ならせめて予約だけでもさせて下さい!」

「同じだ馬ぁ鹿!!売ってる時間ねぇっつってんのになんで予約受ける時間があると思うんだよアホか!」



 ムースが男につかみかかるが、男はその手を振りほどいて、逆に上から頭を鷲掴み。その手を払いまた詰め寄る。その拍子に顔から飛んだ仮面を片手に持ったまま、だ。それはまるでバトルアニメの1シーンのようだ。


 狭い店内で大立ち回りを繰り広げないでいただきたい。他人のフリをしたくなる。



「おいアンタ!アンタパーティーだろ、黙って見てないで止めてくれよ!」



 ここで私に振るのか。

 …正確に言えばパーティーじゃないと思うけど…まあ一緒に旅してるんだから同じようなもんか。それに、それを言った所でどうにもならんか。



「ムースもう行こう?先に宿取るんじゃなかったの?」

「一期一会なんですよ!行って戻って来る間に売れてしまうかも知れないんですよ!」

「…無理だわこれ。あのさ、ここで断ってる方が時間使ってると思うし、ちょっと見せてあげてくれない?それで落ち着くかもしれないし。」



 これが表の怪しい『勇者の聖剣』についての話じゃ無ければ、「見せてあげれば」じゃなくて「買わせてあげれば」になるんだけどね。

 剣を見せて貰う準備をしている間に、何とかムースを説得できない物か。あんな変な物買わせるのはなぁ…。私の財布が痛まないとしても、流石に見過ごせない。


 だが、何かに思い当たったようにムースの顔を確めるように見ながら黙ってしまっていた。



「それで良いです触らせて下さい!少しだけでも!少しだけで良いですから!」



 聞きようによってはかなりヤバイムースのセリフは完全無視。

 顔だけではなく髪、そして腰の剣までを見た男が、もう一度彼女の顔を見る。

 理解が半分、驚きが半分。10年来の旧友を偶然街で見つけた時のような、つまりはそんな顔。



「…おい、お前銀ジャリか?」

「そう言うの後で良いですから!とにかく聖剣アレを!」

「ちったぁ懐かしがれよ!」



 ほんとだよ。

 この店主とは仲良くなれそうな気がする。

 そしてやはりこの二人、知り合いらしい。



「お久しぶりです元気です。はい、それであの剣は幾らなんですか!?」

「…今まさにって所で騒ぎになったんだよ…もういいわかった触らせてやる。表出」

「わかりました!」



 既に、出口。



「おい、他の客が来たらテメェら後回しだからな!幾ら時間がかかろうがだ!」

「わかってますわかってます!」

「ったく、んっとに変わらねぇ…」



 小言を言いながらカウンターの下を漁る男。

 店内に居てもやる事がないから私も外へ。



「おい。」

「なんですか?」

「アレも知り合い?」

「ええ…この店も、私のお気に入りと言うか…良い店ですよ、店主の態度以外。」



 そう言って笑うムースの顔は、少し馬鹿にしているような、でもどこか楽しそうで。今までで一番自然な笑顔に見えた。



「元カレ?」

「「なんでそうなる」んですか!!」

「いや、意味深な笑顔だったからてっきり。」



 まさか店の中からも否定の声が飛んでくるとは思わなかった。

 少し声を抑えて話した方が良さそうだ。


 短く縛ってある灰色のウェーブがかかった髪、目はすわり気味だし汚れているがそこそこ男前な顔、細く長いのに筋肉質に見える腕。格好こそヒドイが、しっかり見るとそこそこの男前である。年が上過ぎて私的にはナシだが、10年15年も若ければ掛け値なしに良い男に見えただろう。

 つまりは、ムースがハンターだった頃の話であり、彼女がアオモリに居た頃の話であり、お気に入りの店だと言っていたここへ足繁く通っていた頃のお話。

 そこに、あれだけお互いを雑に話し合える間柄。勘繰るのも無理からぬ事だと思って頂きたい。


 って言うかなんなの。ムースはイケメンの剣士と知り合いで?イケメンだった武器屋と知り合いで?もしかしてこの女、十数年前は職業『乙女ゲー主人公』でもやってたんじゃなかろうか。

 しかし誰とも結ばれないBADENDを迎え独身でキーロ姫に仕える事に…。もしくは姫様を攻略した隠しTRUEENDの可能性も捨てきれない…!?


