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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
155/162

第39眼 青森の街並を歩いて下さい! の2つ目

 雷神さんが何処かへ消えていったあと。

 その後ろ姿を追うように、アオモリ側から来る人々とすれ違う。50人…よりは少ないのかな?

 歩く者走る者、馬に乗る者走竜に乗る者。そのほとんどが武器を携えていた。ローブを着た魔導士らしき者もいるが。そしてまたその大半が、空の様子を伺っている。



「あれ、もしかして全部ハンター?」

「恐らく、殆どが。」

「はぁー…何かあったのかねぇ。」

「そうだと思います。まあ、アオモリに着けばわかるでしょう。」



 因みに、走竜はエリマキトカゲモデル以外の種類もいた。どの種類にしろ爬虫類系なのは変わらないけど。


 遠くからだと集団にも見えたが、1人から6人までのグループが各々の速度で移動している。

 殆どが慌ただしくすれ違う中、まあまあアオモリに近付いて来ていた私達に接近する影があった。三人グループ。長い黒髪のイケメン…剣士?鼠色ローブのイカツイ顔の男魔導士と、露出度高めな鎧を着た短い桃色ツインテ女の……が、こいつは何も持って居ない。職業的な物がわからん。


 どうやらムースの知り合いらしい。少しだけ時間を貰えますか、と言って、ムースの足取が速足に変わる。

 他と違い落ち着いて歩いていた三人は、声が届く辺りまで来ると立ち止まった。



「久しぶりだな。噂は聞いているぞ、相談役様。」

「ええ、こちらこそ。」



 知人が自分の知らない人と親し気に話している現場に居合わせるのはどうにも居心地が悪い。

 どうやら向こうの残り二人も同じような立場らしいが、桃髪ツインテールは私の事を汚い物でも見るかのように、顔をしかめて視線をそらした。



「…一人か?」



 おい黒髪の。お前はどこをどう見て一人だと判断したのか。私の姿が人間に見えてないのか?



「はい。」



 あれえええええ?ムースさん!?私は!?私いつのまに透明人間になってたの!?

 コイツどういうつもりだ、突然私の事を居ない者扱いしやがって…



「ふむ…なら今回の件ではないのか。」

「何かあったのですか?」

「ドラゴンだ。」

「こちらに!?」



 ドラゴン?

 …さっき見たばっかりだよな、と思ったけど…ムースの反応からするとどうやら違うらしい。


 

「それもロードだ、と言ったら?」

ロード!?そんな馬鹿な!!確かですか!?」

「ギルドではその可能性が高いと。…確証はないらしいが。」

「なのにこの人数ですか!?」

「いや、ドラゴンは確定だ。飛影の目撃者多数。定かじゃないのは種類と、後は場所だな。」



 王?何、なんかヤバイ感じなの?

 全く話についていけない。

 まあ、ムースがわかってくれてるなら良いか。後からムースに解説を頼もう。



「場所も?…どういう事ですか?目撃者が居るんじゃ…」

「どういうわけか此方こちら彼方あちら、それぞれで見た者が居るって話だ。アオモリ内では報告例が無いのに、だ。普通に考えればどちらかが間違い。考えたくないケースなら、両方正しいか、両方間違いか、だな。」

龍滅者ドラゴンスレイヤーは?」

「声はかかっているらしいがタイミングが悪くてな。壁の向こうにもう一人。…俺も辞退したい所なんだがな…龍王の相手になるのなんて、白金様位だろ?…呼べないのか?」

「あの人は…無理、ですよ…私には。」

「そうか…。所でその格好…私用か?まさか、御付きをクビに…」

「違いますよ!縁起でもない…ええと、別件ですが一応、任務…みたいな物?です。」

「こんな時にか…災難だな。」

「そのままお返ししますよ。どうぞご無事で。」

「安全祈願ならドラゴン様に言ってくれ。まあ本当に王なら俺は、祈るより先に逃げるがね。ああ、俺達も0区に入った…のは、前に言ったか?」

「いいえ。でも流石ですね。いずれ、とは思っていましたが。」

「今の寝床は?」

「いや、見ての通り、今来た所なんです。」

「…は?ああ…なんだ、そうか?そうか…。何があったかは知らんが、こちらもゆっくり聞いてる余裕迄はなくてな。」

「そう見えます。」

「引き留めて悪かった、ひとまず街で休むと良い。それと、時間ができたら来い。大したもてなしもできないがな…ツレ一人程度なら歓迎できるぞ。ああ、あと、あまーい菓子くらいなら出せるしな?」

