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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
154/162

第39眼 青森の街並を歩いて下さい! の1つ目



「………あれがアオモリか。」

「………」



 トーキヨ発、至アオモリ。

 トーホクドーと呼ばれる長い長い道のりは、馬車で5日か6日はかかると言われた距離だが、半日以下でほぼ移動し終えた私達は、まだ日が高いうちにアオモリが見える場所まで来ていた。

 アオモリが『見える』と言ったが、距離はまだかなりある。一番最初に確認できたのは、やはり常識外れな大きさの巨壁だった。今の所セステレスで見た都市は例外なく高い囲い壁があるが、アオモリの壁は私の常識を遥かに超えるサイズだった。

 いや、勿論トーキヨで見たサイズの都街壁とやらも私は初めて見るサイズではあったけれど、漫画やアニメなどではあの程度のサイズはまだあったと思う。ギリギリ。アオモリは、本当に、全くレベルが違う。


 山。白い山。

 それが初めてアオモリを見た、私の感想。

 見え始めたそれは、背景の一部に良く馴染んだ山か何かかと思っていた。

 しかし、近付くとそれは明らかに山ではない何かだと理解できた。いいや、あれが壁である事を理解した。そして、それが街を覆う壁ではないと言う事も。

 そう、それはトーホクドーからアオモリへの道に立ちふさがった壁ではない。アオモリより手前にも確かに壁はあるが、それはトーキヨの街を覆うそれの半分もない、常識有るサイズの物だった。

 見えていた壁があるのはその更に向こう。アオモリと、ホッカイドーの間。…人間の住む都市と、魔の森を隔てるための物だった。その向こうにあるはずの魔の森とやらは木の一本葉の一枚すら見えない。全てを隠す山のような壁。

 くすんでいるせいで灰鼠気味に見えなくもないが、恐らく白。白い一枚のそれは、遠くから見るとまるで巻物に張り付けられた白紙そのままだ。白紙は視界に入る範囲全てを遮るようにあった。左を見ても、右を見ても、その壁はほぼ一定の高さでどこまでも続いている。

 高さも、横幅も。私の中の壁や建物の常識を軽くぶち壊すサイズだ。


 そんな白い巨壁を見て感慨に耽る私の横で、ムースは地面に蹲っている。


 前半は思うようにいかなかったアイテムボックスでの移動も、後半になって時間対移動効率を劇的ビフォーアフターさせる事に成功した。ただそれ自体は良かったのだが、どうやらムースはそれが大層気に入らなかったらしい。移動中絶えず叫び通しでバテたようだ。体力の無駄使いだからやめておけと言ったのに、全く理解できない…



「ちょっとー、動いてよー。」

「…………」

「歩かないんならもう一回行くか?」

「あ゛あ゛あああ!!!シィイイ!!!」

「冗談だよー…。でも歩かないんなら私が運ぶしかないじゃん。」



 もはや完全に獣の威嚇である。


 アイテムボックス移動を中断したのは、繰り返すうちにムースの目が死に初めていたから、ではない。目的地近くなったからというのもあるが、アオモリ方面から多数の人間が向かって来ているからだ。

 一番近い馬に乗った人影でもまだかなり距離があるが、もう一度アイテムボックス移動をすれば確実に相手の視界に捕捉される。

 残りは歩こう、と思った途端にこれである。

 ムースは不動の決意表明の如く地面に座り込んでいた。最悪首の後ろでも掴んで引っ張ろうと思ったが、幸いな事にまだ明るいうちにアオモリが見えたのだ。焦る必要も無いと言えばないので、少し休む事にした。


 急かすつもりはなかったが黙っているのも気まずい。「あの人影が近くまできたら私が運ぶ。」「怪しまれるくらいならアイテムボックスに入って貰うから」等々、譲歩をいくつか口にしながらのんびりしていると、しばらくして先頭がこちらを見つけたらしい。明らかにその一頭と一人はこちらに向かって走ってきていた。

 その途中で私は気付く。

 馬じゃない。



「なんだあれ!?」



 人が乗っているから馬だと思い込んでいたら、フォルムがまるで違う。と言うか、まず二本足で走ってる。




「………ああ、なんだ。走竜そうりゅうですよ。」

「…竜!!??」



 徐々に落ち着いてきていたムースが私の見ていた方向をチラと見やりながら、重苦しくも投げやりな声をあげる。そして溜息と共に、ゆっくりと立ち上がった。


 なんですか?え、竜!?あれが竜!?