 …って言うかムースって結婚してないよね?確認した事ないけど…。

 ああ、ダメだダメだ。また悪い癖が出ている。今はそんな事どうでも良いんだった。


 私は声を殺してムースに助言する。



「所で、この店本当に大丈夫?怪しくてしょうがないんだけど、特にあの勇者の聖剣とか…」

「何を言っているんですかオリハルコン製の剣ですよ!?勇者の剣ではなかったとしても良い物に決まっているではないですか!それも聖剣!怪しい所など何一つありません!」

「そういう事じゃなくてさぁ…」



 頼むから私が小声で言った意味を理解して欲しい。これじゃあ店の中までまる聞こえではないか。



「じゃあどういう事ですか!?」

「いや、そもそもアレ本当にオリハルコンなの?」



 オリハルコンの名前は私も聞いた事がある。

 超硬度のファンタジー金属としてよく知られている…が、地球にもその昔実在していたのではと言われている謎金属…だったはずだ。

 この世界でどういう扱いを受けているかはわからないが、その辺にポロポロ落ちているとは考え難い。少なくとも普通の金属よりかなり価値は高いはずだ。

 つまり。こんな小さな店に置いてるのはどう考えてもおかしいと思う。



「どう見たってオリハルコンじゃないですか!私の目に狂いはありません!」



 狂ってるし曇ってると思う。

 …しかし私も強く反論できない。

 確かに私はあんなプリズム現象を起こす金属見た事が無い。というかもう金属なのかどうか私では判別ができない。特殊な加工を施したガラス細工だと言われても多分信じると思う。それも、これだけ自信満々に間違いないと断言されると…知識のない身としては、これ以上何も言えなくなる。



「いや、なんか色々怪しい注意書きがあるしさ。」

「怪しい注意書き?」

「ほら、それ。」



 私は通販番組よろしく責任回避に全生命を賭けたような注釈がびっちり書き込まれた紙を指さす。



「…どこが怪しいのかわかりませんが…。」



 馬鹿には伝わらないのか!!!

 異世界だからなのかムースが世界が異なるレベルの馬鹿なのか、誰か私に教えて下さい。


 私の説得は意味をなさず、残念ながらタイムアップ。店内から男が出て来た。



「店閉めてなきゃあ、10分以内には鍵が来るぞ。で、誰の何が怪しいって?」



 そりゃ店内まで全部聞こえてましたよね。



「ムースはお気に入りの店って言ってるけどさぁ、騙されてるんじゃないかって心配なわけだよ。一応旅仲間なもんで。」

「だから騙すって何の話だよ、人聞きの悪い。」

「その聖剣の謳い文句。」

「…何言ってんだコイツ?」

「さぁ…」



 おかしいのは私!?

 いや、ここで折れたら負けだ!



「じゃあ聞くけど、あの剣だいたいどれくらいの値段なのよ。」

「はぁ?あー…まだ決めかねてたがな。今なら5000万って所か。」

「ごせんっ!?」



 高っ…いや、安いの!?どっち!?

 通貨の単位はエイン。1エインが1円くらいだっけ?まあ実はまだ、細かい確認はしてないけど。


 それを聞いた途端、聖剣が入れられているガラスケースに張り付くムース。怖い、目が怖い。



「高ふぎまふ。」

「良いから一回離れろ。」

「高すぎます。オリハルコンである事を加味しても状態が悪すぎる。それに使用の形跡がある?飾りではなく実用に耐えうるという意味では評価したい所ですが正しく手入れされているようにはとても見えません、多分余程価値の理解できない馬鹿が所持していたのでしょう。最悪オリハルコン以外の、柄の部品は全て交換する必要もあるかもしれませんが聖剣である事を考慮すると…魔石が見当たらない事から柄の中に組み込まれているのでは?修理できる技術がそもそも現代に残っているかわかりませんので、場合によっては観賞用芸術品として扱われるかと思われます。修繕できない可能性も考えれば素材がオリハルコン、加工済み一品物と言う事で売値が2…聖剣としての価値を考えれば倍はしかるべきでしょうがその程度。3.5(サンゴー)から、行って4が精々でしょう。5では明らかに高すぎます。」

「残念だが聖剣としての力は制限付きでな。恐らくだが…特大の一発、それから先はただの剣型オリハルコンだ。」

「なら尚の事高すぎるでしょうに!」



 なになになになになに。やめて、突然なんでも鑑定女しちゃうムースさんやめてついていけない!



「その一発が並じゃねぇって事だよ、手持ちじゃ測定機ぶっちぎって判別不能だ。それに、今ならっつったろ?もともと高めで置いて、売れなかったら直ぐ下げる予定なんだよ。だが今なら龍王討伐志願の勇者様が買ってってくれるかもしれねぇじゃねぇか。5000だね。」

「龍相手ですよ!?それを、明らかに整備不良で、まして初めて触る一度きりの聖剣で!?命知らずも良い所です、やめて下さい!」

「んなら買わなきゃ良いだけの話だろ!」

「値段に信頼を寄せる馬鹿も居ると言っている!」

「待て!」



 別に細かい値段を知りたいわけじゃあないんだ。これ以上長引くのはごめん被る。



「まあ待て、大体わかった。めっちゃ高い事がわかればそれでいい。で、なんでこんな小さくてぼろっちい店にこんなもんが置いてある?本物か疑う気持ちもわかるっしょ。」

「小さくてぼろくて悪かったなあ!!ったく…まあそうだな。これぁツガルの兵隊さんからの委託販売だよ。」

「ツガル?」



 ここがアオモリなんだし、どこか場所の名前か?と思ったが。



「壁です。」

「壁?」

「あれですよ。」



 大きな声を出して、逆に落ち着いたらしいムース。

 指さす先は、あの巨壁。



 ツガル。

 ……ああー、なるほど。青森と北海道の間にある海の名前、津軽つがる海峡だっけ。

 ホッカイドーとアオモリを隔てている壁だから、名前がツガル…なんかもう、ツッコミする気力も起きない。

 あるがままを受け入れよう。


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