「子ども扱いはやめてください、もうそんな年では…」

「ハッハッハ!悪い悪い、酒の方なら切らした事はないから心配するな!」

「いや、そう言う意味では…もう。それに、あまりゆっくりできる立場でもないので難しいかと…お気遣いなく。」

「そうか?まあ、これで最後でもないか…いや、これを今生の別れにしない為に、気を引き締めて行くとしよう。ではな。」

「ええ。では、お気をつけて。」



 去っていく三人。

 最後までツインテはチラチラと睨んで来たが、いったいなんだというのだろうか。

 因みにずっと聞いていたが、私の記憶に間違いがなければお互いの名前を一度も言わずに会話していた気がする…昔馴染みなのは間違いなさそうだが、どういう関係なんだこの二人。


 あの黒髪ロングの男。知り合いなのは重々承知だが、それでもムースに「知り合い?」と問うてしまう。意味の無い事を聞いたな、と思いつつまた歩き始める。



「ええ、昔の…ハンター時代の知り合いです。」

「ふーん。」

「…興味ないなら聞かないでください…。」



 ええ、全く仰る通りだと思います。



「所でさっきの話、殆どわからなかったんだけど。」

「ああ…」



 ムースが順に説明をしてくれた。


 龍。飛龍、ドラゴン。

 走竜と祖先を同じくする魔獣。お決まりと言うかなんというか、セステレスの魔物中でも最強の部類らしい。


 …って言うかドラゴンと同じって事は、走竜も魔獣なんだよね?魔獣を狩るはずのハンターがそれに乗るってのはなんか違和感があるんだけど…。



「そういや、あの走竜。種族がファーストってなってたけど、あれってどういう事?」

「…すみません、もう一度お願いします。」

「…?種族が『走竜』じゃなくて『ファースト』になってたんだよ。」

「すみません、先程から言っているその、妙な訛りのある…ハー…なんたらというのは神語ですか?」

「え!?」

「アイ様は時折…ああ、トーキヨ等もたまに訛りのある発音をされますよね?神語の響きに似ているなとは思っていたのですが、どうにも聞きなれない音で…」

「いや、うん…。仕方ない、知らない物は。仕方ない。」



 あ、そうか。ファーストは英語で、地球の言葉だから…いや。いやいやいや。そうじゃないだろう。いままで英語禁止生活なんてしてなかったからね私。だって普通に英単語だって喋ってたはずだけどなんでこれだけ通じないの?

 未だに翻訳ルールは謎が多い。


 ファーストと言う呼び名は全く通じないらしい。そしてエリマキトカゲも含め、他の種類も全て『走竜』と言う扱いなのだそうだ。…細かい種族名をムースが覚えていないだけと言う可能性もあり得るが。

 まあ、私も聞いて覚えるかと言われれば微妙だし。今はとりあえず良いか。

 大事なのはドラゴンの情報だろう。



「ドラゴンは本来は、ホッカイドーの最奥の巣から大きく離れる事はありません。」

ドラゴンの巣か!」

「なんでうれしそうなんですか!?」

「いや、なんでもないです続けて下さい。」

「…森の奥へ入ったのならいざ知らず、それ以外で目撃される事は非常に稀な存在です。それも、ギルドに接近を捕捉されるよりも早く街の近くでと言うだけでも驚く話なのに…このあたり、アオモリより南で目撃証言が上がるなんて前代未聞ですよ。」

