第二章EX 第38.5眼 移動効率の本末転倒(ロストリーズン) の2つ目
壁だ。また壁がある。まだイーグルアイを使った超遠視でなければ見えない程遠いが、一目瞭然の出鱈目な高さ。
ムース曰く、アオモリはまだ先だと言う。
改めて確認しても、やはりアオモリはまだ先。
「あ、ちょっと待って下さい。この辺だと…トーキヨの外壁ですね。多分。」
「………は!?何どういう事、トーキョーはもうとっくに出ただろ!?」
え、じゃあもしかして…方角、間違えた?途中から思いっきりUターンしてたの!?
この辺だと、って事は気付いてたの!?早く言ってよー!!
「アイ様こそ何を…いえ…すみませんが、もしや都街壁と外壁をご存知ではないですか?」
「何、それ。なんの話?」
「ですよね。すみません、説明が足りず。この先を暫く行くと、トーキヨの外壁があります。ひとまずその前までお願いできますか?」
「…外壁?」
「はい。つまり、外壁までが王都トーキヨで、そこから先はトーホク地方に入ります。」
「Oh…」
東京を抜けると、そこは東北でした…んなわけあるかい!!関東どうなったし!!東京と東北は語感が似てても同列に扱う単語じゃねぇよ!?どんだけ適当に名前つけてんだよ!
…いや、ムースに言っても仕方ないから声には出さないんだけどね?
って言うかそもそもね。
どんだけでかいんだよ、王都!
都街壁?と呼ばれた巨壁の内側だって、あの大きな壁があるおかげで全容がわかりやすくなっているだけで、本来人間が一望しただけでは把握できない程巨大な物だった。当然東京都だって俯瞰で見た事は無いから確実な事は言えないけど、トーキヨの方が大きいと言われれば信じてしまうだろう。少なくとも「城下街」なんて単語で想像でに収まる代物じゃなかった。
で、そこを出てアイテムボックスで何度も空間跳躍した先に現れた壁。そこまでが全部トーキヨ?冗談だろ。ここまでが関東って事で良いじゃないか。今度地図詳しく見せろよ、ツッコミのがオンパレードどころかエレクトリカルパレード始まるからな!自分で言ってても意味わかんないけど!
三式跳躍に換算して、壁までおおよそ1.5回プラスアルファ。1.5回で留めて、後は歩きで近くまで。…そりゃ、突然目の前の何もない空間からアイテムボックスでこんにちわするわけにはいかないからね?
しかし、成程。
私はこの1.5回に天啓の如き閃きを得た。
トーキヨの外壁と呼ばれるここは、近付いてみれば王都の壁程の高さはなかった。代わりに、壁の上に等間隔に並ぶ尖塔が見えており、これが壁の高さに上乗せされてとんでもない高さになって居る。更にそれが、果てしなく続いていくのだ。左は森の奥まで。右は視界が途切れるその向こうまで。
尖塔は後でムースに聞いた所、魔導士の侵入を極力妨害する目的の物らしい、と言う事だけは理解できた。仕組みも含めて多分ムースから説明された…と思うんだが、如何せんムースも良くわかっていないみたいで説明が説明の体をなしていなかった。まあ最低限の情報は聞けたし、私としても別にそれで構わないから良いのだが。
特筆すべき事はもう一つある。
この壁を通過する為のやり取りが、長い。ある程度は納得できるんだけど、あの王都の立派な壁から外に出るのが簡単だったせいで、ここでの手続きが難航するのに少々疑問を覚えた。
どうやら、ここでのやり取りはもともとかなり長いのが当たり前で、それをムースが王族の権力をちらつかせてゴリ押ししようとした所、『なんで都街壁から馬も無いのにこんなに早く到着できるんだ?偽造だろ!』と言う疑惑をかけられた結果、余計に長くなってしまったとの事だった。
なんのかんのとした挙句、結局はムースの事を知る人物が到着して事なきを得たのだが、多分1時間前後はここで待たされた。
まあ、やりとりは全部ムースに任せるんだけどね。私は同じ過ちは二度繰り返さない。そうです、私はムースに運ばれている荷物なのです。荷物は余計な事を喋らない。
そして今は更に壁の向こう。おいでませトーホク、と言うわけだ。いや、トーホクに来たのは私の方だけども。
後はまた同じ作業をして、真っ直ぐアオモリへ進むだけ…だが。
再度壁を背に歩き始めた私は、頭の中で組み立てた新しい理論を早く実践したいと言う想いでいっぱいだった。
それ即ち、三式跳躍に代わる新たな…………でもないけど。別のもっと高効率な移動方法。
発展版…ではない。いや、寧ろ逆か。ダウングレード版。言うなら、邪眼二点式空間跳躍法。二式跳躍。