 言われてみれば納得でき…なくは、ない…?本物を見た事はないが、再現CG等で見る恐竜に近しい物がある。あると言えばあるのだが…あれを竜と呼ぶには、かなり抵抗がある。私の記憶の中で一番近い生き物の名前を挙げるとすれば、全私が満場一致でこう答える。


 あれは、エリマキトカゲだ。人が乗れるサイズの。


 頭を突き出し後ろ二本足で走る前傾姿勢。少し穏やかそうに見える顔。人が乗りやすい位置にある背中の凹凸。アレをそのまま大きくしたのとはまた少し違う気はするが、それ以外の部分はほぼエリマキトカゲだ。胴以外が細長い爬虫類らしいフォルムの中で、首に備わっている体のサイズと合わせて巨大化したエリが物凄く主張している。


 馬のそれとは違う手綱…って言うかもう手綱じゃない。バイクのハンドルの方が近い。それがエリマキトカゲのエリの間からちらちら見えている。ツッコミどころが多すぎる。

 なんで馬が居るのにわざわざエリマキトカゲに乗るの!?そのハンドルみたいなのなんなの!?これがこの世界の竜なの!?ってかドラゴンって空飛ぶんじゃないの!?


 私が混乱している間にみるみる近付いてきたエリマキドラゴン。

 「正体バレるような事は言うなよ」と、小さな声でムースには釘をさす。

 近くで止まったエリマキは、上に乗った人物が見えるように頭を下げた。



 とりあえず鑑定。

 …ステータスはムース以下。The 凡夫。雑魚か。

 スキルも…あるにはある。が、『雷の刃』とか言ういかにも~な名前だ。

 案の定スキルの効果を見れば、「刃の有る武具を振るう時、雷が迸る。」とか書いてある。

 中二病かと。雷か迸っちゃったからなんだというのかと。そして何より、そんなの魔法で再現できそうなのにそのスキルに使い道あるの?と心から言いたい残念さ。

 総評。脅威たりえない。以上。


 エリマキドラゴンさんにもステータスが表示されたのは驚いたが、素早さが突出している以外はこちらも人と大差ない。スキルもない。

 種族の表示が、[走竜]ではなく[ファースト]となっているのが気になった位だ。


 エリマキドラゴンの上でどこか困惑している様子だった男、通称雑魚さん。

 黒い金属鎧をほぼ全身に着込んでいるが、特に上半身に防御力を集中させたらしい。胸板や、肩や腕等がゴツイ。アクセントなのだろうか、黄色い線が左右対称に上から下へと流れている。

 彼がこちらを睨んで大声で話しかけてくる。

 


「貴様ら何者だ!」

「…は?」

「ここで何をしていたと聞いている!」



 いや全然一度も聞いていねぇよ馬鹿か。

 最初は「何者だ」としか聞いてなかっただろうが。何が「聞いている!」だよお前いつ聞いたんだよ。2秒前の自分の発言すら忘れたのかコイツ。

 態度も悪いが、今の二言だけで頭の悪さも滲み出た。



「あー…私」

「待て。」



 律儀に説明をはじめようとしたムースだが、止めた。

 目には目を、歯には歯を。敵意には敵意で返すのが私の流儀だ。



「人に質問するならまず自分からだろ。まず自分から、ここに来た目的を言えって話だろ。」

「なん…だとっ!?」

「なんだとじゃねぇよ理解できなかったのか?お前は何しにここに来たんだよ。ほら、名前も名乗れよ。さあ。」

「馬鹿にしてっ!とっと言え!何様のつもりかしらんが容赦せんぞ!」



 みるみる怒りの表情に変わっていく。



「何様だってのはこっちのセリフだと思うけど?私達から見りゃ、どこの誰ともわからん高圧的でガラの悪い怪しい男に理由もわからず絡まれてるわけなんだがあ?ああ、ガラだけじゃなくて頭も悪そうだけど。」

「っ!!黙っていれば何処までも!」

「なーにが黙っていればだよ黙ってなかっただろお前やっぱ頭悪いな。」



 お前ちゃんとずっと喋ってたよどういう事だよ。

 翻訳機能の故障でないなら、雑魚さんはどうやら国語力が壊滅的らしい。性格の矯正も含めて1歳児くらいからやり直す事を強くオススメしたい。



「うるさい!」

「いや、あの!もう少し、他の言い方とかありません?」

「え?アホの人は頭が悪いからオブラートに包んじゃ伝わんないと思ったんだけど、これだけ丁寧に言ってもご理解いただけないと?成程確かに、いやあアホのお相手は疲れますわねえ奥さん?」