「とにかく珍しい事態ってのはわかった。」



 ドラゴンはどうやら相当な引きこもりらしい。



ロード、とカインドが言っていましたが…ドラゴンの中には勇者以外の人目に触れた事が無い、龍王ドラゴンロードと呼ばれる存在が居ると言われています。魔王がまだ健在だった頃から生きている最古の龍であり、龍の長でもある、地上最強の生命。」

「勇者以外見た事が無い?」

「はい。」

「…もう死んでるんじゃなくて?」

「生きていると言われていますよ。ドラゴンの言葉を信じるのなら、ですが。」

「ドラゴンの言葉…喋れるんだ。」

龍王ドラゴンロードを含む長寿なドラゴンは知性も高く、言葉を交わす事ができると言われています。…私は直接会った事は無いんですが。」



 ドラゴンが人間の言葉を喋れる、と言うのもファンタジーあるあるだ。特に驚いたりはしない。

 まあ、『知性が高い』=『人間の言葉が話せる』という解釈の仕方は、人間本意な気がしてどうにも納得いかないけど。この理論で言えば、人間は豚の言葉を理解できないが、ブタからすれば「ブタ語を理解できない人間は低知能な生物」と言う事になる。こんな暴論を人間だけが許されるのは如何なものか。

 ドラゴンが本当に人間の言葉を話す事ができると言うのなら…恐らくそのドラゴンは、人間と同程度の知能を持って人間と過ごして来たか、もしくは人間よりも遥かに知能が高い生命なのだろう。

 何はともあれ、知性も力も人間を超える最強生物、それがドラゴンと言う事らしい。

 ドラゴンに負けないようなら、ひとまずこの世界に脅威はないと考えて良いだろう。スキルと言う神の力を除けば、だけどね。



「それにしても、本当にアイ様はおかしな方ですね…」

「なんだよ突然。喧嘩なら買うぞ?」

「違いますよ!ドラゴンは知っているのにその生態は全くと言って良い程知らない。馬はわかるのに走竜には驚く…知識が偏り過ぎていて、どこをどう説明すれば良いのやら、測りかねるんです…」

「んー…正直言えば何にも知らないんだけどねぇ。この世界の事は。」

「…まあ、そう言うつもりで説明する事にしますね。」



 ドラゴンの対処は、ハンターの中でも実力が認められており、かつ龍を単独で討伐した経験がある者…龍滅者ドラゴンスレイヤーの称号をギルドから与えられた猛者がするのは常識なのだという。

 アオモリのハンターズギルドでは、現役ハンターの龍滅者が5人居るらしい。ただ残念ながらほぼ出払っている為、現在残っているのは2人。先程ムースに話しかけて来た黒髪ロングが、どうやらその龍滅者の1人だとか。


 黒髪ロングはムースのハンター時代の先輩。それもどうやら王族分家筋の一つ、つまりはムースとも遠縁にあたる貴族家の人間らしい。

 名は『シードール・カイ・インド』。ただし本人は、自らを『カインド』と呼ぶ事を強要してくる、ムースとしてはフレンドリー過ぎて少々ウザイ先輩なのだそうだ。



「私より10以上は年上だったと記憶しているのですが…あの頃と全く見た目が変わっていなくて、正直驚きました。」

「………いつの話?」

「10年以上前ですよ。えっと…最初に会ったのが13…?いや、もっと前…?」

「マジかよ…」



 10年以上前からあの見た目!?ギリギリ20代から30歳くらいに見えたのに…ムースと同い年だと言われても納得してしまっただろう。長い黒髪のせいもあってそう見えるのかもしれないが、それでも皺らしい皺の一つもなかったように見えた…。この世界の人間はみんな見た目で年齢がわかりにくい。


 顔が良くて、若く見えて、王族筋で、あの気さくさで、実力者?優良物件指数がロイヤルストレートフラッシュしていやがる…

 恐ろしい程モテそうだ、と思った所で桃色ツインテールの顔が思い浮かんだ。

 ああなるほど、私は牽制されていたらしい。


 気付けばアオモリの門が目の前だ。


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