「誰が奥さんですか…」

「もう我慢ならん…!私を雷刃カスタードと知っての事なら、度胸だけは認めてやろう!それとも、今からでも謝罪するなら、受け入れてやらん…事もっ…?くぅ…!ええいグルー!いい加減動け!」



 そうそうに叫び散らかしてたこの人は果たしていつどのタイミングで我慢していたんだろう?って言うか名前よ。今朝の失敗があるから、ステータスを見ても名前は意識しないようにしてたけど、名乗られるとやっぱり気になる。カスタードって…まあもうどうでもいいけれど。

 グルーとは、きっとエリマキ君の事だろう。雑魚さんは背負っていた槍を右手に持って臨戦態勢に入ったようだが、肝心のエリマキ君は雑魚さんが左手でハンドルをどう動かしても動かない。ずっと頭を下げた姿勢のままこちらを見ている。


 得物を抜いたならもう敵だ。殺しても良いかな?…と思ったが大事な事を一つ忘れていた。



「ねえ、そう言えばこのゼムだかって録画機能みたいなのついてたよねたしか。襲ってきた輩は殺しても大丈夫?」

「っ!?」



 雑魚さん、改め雷神さん?は、そう言ってムースに示した仮ゼムを見てひどく驚いている。


 アイテムボックス瞬間移動を連発、そのうえ偽名で登録したのに本名をムースが呼びまくる。人に見せられないような事を散々しでかした後に気づいてしまったが…これまでの事は言うなら私が私的に秘密にしたかった事だ。偽名の登録も、やめた方が良いとは言われたものの、特にお咎めがあるとは言っていなかったし。

 ただこれをつけた状態で、正当防衛とは言え殺人を行っても良い物かどうか。悩ましい。



「あー…いや、殺すのは流石にやめておいた方が良いと思いますよ。ア…貴女が、罪に問われる事はないですが、詳しく調査はされるでしょうし。そもそもあまり印象は良くならないと思います。」

「そうか。わかった。」



 雷神さんはと言えば、私の仮ゼムを見てから急に喋らなくなった。相変わらず睨んできてはいるんだけど。

 なんだコイツ。ゼムがあったら都合が悪いのか?映像が記録されるから?いや、でもよく見れば雷神さんも首から似たような物ぶら下げてるんですけど。似たようなものと言うか、ほぼ同じ物と言うか。

 ………いや、だとしたらコイツもしかして。



「あいつもハンター?」

「さっき名乗っていたじゃないですか…」

「…そうだっけ?」



 ダメだ。興味が無かったからか全く記憶にない。

 だとすると、どういう事だ?こちらがハンター、もしくはハンター見習いだと都合が悪いって事なのか?

 まあ、こっちには関係ないけど。

 道端で突然因縁ふっかけてくるような輩だ。殺人にならない程度なら多少痛めつけてもかまわんだろう。最悪相手の足を潰すと言う意味では、あのエリマキ君を先に討つか。殺したいわけではないが、乗せた主人が悪かったと思って成仏してくれる事を祈ろう。



「おい!?グルー!?やめろ、何処へ行く!」



 しかし残念ながらと言えば良いのか、エリマキ君は突如雷神さんを乗せて走り出す。もしあれが私の敵意を見抜いての行動なら、かなり優秀だ。巨大エリマキトカゲはかなり頭が良いのかもしれない。



「おい貴様ら!この辺りで…何か見たか!?」

「ん?ああ、凄い物見たよ。」

「な!?そ…おいグルー止まれ!ええい!」

「まあ何を見たかは教えないけどね!」

「きっさまああああああああああ!!」



 止まらないエリマキ君に運ばれ急速に離れながらも喋っていた雷神なんだかさん。そこまでして何か聞きたかったらしいが、残念でした。

 まあ、私も時間の無駄をしなくて済んだと思えば僥倖か。



「…アイ様。すごい物って?」

「え?…物凄い馬鹿が居た。ムースも見たでしょ?」

「…」

「ほら、行こう?」

「はい。」



 結局彼の目的は不明のままだった。




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